第6話
折角なら皆を出迎えたいと言い出したルーに、ルークは物凄く嫌そうな顔をしていたが、勉強もそろそろ疲れてきたこと、そしてあまりにもルーの純粋でキラキラした目に負け、3人はアッシュ達が来るであろう出入り口付近で待つことにした。
だが、そこは勿論他のギルドの仲間も使用する場所で、クエストへ向かったり帰ってきたりする仲間が行きかう。
その度に皆ルーに群がるので、ルークの機嫌は下降する一方だった。
「あいつら遅ぇ…っ」
「まぁまぁ」
イライラ全開のルークにガイは苦笑いを浮かべながら宥める。
その一方で今か今かとそわそわするルー。
その姿は可愛らしく、だがルークにとってはとても面白くない。
いろんな気持ちが混じりあったルークは、衝動的にルーに背後から抱き着く。
もはや慣例化された行為なため、ルーは特に気にした様子はなく受け入れている。
ガイもそんな二人を微笑ましく見守る。
だが、それも長くは続かなかった。
「おい屑、邪魔だどけ」
ルーに後ろからへばりついているルークの背後から声がかかる。
その声を聞いたルークは舌打ちをし、ルーを抱きしめる腕に力が入る。
ルーもその聞きなれた、だが懐かしくも感じる声に反応し振り返ろうとしたが、ルークに抱き着かれていて見えなかった。
ルークは顔だけを向けた状態で、声を掛けてきた人物、ルークの双子の弟であるアッシュに対して不機嫌さ前面に出す。
「ああ!?帰ってきて早々マジでうぜぇな」
「なんだと!?てめぇの我儘で戻らなかった分まで手間かけさせやがったくせに何言ってやがる。どこまでも屑だなてめぇは」
「屑しかいうことねーのかよ、このデコはげ野郎が」
「てめぇ…っ」
「こらこら、ルークもアッシュもその辺にしとけって」
ガイが二人の間に割って入り止めに入る。
「…?おい屑、そこにいるのは誰だ」
明らかに何者かに抱き着いているルークにアッシュは眉を寄せながら問う。
流石に気付かれたかとルークは舌打ちしそうになった時、腕の中でごそごそと動くルーに気付く。
恐らくアッシュが気になっているのだろう、とてもそわそわした様子でルークの背後に視線を送っていた。
それに対して面白くないと思いつつも、楽しみにしていたルーの事を思い出し、ルークは渋々ながら抱きしめていた腕を解く。
それと同時にひょっこりとルークの横から顔を見せたルーに気付いたアッシュは目を見開く。
「アッシュだっ!!」
ぱぁっと笑顔を浮かべながら目を輝かせるルーにびくっと反応するアッシュ。
そんなことにお構いなしでルーはルークの腕から離れ、アッシュに近づく。
「はは、すげーアッシュだ!本当にアッシュがいるんだな!」
「だ、誰だてめぇ!おい屑どうなってんだ!」
突然現れたルーに、アッシュは思わず後ずさりをする。
自分の兄に似ているが、全然違うものだとわかるこの目の前の存在に困惑を隠しきれない。
アッシュはルークを睨みつけるが、ルークは答える気がないようでウザったそうに顔をそらす。
「はうあ?!る、ルーク様が二人?!」
「まぁ!」
「これは一体…」
少し遅れてその場に到着したアニスとナタリアとティアも驚愕の声を上げる。
対してルークは面倒くせぇと眉を寄せ不機嫌さを出し、ルーは目を輝かせている。
「…っ!!」
「え、ま、まさか双子じゃなくて三つ子だったとか!?」
「!聞いたことありませんわっ!で、ですが…そ、そうなのですかアッシュ!?」
「そんなわけあるか!おいさっさと答えやがれ!」
「だぁーもーっうぜーっ!!!」
ティアを除き、途端にギャーギャーと煩くなるライマ勢にガイは苦笑いを浮かべ、ルーを見る。
ルーは一人一人の顔をしっかりとみて、嬉しいと零れんばかりの笑顔を見せた。
「ティア、アニス、ナタリア!本当に皆いるんだな!!」
極上の笑顔を直視したティアは思わず、小さくうめき声を上げる。
ティアの中の数ある可愛いものとして認定されたようだ。
だが、それに気づかないルーとナタリアはティアの突然変異に驚く。
「ティア!?」
「まあティア!しっかりなさって!」
「…だ、大丈夫よ…」
「本当か?どこか具合悪いんじゃ…」
「ほ、本当に大丈夫だから…」
覗き込んでくるルーにティアはバッと顔を背ける。
顔を手で覆い隠しているが、ぷるぷると震えている。
ああこれはもうだめだなとルーとナタリア以外のメンバーはなんとも言えない顔をして小さく溜息をつく。
「と、ルー、まずは自己紹介した方がいいんじゃないか?」
少しだけ空気が落ち着いたところで、ガイが提案するとハッとしたルーはそうだったと呟く。
「俺はオールドラントっていうこの世界とは別の世界からきたんだ。俺のことはルーって呼んでくれ。よろしくな!」
にっこりと笑顔を見せる姿にアッシュ達は呆然とし、ティアは陥落した。
「…やっぱこいつらそっくりなのか?」
「うん!みんな俺の世界のみんなとそっくりだ!」
ルークの問いにルーは嬉しそうに頷く。
その姿をみたルークはふーんと興味なさそうに相槌を打つが、その表情は優し気な微笑みを浮かべていた。
それを目の当たりにしたガイ以外は目を見開き驚き固まる。
いままで見たことのないものだっただけにその衝撃はすさまじかった。
「え、え、ル、ルーク様!?ど、どうしたんですか!?」
「あ?何がだよ」
「な、何か変なキノコでも食べましたの?!」
「はぁ?お前ら何言ってんだ?意味わかんねーんだけど」
いち早く我に返ったアニスとナタリアはルークに詰め寄り問うが、ルークは眉を寄せながらウザったそうに呆れた顔を浮かべる。当の本人は自分の変化に気付いていないようだ。
動揺する皆を尻目にルークはルーに抱き着く。
「なー、もういいだろ?そろそろ行こうぜ」
「んー、もう少し皆と話したいな。…ダメか?」
「…、…わかった」
仕方ないと渋々承諾するルークにルーは嬉しそうだ。とても微笑ましく見える。
だが、アッシュ達はそれどころではない。
ありえないことばかり今目の前で連続して起こっている、その事実に皆目を見開いたまま動けないでいる。
あのルークが人に抱き着いて、人の言うことを聞いている!?
「?」
静まり返ってしまったアッシュ達に、ルーは不思議そうに首を傾げる。
もうすでに二人のやり取りに慣れているガイは微笑ましそうに見守っていた。
だが、それも束の間で、ガイはアッシュ達からの向けられる視線を感じ取り、そちらを見ると強張った顔でこれは一体何事だ説明しろと目が語っており、思わず苦笑いを浮かべる。
まぁ戸惑うのも無理はないかと思いつつ、どう説明すべきか考えていると、視界の片隅に人影が目に映った。