このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第11話



暫し沈黙が続いたが、それを打ち破るようにローレライはルーに語りかける。

「…ルーク、私はこの者達にすべてを話した」
「!…す、べて…?」
「そう、お前が何者なのか、お前が歩んできたすべてを」

そこまで言い終えるとルーはバッと顔を上げる。

「じゃ、じゃあ…俺が、レプリカで…俺が…してきたことも…全部…?」
「そうだ」

ローレライの肯定にルーは息を飲む。
そして顔を青ざめさせ、絶望の色に染まる。
いつかは伝えるはずだったこと、それなのにいざそれを知られているという事実を前に、ルーは目の前が真っ暗になった。
その時だった。

「ルー」

突然の呼びかけにビクリと体を震わせる。
僅かに震えながら恐る恐るそちらの方を見る。
そこには、とても優しい微笑みを浮かべたユーリがいた。

「俺達は確かにお前の事を知った。けど、何も変わんねぇよ」
「え…?」

ルーはユーリの言葉の意味が分からず、目を瞬かせる。

「変わらないって…、でも、俺…レプリカで…」
「ああ」
「沢、山の人たちの命を…」
「それは前に聞いた。それに理由はこいつから聞いたが、どう考えてもお前が悪いわけじゃねぇだろ」

ぽかんとするルーにユーリはちらりと背後に目をやると続ける。

「こいつらも俺も気持ちは変わんねぇよ。」

当たり前の様に言い切られたルーは呆然としながら周囲を見渡すと皆あたたかな笑顔を浮かべていた。
ルーは酷く困惑した様子で、隣にいるユーリを見ると、ユーリはルーの頭をぽんぽんと優しく撫で、そして優しく微笑んだ。

「…よく頑張ったな」

その言葉にルーは目を見開き驚くが、それも一瞬ですぐにくしゃりと顔を歪める。
自分の中で止めどもなく溢れ出てくるものに歯を食いしばり、ぎゅっと手を強く握りしめ耐える。

その中、ローレライはルーに近づき話し始める。

「ルーク、先程も言ったが、あの世界では、もうおまえが生きることはできない。…だが、もし生きることができたとしても私はおまえをあの世界に戻したくはない。」
「え…?」
「お前と導師イオンが命を賭してまで願った預言に縛られることのない、自分たちの意志で選ぶことのできる平和な世。確かに今、オールドラントは星の記憶から外れ、結果預言はなくなったに等しい。…だが、人はそう簡単には変わらない。変われない。預言のない今、それを受け入れ、自らの意志で生きようとする者もいるが、一方で預言の次にすがるものを探している者もいる。その者たちが次にすがるもの、それはお前だ、ルーク。」
「!お、れ…?」
「お前は預言の呪縛を打ち破り、世界を救った英雄であり、レプリカの象徴だ。お前を崇拝する者も現れるだろう。…だが、預言を尊厳していた者からしたら、それをなくしてしまった極悪人とされ、命を狙われる。あの世界ではお前は自由になれない。あの世界は重く太い鎖でお前を縛り付けるだろう。…私はもう、おまえが苦しみ、悲しむ姿はみたくない」
「でも…俺は…、俺がしたことはなくならない…。それなのに…」
「ルーク、お前は優しすぎる。それ故、自分自身を許すことができないのだろう。そしてこれからも…。…それでもいい、だがお前ひとりで背負い込む必要はない。」
「でも…っじゃあなんで、なんのために…俺はっ」
「…もう、いいのだルーク。未だにお前は、お前自身が生まれたことに疑問と後悔を抱いているが、それは違う。お前は生まれるべくして生まれた存在だ。もう生きる意味を探すことも、存在していることを問う必要ないのだ。その証拠にこの世界にもルークは存在している。この世界だけではない、他の世界にもお前と同じルークは存在している。お前は、その者達も否定するのか?」

ローレライの言葉を受け、ルーはハッとしたように反応する。

「そ、それは…そういうわけじゃ…」

自分の言っていることは矛盾している。
そのことにルーは気付くが、それでも自分の存在への疑問は消えないのだ。
思いつめた表情を浮かべるルーにローレライは優し気に語り始める。

「すぐに変わることはできないかもしれないが、それでも構わない。ルーク、私はおまえに生きて、自由に、幸せになってほしい。そして願ってほしいのだ。他でもない、お前自身の幸せを。」
「…ローレライ…」
「…そう願っているのは、私だけではない。」
「え…?」

ローレライの光は上空へ移動すると大きな譜陣を展開させる。
そして、その譜陣がまるでスクリーンのように広がり、映像を映し始める。

そこに映し出されたのは、音譜帯が浮かぶ美しい星空と穏やかな夜の海。
そして、地上には白く光り輝くように咲き渡るセレニア。

「きれい…」

誰かがぽつりと呟いた言葉に否定する者はなく、その幻想的な光景に、誰もが思わず見入ってしまう。


「こ、こは…タタル渓谷…?」

ルーにとって、とても懐かしく、そして思い入れ深いその風景に思わず呆然とする。
だが、あるものに気付き思わず息を飲む。

「!…アッシュ…」

「!」

ルーの言葉に皆が反応し、良く見るとセレニアの白い花の中に、ぽつりとある紅。
それは深紅に輝く長い髪…アッシュの姿だった。







続く


4/4ページ
web拍手