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第11話


「みゅ!」

ミュウはバッとルーの真上を見上げると、次の瞬間、ピカッと強い閃光と突風が巻き起こる。

「っ!?」

部屋にあった紙などの軽いものがその突風により吹き飛び、家具もがたがたと揺れるほどの強い風。
その場にいた皆が思わず目を閉じ、防御の体制をとる。

いったい何だ!?

すると、今度は突如ぴたりと風が止み、飛び散っていた紙などがひらひらと床に落ちる。
それを感じ取り恐る恐る目を開けるが、飛び込んできた視界に皆驚愕する。
黄色とオレンジを合わせたあたたかな光の塊がルーの体の上に浮かんでいたのだ。
突然現れたそれに皆言葉を失う。
そして同時にそれがただの光でないことを直感的に感じ取った。
その光は音なく徐々に広がっていき、そのままルーの体全体を包み込む。
すると、それまで透けていたルーの体の一部が元に戻っていき、固く閉じられていた瞼がピクリと反応し、ゆっくりと開かれた。

「ルー!」
「ご主人様――っ!!」

ユーリとミュウの声に反応するようにルーは虚ろな目でそちらの方に顔を向ける。

「ルー!大丈夫か!?」
「…ユーリ…ミュウ…?…っ!?」

ぼんやりとしていたルーだったが、光の存在に気付くなり一気に覚醒し、バッと起き上がる。
そして目の前にある光を見て信じられないと困惑した表情を浮かべる。

「…ローレライ…!?」

ルーの口から出た単語に皆反応する。
この世界の人間が知らないこれをルーは知っている。
それはつまりルーの世界からきた“何か”だということ。

「なんで、ローレライが…」
「ロー、レライ…?」

頭を押さえ頭痛に耐えるルークが弱弱しく呟くと、それをミュウが興奮したようにぴょんぴょん跳ねながらそれに答える。

「みゅ!ローレライさんは第七音素の意識集合体で、ミュウ達の世界の神様みたいなかたですの!」
「!?」

ルーの世界の神様!?
この場にいた精霊のセルシウスも驚愕した表情をみせていることから、とんでもないものがここに現れたことになる。

「どうやら間に合ったようだ。お前は無茶をし過ぎる癖が治らないな、ルーク」

優しい声色でルーに話しかけてくるローレライに、ルーは虚を突かれたようにポカンとする。

「え…?」
「私はお前に十分な程の第七音素を送ったはずだったが、まさかここまで早く消耗するとはあやつの言ってた通りだ」
「!それって…っ」

ローレライの言葉にルーは驚きを隠せない。
突然現れたローレライ、そしてそのローレライからでた予想外の言葉。
そして湧き上がる思い。
なぜ…。

「っローレライ!お前なら知ってるんだろ、教えてくれ!」

ルーは縋るようにローレライに詰め寄る。
ずっと知りたいことがあった。
ミュウの話を聞いた今でもわからず、ずっと不安に思っていたこと。

「俺は…エルドラントで…、…あの時、確かに”感じた”んだ…!」

それはアッシュのレプリカだからこそ感じた、感じざる負えなかったあの感覚。
自分の中に入っていく温かく、安心できる音素。
そして、その後、自分の目の前に現れたアッシュは…。

「全てが終わって、俺の腕に降りてきた、アッシュの体は…冷たかった…っアッシュは、あの時死んだんだっ!」

ぎゅっと目を閉じ、絞り出すように呟かれたルーの言葉に、皆驚愕し、思わず息を飲む。

「あの時、俺は大爆発を起こして、アッシュに還るはずだった!なのに…俺はなんでまだここにいる…?!あの時、一体何があったんだ!!?」

ルーは顔を上げ、懇願するように必死の形相でローレライに問う。
それに対して暫し黙っていたローレライだったが、その沈黙を破る。


「…お前も苦しんでいるのか」
「え…?」
「あの時、お前の音素がアッシュに還ろうとしていたことは確かだ。」
「!じゃあ…」
「…私は、お前が生まれて7年という月日、ずっとお前を見てきた。預言に縛られ、歪んでしまった…不条理に満ちたあの世界で、懸命に生きるお前を。そのお前が私の願いを叶えあの者から解放し、アッシュへと還ろうとしたあの時、私はお前を生かしたいと思った。」
「!」

大罪人の俺を生かしたい…?
困惑するルーに、ローレライは僅かに悲し気に、だが淡々とした様子で話を続ける。

「お前は私。故に私は早急に私の第七音素をお前に送り込んだ。だが、お前の体に私の音素が定着するよりもアッシュへ還る速さの方が圧倒的に早かったのだ。…だから私はお前とアッシュを引きはがすことにした。世界ごとな」
「!!」
「お前とアッシュに第七音素を分け与えるためにも、次元をも超えて引き剥がせざるおえなかった。私はお前たちを引きはがした後、お前たちに徐々に音素を送り込み、定着させていった。…だが、些かそれらに力を使ったがため、私自身も暫し力を蓄える時間が必要になったのだ。」
「じゃ、あ、この世界に俺が来たのも、俺がこうしてここにあるのも…全部…」
「私がしたことだ。」

きっぱりと言い切るローレライにルーはただ呆然とする。

「…何も説明のないまま放り出してすまなかった。だが、ことは深刻だったのだ。」

神とまで言われる存在が深刻というほどまでに危険な状態だったという事実に、それまで静かに聞いていた皆が息を飲む。
いったい何があったのか。
ローレライはいまだ呆然としているルーに優しく諭すように言葉を紡ぐ。

「ルーク、…お前はもうオールドラントの世界には戻れない。」
「!」
「アッシュは確かに一度死んだ。それを私が無理やり延命させたに過ぎない。お前がオールドラントへ戻れば、アッシュとお前の音素は共鳴し合い、大爆発をする可能性が高い。」
「!?そんな…」
「…だが、ここは音素が存在しない世界。このままではお前の音素は減り続け、乖離は進み、いずれは消滅するだろう。」
「!」

ローレライの言葉に驚愕するルーだったが、次のローレライの光が一段と強まり、思わず目を瞑る。

「乖離を避けるには音素を定着させる必要がある。…暫し眠れ、ルーク」

そうローレライが呟くと同時にふっとルーから力が抜かれ、その場に崩れるように倒れる。

「っルー!!」

直ぐさま駆け寄ろうとしたユーリ達だったが、突如ルーの体から目も開けていられない程の強い光が発せられる。

「っ!?」

その眩い光に目を閉じ耐える。
光が落ち着き、目が開けられるようになったユーリ達がルーを見ると、倒れたはずのルーは立ち上がっていて、その髪は燃える朱い焔のように光を帯びながら背丈ほどにまで伸びていた。
そして、固く閉じられていたルーの目が開かれとそこにあったのは翡翠色の瞳ではなくオレンジ色の瞳。
それを見るなり、今目の前の存在が“ルー”ではないことを感じ取る。

「…てめぇは、ローレライか」

ユーリが警戒するように名を言うと、ふと目を閉じ小さく頷く。

「…如何にも。私はローレライと呼ばれる者。暫しルークの体を借りる。私の音素を定着させるにはこの方が早い。それにこちらの方が話がしやすいだろう」

ローレライはゆっくりと目を開き、ルークの方を見る。
ルークはこれまで感じていた頭痛が落ち着いたようで、苦痛の表情はなくなったもののぐったりとした様子だ。
そんなルークをローレライから庇う様に、ルークの前をアッシュが立ちふさがっていた。


「…お前たちは私に聞きたいことがあるのだろう。この子のことも、この子の世界のことも」
「…ああ」

先程のルーとローレライの会話を聞いて、殊更強くなる思い。
ユーリは皆の代弁をするように頷いた。
そして、真っ先に口を開いたのはこれまで食い入るようにローレライを見つめていたリタだった。

「…聞きたいことは山ほどある、けど…あんた、さっき『お前は私』って言ってたわよね、あれはどういう意味よ?」
「そのままの意味だ。ルークは私と同じ波長であり、完全同位体だ。」
「!完全同位体って、じゃあルーは神とされてるあんたと同じ力を持ってるってこと!?」
「そう、ルークの持つ力は私と同じ、この子は稀有な存在だ。ルークが本気を出せば、大気さえ塵にすることも可能だ」
「!?」

ローレライの言葉に皆が衝撃を受ける。
なんてことないように言っているが、それはとんでもない力だ。
そしてルーがそんな計り知れない力を持っているような子には思えなかったのだ。

「…だが、ルークはよほどのことがない限り、この力を使うことはないだろう。この力の強大さ、恐ろしさを誰よりも知っているからな」
「そりゃどういうことだ」

怪訝そうにユーリが問えば、ローレライは表情を変えることなく答える。

「ルークは、この力を使ったことがある。…いや、使わされたといった方がいいか」

ユーリはピクリと反応する。
そして思い出すのは数時間前の苦しみ、怯えていたルーの姿。

「…んだ」
「…ユーリ?」
「…何があったんだ、ルーの世界で。一体何をさせられたんだよっ!!」

怒りに染まり、声を荒げるユーリにギルドの面々は驚く。
いつも冷静さを保っているユーリがここまで怒っている姿を見たことがない。

「ユーリ…」

エステルは怒りに染まるユーリに、掛ける声が見つからなかった。
それは親友のフレンも同じで、ユーリを見やるなり、ローレライの方へ顔を向ける。

「…僕たちに話してください、ルーの世界の事も、ルーの身にあったことも、全て。」
「…。…この光り輝く世界に生まれ育ったお前たちには酷すぎるかもしれない。この子の、ルークの歩んできた…奈落の底の物語は。」
「奈落の…」
「底…?」
「…それでも聞く覚悟はあるのか。」

“奈落の底”
ルーの世界では神とまで崇められた存在がそう評する程の世界。
それがどれほどのものかはわからない。
だが、恐らく想像を超えるほどの世界なのだろう。
それでも…。

「…覚悟ならできてる。俺たちはルーのことを知りたい。力になりたいんだ。あいつが笑顔でいられる世界を、…俺たちは作りたんだよ」

ユーリの言葉に協調するように、その場の誰もが強く真っ直ぐな視線をローレライに向ける。
それを受けたローレライはただ淡々と小さく頷いた。

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