第1話
その日、ルーク・ガイ・ユーリ・エステルは一緒にクエストに出かけていた。
我儘なお坊ちゃんであるルークとエステルは王族同士だからか意外にも仲がよく、今回その二人が外に出たいと言い出したためガイとユーリは各々の護衛対象に付き添いとして参加した。
とはいえクエストといっても近場のエリアでの採掘クエストしかその日はなく、あっという間に終わってしまったのだが。
それでもあまり外に出られない二人にはよい息抜きになったようだ。
途中でユーリがルークで遊んでいつものように一方的な喧嘩が始まったりしたのだが、それでも比較的穏やかに帰ってきた。はずだった。
バンエルティア号に戻ってきた4人だったが、ふとルークが辺りを見渡しそわそわし始めたのだ。
「ルーク?どうしたんです?」
エステルが問いかけるとルークはあーだのうーだの呟くなり、頭をがしがし掻く。
「なんつーか…、あー…いる…?」
「は?何いってんだ坊ちゃん?」
若干呆れ口調でユーリも問えば、いつもなら噛みついてくるはずのルークは、それに答えることなく何かに誘われるようにフラッと歩き始める。これからクエストの報告をしなければならないのだが、明らかにそちらではない方向に。
「お、おいルーク?!」
戸惑いながらガイはすぐさまルークの後を追う。
それを見ていたユーリとエステルも不審に思いながらついていく。
するとあるところでぴたりと足を止め、固まるルークが目に入る。
「お…お前は…誰だっ!?」
その台詞にガイとユーリは反応しすぐさま駆け寄る。侵入者かと思い剣に手を当て警戒しながらそちらの方を見やるとそこには、目を疑う光景が広がっていた。
鮮やかに映る朱色の短い髪と弱弱しい不安げに揺れる翡翠の瞳を持つ少年がいた。
ドクりとユーリの中の何かが跳ね上がる。だがそれに気づく余裕もその時にはなかった。
なぜなら、その目の前の少年の姿は、この我儘王子に驚くほど似ていたからだ。
突然現れたルークにそっくりな少年に対して最初こそは戸惑ったが、ユーリはもしや…と思い、近づくと相手はびくりと体を震わせる。眉を下げ、弱弱しいその姿はなんとなくは小動物を連想させるもので、自然と警戒を解いてしまった。人一倍警戒心が強いと自他ともに認める自分があっさりとそれを解いたことに内心驚きつつ地面に片膝をつき、綺麗な翡翠の瞳と目線を合わせる。
「お前、名前は?」
「え…あ…の…、…ルーク…です」
戸惑いがちに蚊の鳴くような声で呟かれた名は、予想通りのもの。
「そうか。俺はユーリ、ユーリ・ローウェルだ。早速で悪いが…お前、どうやってここにきた」
「えっと…、…わからないんだ、気が付いたらここにいたから…。あ、あの、ここはどこ、ですか?空に音譜帯はないし…見たことのない景色で…。」
ちらりと後ろにいる長髪のルークやガイを見つつ困惑している様子のルークにそれまで見守っていたガイはハッとする。
「ユーリ、もしかして…」
「ああ、多分な。カノンノのこともある、可能性は高いだろ。ま、こういうのはプロに任せた方がいいだろうけどな」
「?」
首を傾げながら二人の話を聞いていたルークにユーリは手を差し出す。
「立てるか?」
「へ?あ…う、うん」
恐る恐る伸ばされた手を掴み引き上げるとルークはよろ付きながら立ち上がった。
立ち上がったルークはここにいるルークと同じ身長で同じ服装だった。
だが、見たときの印象は全く異なる。
この目の前にいるルークはこちらのルークに比べ、目は大きさは倍くらい違うんではないかと思うくらいパッチリとまん丸い目で、童顔のせいか幼さが前面に出ている印象だ。また、髪もぴょこんと後ろの髪がはねており、ヒヨコを連想させる。纏う空気も穏やかに見えた。
こちらのルークも含めてユーリ達はまじまじとそのルークを見てしまう。そして思った。
「とっても可愛らしいです。」
みんなの心を代弁するかのようにエステルはふふっと微笑みながら告げるとルークは大きな目を更に大きくさせ、みるみる顔を赤くする。
「お、俺は可愛くねぇっ!!」
ぷくーっと頬を膨らませ、睨みつける。だがその目は感情が高ぶっているせいか潤んでおり全く怖くはない。むしろ更に可愛らしく見えるのは気のせいではないだろう。目の当たりにした男たちは思わずルークを見たまま固まる。エステルは目を輝かせながら口に手を当てつつプルプルと震え始めた。
静まり返ってしまった一同を見てルークはハッとした様子で、今度は一転しオロオロとし始める。
「あ、いや、その…い、今のは、その…っ」
どうやら強く言い過ぎたのだと思ったようで、両手を振りながら慌てて弁解を始めるルーク。その顔は今にも泣きだしそうなほど眉を下げ不安でいっぱいいっぱいな表情だ。暫しオロオロわたわたと忙しなくしていたルークだったが、うまく言葉が見つからなかったようで、今度はしゅんと音が聞こえてくるほど肩を落とす。しょんぼりという言葉がこれほどまでに似合うのは他にいないのではと思うほどわかりやすく可愛らしく映える。
この短い時間でコロコロと表情豊かに変え、またいちいち可愛らしい行動をされ、ガイは勿論、他人に無関心のユーリでさえ釘付けだった。
「…ごめ…」
「…い、です」
「へ…?」
「とっっても可愛いですっ!!」
「うわっ!!」
エステルの中の何かが壊れ、勢いよくルークに抱き着く。
突然のことに目を白黒させるルークだが、そんなことはお構いなしにエステルはギューギューと抱き締める。まるで探していた子犬を抱きしめるかのようにも見える。
その状態をみてこちらのルークは何とも言い難い複雑な顔をしていた。