第13話
「…そういや話が途中で折れちまったな。ルー、部屋の件はいいか?」
「あ、うん」
「なら、アンジュんとこに行くぞ。一応ルーの意見も聞きたいって言ってたから」
「うん、わかった」
ルー達は散らばっている髪の片づけをし、アンジュ達の所へと向かった。
その向かう先々でギルドの面々と会い、ルーを気遣う言葉を掛けられる。
それに申し訳なく、でもとても嬉しい気持ちで大丈夫だと笑顔で返していく。
皆の優しさにルーはじんわりと暖かなものを感じていた。
だが、ふと目に入ったものによってそれは一瞬で消えてしまう。
ぴたりと歩みが止まったルー。
その前方に現れたのは、ヴァンだった。
ヴァンはルーの存在に気付き近づいてくる。
ばくばくと心臓の音をたてるルー。
ヴァンはルーの目の前で立ち止まると頭を下げた。
「…貴殿には、他の世界の私が申し訳ないことをした。謝罪の余地さえない。」
「い、いえ…俺の方こそ、突然取り乱して、す、みませんでした…」
ルーは俯き青ざめながら震える声で謝罪する。
この人はあのヴァン師匠ではない。
そうだとわかっているのに、なかなか体の震えが止まらない。
目を合わせられない。
ぎゅっと手を握り、逃げ出したい衝動を必死に抑え込む。
そんなルーをヴァンはじっと見据えながら口を開く。
「いや、無理もない。今は難しいかもしれないが、徐々に慣れてもらえたらと思う」
「…、…は…」
俯いた状態で震える声ではいと言いかけたルーの前にすっと影が入り込む。
ルーは恐る恐る顔をあげると、そこにはルーを自分の背で庇う様にユーリが立ちふさがていた。
「…ユー、リ…?」
「…見てわかんねぇのか。ルーがどれだけ心に傷を負わされたのか。…そう簡単に払拭できるもんじゃねぇんだよ」
強い怒気を含む低い声で吐き捨てるようにユーリは言葉をヴァンにぶつける。
その目はとても冷たく、これ以上近づくなと語っており、それを受けたヴァンは目を閉じる。
「…確かに、その通りだ。返す言葉もない」
ヴァンはルーに一礼するなり、その場から離れる。
ユーリはヴァンの姿が見なくなった後、背後を振り返る。
そこには今だ真っ青になって怯えているルーの姿があり、ユーリはそっとその冷たくなった頬に手をあて、顔を覗き込む。
「…大丈夫か?」
「…う、ん……ユーリ…あの…」
「無理すんな。…俺がついてっから」
ぽんぽんと頭を撫でるその暖かな手の安心感に、ルーは自分自身を情けないと思いながらも小さく頷いた。
徐々にルーの震えが落ち着き始めた頃、どこからともなく他のギルドの仲間たちが姿を現し、ルーと楽しそうに会話をし始める。
先程とは変わって笑顔を浮かべて話しているルーを少しだけ離れた所で見守りつつ、ユーリは酷く冷たい目でヴァンのいた方を見ていた。
「…ユーリ」
背後から咎めるような声を受け、ユーリは僅かに息をつく。
そして背後に目をやるとそこには真っ直ぐにユーリを見るフレンがいた。
「…わーってるよ。あいつはルーの世界のヴァンじゃない。…けど、可能性がないわけじゃない。そう警戒する奴がいたって仕方ねえだろ。」
譲るつもりはないと睨みを効かせたユーリに、フレンは小さく息をつく。
「…青年、あれは大分お怒りモードね。さっきよりは落ち着いたかと思ったんだけど」
二人の様子を遠目から見ていたレイブンがそう呟くと、同じく様子を見ていたジュディスは妖艶な笑みを浮かべながら、そうねと続ける。
「でも仕方ないんじゃないかしら。自分にとって大切な人があれだけ危害加えられれば、ユーリじゃなくても許さないと思うわ。」
「確かに、そうかもね。…地雷踏まなきゃいいけど」
「…ルーがいるなら、きっと大丈夫じゃないかしら?」
ふふっと笑うジュディスに、レイブンは同調するように笑みを浮かべた。
その後、ルーとユーリはアンジュの元へ向かうと、アンジュは笑顔で二人を迎えた。
「ルー、体の調子はどう?」
「うん、体も軽いし、大丈夫だよ。」
「そう、よかった。部屋の話も大丈夫かしら?」
「うん」
「じゃあ決まりね。それと…実はさっき皆と話して、今夜ルーの歓迎会をしたいと思ってるの。」
「え?」
「元々ルーはギルドのメンバーだけど、改めてこれからもよろしくねっていう意味でね。こうやって皆が集まることも少ないし、丁度いい機会かと思って。」
どうかしら?と問いかけるアンジュにルーはきょとんとしていたが、歓迎会という言葉に徐々に目が輝き始める。分かりやすいルーの反応にアンジュとユーリは思わず笑みを浮かべる。
「決まりね。」
「うん…!」
「そうと決まればすぐに準備に取り掛かりましょ。ユーリは食事担当ね。」
「そうなると思ったよ」
「あ、俺も何か手伝う!」
お前は主賓だろ?と思わず言いかけたユーリだったが、ルーのあまりにもキラキラした目を前に言葉に詰まる。
「じゃあ、ルーはロイド達と一緒にセッティングお願いできる?今頃食堂にいるはずだから」
「うん!」
アンジュの提案に嬉しそうに頷いたルーはすぐに食堂へと向かい、ユーリもその後を追う様に歩み始めた。
日が暮れ、辺りが暗くなってきた頃、食堂はいつにない賑わいに包まれていた。
机の上にはギルド内の料理上手なメンバーが作り上げた料理がずらりと並び、とても美味しそうな香りが立ち込める。
「そろそろ始めましょうか。皆、飲み物持ってる?」
アンジュの声掛けに、皆手元にあるグラスを持ち上げ見せる。
アンジュはそれらを見るなり、ルーの方を見る。
「ルー、あなたに会えて本当によかった。改めてこれからもよろしくね。」
「!…うん!」
「じゃあ…、乾杯!」
「「「かんぱーい!!!」」」
アンジュの音頭に合わせるように、皆一斉に乾杯し、歓迎会がスタートした。
各自食べたい料理を皿に盛りつけ、舌鼓を打つ。
そしてお酒を飲める面々は酒を煽り、既にほろ酔い状態となっている者もいた。
ルーはユーリが作ってくれたエビやチキンの料理を美味しそうに頬張りながら、皆と談笑し楽しいひと時を過ごす。
時間が経つにつれ一層賑やかさを増す食堂であったが、その中バタバタと走る音が聞こえてくる。
ルーはなんだろうとそちらの方を見ると、そこには血相を搔いてこちらへ向かってくるカイルがいた。
「いた!ユーリ!大変だよ!!!」
「どうした、そんなに慌てて」
「実はさっき料理が少なくなったねってリアラと話してたら、それを聞いたフレンが料理作るって言い出して!!」
「!!!?」
その話を聞いたユーリ達は目を見開き、そして凍りつく。
そんな中、ルーだけがきょとんとした様子で頭上にハテナを飛ばしていたが、ふと思い出す。
「そういえば俺、フレンの料理って食べたことないなぁ」
「…ルー」
「ん?」
「あいつの料理だけは絶っ対食うなよ。」
いつになく声を固くし真顔なユーリに、ルーは思わずびくりとさせ、こくこくと頷く。
「フレンの奴、今どこにいる?」
「キッチンに向かっていった!今エステルが食い止めてるんだけど、もう少しで突破されそうなんだよ!!」
「…わかった。ルーはここにいろよ」
「う、うん」
カイルの言葉を聞いたユーリはすっと立ち上がり、すぐさまキッチンの方に駆けだす。
そしてカイルもその後を追っていった。
「あ、うん」
「なら、アンジュんとこに行くぞ。一応ルーの意見も聞きたいって言ってたから」
「うん、わかった」
ルー達は散らばっている髪の片づけをし、アンジュ達の所へと向かった。
その向かう先々でギルドの面々と会い、ルーを気遣う言葉を掛けられる。
それに申し訳なく、でもとても嬉しい気持ちで大丈夫だと笑顔で返していく。
皆の優しさにルーはじんわりと暖かなものを感じていた。
だが、ふと目に入ったものによってそれは一瞬で消えてしまう。
ぴたりと歩みが止まったルー。
その前方に現れたのは、ヴァンだった。
ヴァンはルーの存在に気付き近づいてくる。
ばくばくと心臓の音をたてるルー。
ヴァンはルーの目の前で立ち止まると頭を下げた。
「…貴殿には、他の世界の私が申し訳ないことをした。謝罪の余地さえない。」
「い、いえ…俺の方こそ、突然取り乱して、す、みませんでした…」
ルーは俯き青ざめながら震える声で謝罪する。
この人はあのヴァン師匠ではない。
そうだとわかっているのに、なかなか体の震えが止まらない。
目を合わせられない。
ぎゅっと手を握り、逃げ出したい衝動を必死に抑え込む。
そんなルーをヴァンはじっと見据えながら口を開く。
「いや、無理もない。今は難しいかもしれないが、徐々に慣れてもらえたらと思う」
「…、…は…」
俯いた状態で震える声ではいと言いかけたルーの前にすっと影が入り込む。
ルーは恐る恐る顔をあげると、そこにはルーを自分の背で庇う様にユーリが立ちふさがていた。
「…ユー、リ…?」
「…見てわかんねぇのか。ルーがどれだけ心に傷を負わされたのか。…そう簡単に払拭できるもんじゃねぇんだよ」
強い怒気を含む低い声で吐き捨てるようにユーリは言葉をヴァンにぶつける。
その目はとても冷たく、これ以上近づくなと語っており、それを受けたヴァンは目を閉じる。
「…確かに、その通りだ。返す言葉もない」
ヴァンはルーに一礼するなり、その場から離れる。
ユーリはヴァンの姿が見なくなった後、背後を振り返る。
そこには今だ真っ青になって怯えているルーの姿があり、ユーリはそっとその冷たくなった頬に手をあて、顔を覗き込む。
「…大丈夫か?」
「…う、ん……ユーリ…あの…」
「無理すんな。…俺がついてっから」
ぽんぽんと頭を撫でるその暖かな手の安心感に、ルーは自分自身を情けないと思いながらも小さく頷いた。
徐々にルーの震えが落ち着き始めた頃、どこからともなく他のギルドの仲間たちが姿を現し、ルーと楽しそうに会話をし始める。
先程とは変わって笑顔を浮かべて話しているルーを少しだけ離れた所で見守りつつ、ユーリは酷く冷たい目でヴァンのいた方を見ていた。
「…ユーリ」
背後から咎めるような声を受け、ユーリは僅かに息をつく。
そして背後に目をやるとそこには真っ直ぐにユーリを見るフレンがいた。
「…わーってるよ。あいつはルーの世界のヴァンじゃない。…けど、可能性がないわけじゃない。そう警戒する奴がいたって仕方ねえだろ。」
譲るつもりはないと睨みを効かせたユーリに、フレンは小さく息をつく。
「…青年、あれは大分お怒りモードね。さっきよりは落ち着いたかと思ったんだけど」
二人の様子を遠目から見ていたレイブンがそう呟くと、同じく様子を見ていたジュディスは妖艶な笑みを浮かべながら、そうねと続ける。
「でも仕方ないんじゃないかしら。自分にとって大切な人があれだけ危害加えられれば、ユーリじゃなくても許さないと思うわ。」
「確かに、そうかもね。…地雷踏まなきゃいいけど」
「…ルーがいるなら、きっと大丈夫じゃないかしら?」
ふふっと笑うジュディスに、レイブンは同調するように笑みを浮かべた。
その後、ルーとユーリはアンジュの元へ向かうと、アンジュは笑顔で二人を迎えた。
「ルー、体の調子はどう?」
「うん、体も軽いし、大丈夫だよ。」
「そう、よかった。部屋の話も大丈夫かしら?」
「うん」
「じゃあ決まりね。それと…実はさっき皆と話して、今夜ルーの歓迎会をしたいと思ってるの。」
「え?」
「元々ルーはギルドのメンバーだけど、改めてこれからもよろしくねっていう意味でね。こうやって皆が集まることも少ないし、丁度いい機会かと思って。」
どうかしら?と問いかけるアンジュにルーはきょとんとしていたが、歓迎会という言葉に徐々に目が輝き始める。分かりやすいルーの反応にアンジュとユーリは思わず笑みを浮かべる。
「決まりね。」
「うん…!」
「そうと決まればすぐに準備に取り掛かりましょ。ユーリは食事担当ね。」
「そうなると思ったよ」
「あ、俺も何か手伝う!」
お前は主賓だろ?と思わず言いかけたユーリだったが、ルーのあまりにもキラキラした目を前に言葉に詰まる。
「じゃあ、ルーはロイド達と一緒にセッティングお願いできる?今頃食堂にいるはずだから」
「うん!」
アンジュの提案に嬉しそうに頷いたルーはすぐに食堂へと向かい、ユーリもその後を追う様に歩み始めた。
日が暮れ、辺りが暗くなってきた頃、食堂はいつにない賑わいに包まれていた。
机の上にはギルド内の料理上手なメンバーが作り上げた料理がずらりと並び、とても美味しそうな香りが立ち込める。
「そろそろ始めましょうか。皆、飲み物持ってる?」
アンジュの声掛けに、皆手元にあるグラスを持ち上げ見せる。
アンジュはそれらを見るなり、ルーの方を見る。
「ルー、あなたに会えて本当によかった。改めてこれからもよろしくね。」
「!…うん!」
「じゃあ…、乾杯!」
「「「かんぱーい!!!」」」
アンジュの音頭に合わせるように、皆一斉に乾杯し、歓迎会がスタートした。
各自食べたい料理を皿に盛りつけ、舌鼓を打つ。
そしてお酒を飲める面々は酒を煽り、既にほろ酔い状態となっている者もいた。
ルーはユーリが作ってくれたエビやチキンの料理を美味しそうに頬張りながら、皆と談笑し楽しいひと時を過ごす。
時間が経つにつれ一層賑やかさを増す食堂であったが、その中バタバタと走る音が聞こえてくる。
ルーはなんだろうとそちらの方を見ると、そこには血相を搔いてこちらへ向かってくるカイルがいた。
「いた!ユーリ!大変だよ!!!」
「どうした、そんなに慌てて」
「実はさっき料理が少なくなったねってリアラと話してたら、それを聞いたフレンが料理作るって言い出して!!」
「!!!?」
その話を聞いたユーリ達は目を見開き、そして凍りつく。
そんな中、ルーだけがきょとんとした様子で頭上にハテナを飛ばしていたが、ふと思い出す。
「そういえば俺、フレンの料理って食べたことないなぁ」
「…ルー」
「ん?」
「あいつの料理だけは絶っ対食うなよ。」
いつになく声を固くし真顔なユーリに、ルーは思わずびくりとさせ、こくこくと頷く。
「フレンの奴、今どこにいる?」
「キッチンに向かっていった!今エステルが食い止めてるんだけど、もう少しで突破されそうなんだよ!!」
「…わかった。ルーはここにいろよ」
「う、うん」
カイルの言葉を聞いたユーリはすっと立ち上がり、すぐさまキッチンの方に駆けだす。
そしてカイルもその後を追っていった。