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第12話



ふとこれまでアッシュとガイを揶揄していたジェイドが、ローレライの方に歩み寄る。

「冗談はさておき、私もルークに伝えて欲しいことがあります。」
「なんだ」
「あの子にこれからも必ず音素の訓練を続けるように言ってください。レプリカの体は体内構築する音素が私たちと異なり、いかに音素をコントロールできるかが重要になります。音素のない世界がどう作用するのか、わからないこともあります。だからこそ、いざという時に自分でコントロールできるようにしておく必要がある。あの子のことだから、訓練を怠ることはないかと思いますが、無茶をするあの子だからこそ心配なんです。」

茶化す様子はなく、至極真面目なジェイドの言葉に、ルーは無意識にこくこくと頷く。
すると、今度はティアがローレライの元へと歩みを進める。


「お前もあるのか、ユリアの子孫よ」

ローレライが問うとティアは胸の前で手をぎゅっと握り締め俯く。

「…私たちが苦しくてつらい時、ルークは傍にいて手を差し伸べてくれた、受け止めてくれた。でも、私たちは…ルークが苦しんでつらい時、彼の傍にいることも手を差し出すこともしなかった…。それがどれだけ彼を傷つけ、追い詰めてしまったのか…。彼は本当に変わった、でも…同時に私たちは、彼の心を殺してしまった…。…許してなんて言えない、言える資格なんてないわ。」

静かに懺悔するように語られるティアの言葉に、アニス達は思いつめた表情を浮かべる。

「…身勝手な話だと思う…それでも、私たちは、ルークにもう自分を犠牲にして欲しくない。彼には彼らしく、生きてほしいの。」

顔を上げたティアの目には涙が溢れ、零れる。

「ルークが残してくれたこの世界は、私たちが必ず護っていくわ。だから、ルークはルークの道を歩んで欲しい。ルークは私たちにとって光であり、大切な存在だから」

震える声で告げられた、心の底から願うティアの思い。
その思いに協調するようにアニス達もローレライへ視線を向ける。
それは画面を通してルーへと繋がった。

「…さっさと行け。取り返しがつかなくなる前に。…もう、失うのはごめんだ」

アッシュは落ち着いた声でローレライを急かすと、それを承諾したように徐々に上空へと昇っていく。
離れていく仲間の姿にルーは食い入るように見つめる。
暗かった辺りがオレンジ色の光に染まっていく。
すると、それまで見守っていたアッシュが一歩前に出る。

「ローレライ…ルークを頼んだぞ」

アッシュがそう言い残すと、寂しげで、とても優しい笑みを見せた。

「…っ」

ぼろりとルーの目から涙が零れる。

アッシュ達の姿がオレンジ色の光により見えなくなると、それまで流れていた映像が消え、残った譜陣が一つの光の塊へと変化していく。
その光が音を立てて割れると、そこに現れたのはローレライの鍵。
それは白い光を帯びながらゆっくりとルーの元へ降りてくる。

「ルーク、受け取ってくれ。これは私たちからの“願い”だ」

ローレライの言葉を受け、ルーはゆっくりとローレライの鍵に手を伸ばす。
そしてしっかりとその柄を握りしめると、自然と手になじむそれにぼろぼろと涙を零れる。
走馬灯のようにオールドラントにいた頃の事が頭を巡る。
つらいことも沢山あった。
その中で出会えたルーにとって大切な仲間達からの思いを受け、溢れ出てくるものが止められなかった。

「…ローレ、ライ、俺も…アッシュに、皆に…伝えてほし、いんだ」

涙を零しながらルーはローレライを見る。

「『ありがとう』」

ローレライに託したルーの思い。
その表情は柔らかく、とても綺麗な笑顔を浮かべていた。

「…しかと受け取った。必ず届けよう」
「ありがとう、ローレライ」
「私はその鍵を通してお前に第七音素を送り続けよう。すればもう乖離することはない。」
「…うん」

ルーはローレライの鍵を大切そうにぎゅっと抱きしめる。
その姿を見てローレライはゆっくりと上昇する。

「その鍵と私たちは繋がっている。…もし、この世界が辛くなったら、その鍵を通して伝えてくれ、すぐに駆け付けよう」
「え?え、えっと…」
「そんなことにならねぇよ」

返答に困っているルーの代わりにユーリが即答する。
それは皆も思いは同じで、強い意志を持った眼差しがローレライに向けられる。
それを受けたローレライは少し笑ったような雰囲気を残し、弾けるようにその場から姿を消した。




まるで夢でも見ていたのかと思うほど、あっという間で衝撃的な出来事だった。
ルーはローレライがいた方向を見ながらその場にへたりと座り込んだ。

「!ルー大丈夫か!?」
「あ、う、ん…なんか、力が抜けて…」

放心状態に近いルーは、ふと手元にあるローレライの鍵を見つめる。
夢じゃない…。
ぎゅっと改めて強く握りしめる。
そんなルーを見て、ユーリは優しく微笑み、ルーの頭を撫でる。

「よかったな」
「…うん」

少し寂しそうに、けれどとても嬉しそうに笑うルーに、皆笑顔になる。
ティアの言う様に、この子は光そのものなのかもしれない。
僅かに緊張の解けた空気の中、ふとルーは首を傾げる。

「?どうした?」
「…ん…なんか頭が重…ん?」

ルーは視界に入ってきた朱い髪をおもむろに掴み、それをくいくいっと引っ張ってみる。
そこで初めてそれが自分の髪で、物凄い長さに伸びていることに気付く。

「うえっ!?なんだこれ!?」

予想外のことにぎょっとし、あわあわと困惑するルー。
その姿をみて思わず皆笑い始める。

その中、ルークはようやく解放された頭痛の余韻を引きずりながら、ぐったりとした様子でその場に座り込んでいた。
遠目からルーを見ているルークの目は優しく、小さく安堵の息をつく。
すると、突然影のようなものが目に映り、ルークはそちらの方を見る。

「!…なんだよ、アッシュ」

自分を見下ろすように佇むアッシュにルークは眉を寄せる。
またこんなとこに座るなとか説教する気かと身構えていると、アッシュはゆっくり口を開く。

「…大丈夫か」
「っっ!!!???」

アッシュのまさかの言葉に、ルークは目を見開き驚愕する。

「え、な、おま、なんか、どうした!?」
「あ?何がだ」
「いや、だって、お前…気持ち悪っ!!!」
「なっ!!てめぇ!!人が心配して…」
「!?怖っ!!え、マジでどうした!?頭打ったのか!?」
「~っそうじゃねぇっ!!」

ギャーギャー始まるルークとアッシュの小競り合いにライマの者達は驚く。
喧嘩ならいつものことだが、今の二人は喧嘩とは程遠く、むしろ…。

「…これは、ルーと向こうのアッシュに感謝しなければいけないのかもしれないですね」
「ああ」

ガイはジェイドの言葉に頷き、笑みを浮かべた。










後日、オールドラントのアッシュ達の元にローレライが現れ、今のルーの姿、状況を伝える。
ルーが生きているということ、そして沢山の仲間の元にいることを知り、皆ホッと安堵し、その映像を通してルーの言伝を伝えられるとアッシュは、フッと笑みを浮かべ、呟いた。

「…バカが」











第1章終わり

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