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第11話








ルーが倒れた。

報告を受けたアニーはすぐさまルーの部屋へ駆けつけ、息を切らした状態で部屋に入る。
中には、ユーリやルーク達がいて、その視線の先にいるのはベッドを囲うようにいるジェイドを始めとする有識者達。

緊迫した、ただならぬ空気にアニーは声を出すこともできず、恐る恐る中へと足を進める。
そして、皆の視線の先にいるルーの姿を見て息を飲む。

「ルー、さん…!?」

震える声で思わず名を呼ぶ。

アニーが見たのは、ベッドの上で寝かされているルーの体がぼんやりと透けていたのだ。







その後、事態がバンエルティア号内広まると続々と仲間たちが集まってくるが、体が透け、意識のないルーを目の当たりにし、困惑を隠すことができない。
その中、ユーリは透けてはいるがまだ感触のあるルーの手を握りしめ、意識の戻らないルーの顔をただ見つめていた。
ミュウはその小さな体をふるふると震わせ、泣くのを堪えながらルーの傍に寄り添う。

「ご主人様…」
「っなんで…っどうにかなんないのかよっ!!?」

ぎゅっと手を握りしめ、ジェイド達に向かってルークは声を荒げる。

ルーが突然逃げ出した後、ルークは艦内中を探し、やっとの思いで駆けつけてみれば、そこにはユーリの腕の中で今にも消えてしまいそうなルーがいた。
それを目にした時、一瞬時間が止まった感覚がした。
だが、あのユーリの必死な姿を見て、ただ事ではないとすぐにジェイド達を呼び寄せた。
けれど、このギルドの頭脳たちもルーに起こっている現象に困惑の色を隠せなかった。
なにせ今まで聞いたことも見たこともない現象が起きているのだから。

苛立ちの矛先がジェイド達に向くのはおかしいということくらいルークでもわかるが、それでも言わずにはいられなかった。
静まり返る部屋の中、それを打ち破るようにルーの傍にいたミュウがぽつりと呟く。

「…ご主人様、やっぱりまだ治ってなかったんですの…」
「!やっぱりってなに?もしかして前からこういうことが起こったってこと!?」
「リタ…!」

ミュウに詰め寄るように声を上げるリタを今にも泣きだしそうなエステルが止める。

「どういうことか、教えてもらえますか?彼は以前にも同じ事象が起きていたと?」

至極冷静な様子でジェイドはミュウに問いかけると、ミュウはこくりと頷く。

「ご主人様、ジェイドさんに言われてたんですの…ご主人様の体の乖離は治ることはない、力を使えばその分乖離を速めて近い未来消えて亡くなってしまう、だからむやみに力は使わないようにって…。」
「!」

その時ユーリは、ふとルーが初めてここにきて話した内容を思い出す。

『俺は、消えるはずだったから…』

ユーリはぎゅっとルーの手を握る力を籠めた。



「乖離…」

ジェイドはぽつりと呟き、口元に手を当て考え始める。

「彼の体を構成するものが乖離を起こす…。…何かこの世界と違うことを彼は話していませんでしたか?町や名前ではない他の言葉を」
「…音素」

ぽつりとつぶやいたリタに皆の視線が集まる。

「音素、ですか?」
「ルーは確かそう言ってた、音譜帯が空にない、音素はどうなっているのか、知らないのかって」

聞きなれない単語にジェイドは暫し考え込む。
そして、ルーの方を見やるなりミュウに視線を移す。

「あなたが知っている音素の事を教えてください。恐らくそれが何かの鍵になる気がします。」
「みゅ、音素はありとあらゆるものが発する音の信号で、それがミュウ達の体を作ってるって、ティアさんがいってましたの。」
「ありとあらゆるものに…」
「でも目に見えるのはとってもめずらしくて、実体化しているものを目にすることは滅多にないっていってましたの。」

ミュウの話を聞いたジェイドとハロルドとリタはハッとした様子でお互いの顔を見合わせる。
それまでルーを見つめていたユーリは、3人の方へ顔を向ける。

「…何かわかったのか」

3人は無言のまま目で何かを話しているようだったが、僅かにジェイドは頷くと、眼鏡のブリッジを軽く上げ、ルーを見る。

「…これはあくまで仮説ですが、彼の言う音素というのは彼の世界では空気中に存在する…例えば酸素と同じようなものではないでしょうか。」
「酸素?」
「彼の世界には当たり前のように存在している音素。ですが、私たちの今いるこの世界には音素が“存在していない可能性が高い”。…彼は酸欠状態に陥っているのかもしれない」
「!」

ジェイドが口にした仮説はハロルドやリタも同様の考えのようで、険しい顔をしている。
それに対してルークはでもと詰め寄る。

「今まで苦しそうな素振りはなかったぞ!?」
「…もし、音素を本能的に自分で補っていたとしたら」
「!?」
「生存本能によって、ここにない自分にとって必要なものを無意識に自分の中で補てんすることは考えられます。それが例え自分の身を削ることになっても。」
「…その仮説が正しいとしたなら、ルーの中の音素は底をつきかけてるってことね。」
「そんな…っなんとかならないんです!?」

ハロルドが淡々と口にした仮定の結論に、エステルは必死の形相で3人に問う。
だが、ハロルドとリタはその問いに答えず目を伏せる。

「私たちはそもそも“音素”を知らない。それがどういうものなのか、この世界にあるのか、作ることができるものなのか、何もわからないんです」

代弁するようにジェイドが答えると、ルークはジェイドの襟首に掴みかかる。

「っじゃあこのまま何もしないで見てろっていうのかよっ!!?…っ!?」
「ルーク!?」

目元に涙を溜め、憤りを見せるルークだったが、すぐにぐらりとその場で崩れるように膝をつく。
それにいち早く反応したガイとティアがルークに駆け寄る。

「っ頭が…っ」

ルークは突然頭が割れそうな位の頭痛に襲われ、頭を両手で抑えながら蹲る。
額には脂汗がにじみ、顔は苦痛に歪む。
その様子を見たアッシュもルークに駆け寄る。

その時だった。

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