第9話
ルークがいつもの稽古場所に到着すると、そこにはロイドとクレスがすでにいて笑顔で迎える。
「ルーク!ルーどうだった?来れそうだったか?」
「ああ、掃除終わったら来るってよ」
「そっか、よかった!ルー、なんだかここ最近元気なさそうだったから」
ロイドの問いにルークは頷くとクレスは安堵したように呟く。
それにうんうんとロイドも頷く。
「病気とかじゃないみたいだからよかったけどな!でも、何かあったのかな?」
「うーん…クエストとかで何かあったわけじゃなさそうだし…。ホームシックみたいなやつかな?」
首を捻る二人に、ルークはルーを思い浮かべる。
「…そういうんじゃなさそ」
「ご主人様―――っ!!」
「おわっ!?」
突如自分の頭に何かに突進されたような強い衝撃に思わずルークはその場で前のめりになりながら崩れ落ち、目を回す。
「ルーク!?どうし…っ」
異変に気付いたクレスとロイドはルークに駆け寄るが、そのルークの頭にへばりついているものを見て思わず目を見開き、固まる。
ルークはふらふらしながら体を起こし、未だにあまり働かない頭であったが、自分の後頭部にへばりつく何かを掴みとり、ぐいっと力任せに引きはがした。
「いったいなに…っ魔物!?」
「みゅっ!?」
ルークはそれを見て、ぎょっとする。
それは小さく水色の毛並みで、お腹の辺りには金色の輪っかのようなものを身に着けており、どこかの絵本で見たことのあるような独特な生き物だった。
ルークは驚きのあまりすぐさまそれを思いっきり投げ飛ばすと、その不思議な生き物は悲鳴を上げ、地面に顔から不時着する。
そのあまりにも情けない姿に3人は固まる。
「みゅ~…」
その不思議な生き物は、目を回しながらもゆっくりと体を起こし、大きくまん丸い目でルークを見る。
「…みゅ、みゅ?」
首を傾げ、じーっとルークを見つめていたかと思えば、次の瞬間しゅんと肩を落とす。
「…ご主人様そっくりですの、でも違う人ですの…」
「!?」
ルーク達は『言葉を話す魔物(?)』を目の前に衝撃を受ける。
そんなのがいるなんて聞いたことない。
そもそもこいつは魔物なのかなんなのか、それすらわからない。
突然現れた謎の生き物に3人はただ困惑する。
そんな中、クレスは目の前の生き物がしゃべった言葉にハッとする。
「!もしかして…!」
「ユーリ!!」
「ん?…リタ?」
ユーリが丁度廊下を歩いていると突如その背後から大声で呼ばれ、歩みを止める。
呼ばれた方を振り向くと、バタバタとこちらに向かってくるリタがいた。
その表情は何か緊迫したもので、ユーリは思わず眉を寄せる。
「何かあったのか?」
「ルーはっ、ルーがどこにいるか知らない!?」
リタの口から出た言葉にピクリと反応する。
「ちょっと落ち着け。…ルーがどうした?」
「どうしたもこうしたもないわよ!今ルーの」
「ん?呼んだか??」
「「!!」」
リタとユーリの緊迫した空気を裂くように、ひょっこりと顔を出したのは今まさに話中に出てきたルーで、二人は思わずバッと顔を向ける。
それに対してきょとんとしたルーは目をぱちぱちと瞬かせ首を傾げる。
その手にはモップがあり、どうやら丁度近くを掃除していたようだった。
ルーの身に何かあったのかと思ったユーリはその姿を見て僅かにほっと安堵する。
「ルー!こんなとこにいたのね!!実は」
「あ!いた!ルー!!」
「ん?」
ルーは別の方からの呼び声にの方に振り向くと、そこにはロイドとクレス、そしてその背後にルークがいた。
剣の稽古をしているはずの3人の登場に、思わず首を捻るルーだったが、ふと、ルークが何かを手に持っているのが目に入る。
…紐?
ルークが手にしているのは何やら紐のようなもので、それは何かに繋がっているように見える。
その紐の先を自然と辿っていくと、そこにはルーの目を疑うものがあった。
「なっ!!?」
「みゅ?」
お腹の辺りを紐で括られ俯きがちだった水色の生き物が、ルーの声に反応するように顔を上げると、ぱちりと目が合う。
「ご、ご主人様―――――――――――――――っ!!!!」
「!?」
ルーは自分の胸に向かってタックルするように飛び込んできたそれを受け止めつつ、その勢いのまま盛大な尻もちをつく。
だがルーはそれどころではなく、今目の前にいるその存在に驚きの声を上げる。
「!ミュ、ミュウ…っ!?」
ルーの反応を見て、クレス達はやっぱりと思う。
一方でユーリとリタは突然現れたぬいぐるみのような魔物のような謎の生き物にただただ驚く。
今しゃべんなかったかこいつ…!?
「ミュウ、なのか?ほ、本当に…?」
「そうですの!ミュウですの!ご主人様会いたかったですの…っ!!!」
困惑するルーの言葉にミュウはこくこくと頷きながら、胸にぎゅうぎゅうとしがみつき、ぽろぽろ大粒の涙を零す。
その小さく、けれどいつも傍にいて自分を支え続けてくれた温かい存在との突然の再会にルーは目頭が熱くなるのを感じ、思わずぎゅっと抱きしめ返した。