第6話
その日、ルーはルークを部屋に招き、机に向かっていた。
この世界では言葉こそは通じたものの使用している文字は異なり、来たばかりの時は文字の読み書きが出来なかった。
それでは流石に生活する上でも支障が出てくるだろうとルーはこの世界の文字の勉強を始めたのだ。
今はその勉強の真っ最中で、ルーはルークに文字の書き取りを教えてもらっている。
他の仲間からしたらルークに教えてもらうという選択肢に軽い衝撃を受けるが、ルークは王族としてある程度の勉学は積んでおり、口や態度に問題はあるものの、意外と根気強くしっかりと教えてくれる。説明も分かりやすく、ルーにとってはとても頼りになる良い先生役だった。
リフィルから貰った勉強道具を使い、ルーはうんうんと唸りながら考え、それでもわからない所は隣で見守ってくれてるルークに聞いてはその答えに納得して次へを繰り返していた。
ルークはふあっと欠伸をする。
時計を見れば、既に勉強を始めて数刻が経っていた。
未だ真面目に問題集と向き合っているルーにそろそろ休憩してぇと口を開こうとした時、静かだった部屋にドアをノックする音が響く。
思わず二人はびくりと肩を震わせ、そちらの方へ振り向くと、ゆっくりと扉が開く。
そこには人の良さそうな笑みを浮かべたガイがいて、二人は僅かに肩の力を抜く。
この世界のガイもルークは勿論、ルーにもにとても優しく、親身になってくれ安心感があるのだ。
「ルーク、ここにいたのか探したぞ」
「なんだよ?ガイ」
「今日アッシュ達が帰ってくるらしい」
「げっ・・・」
ガイの言葉にルークは物凄い渋い顔を浮かべる。
ルーがこの世界に来る少し前からアッシュ達ライマ勢のほとんどが一時的に帰国していた。
ルークも最初は帰国するはずだったのだが、ルークは我儘を言ってここに留まっていた。
なんだかんだでここでの生活はルークにとって新鮮で、初めてガイ以外にロイドやクレスなど友と呼べる存在ができたのがルークにとってとても大きかったのだろう。
ガイもそれに気づき、護衛としてルークと一緒にここに残っていたのだ。
「ルークはアッシュ達に会いたくないのか?」
「あいつらうぜーし。どうせまた何かと怒鳴りつけて説教してくんだよ。せっかく静かでよかったのによ」
「はは、そういうなよ。ルーはアッシュ達に会いたがってたな」
「うん!」
心底うざそうにするルークとは正反対に嬉しそうに笑みを浮かべるルー。
アッシュ達がこの世界にいると聞いた時から会いたいと思っていた。
俺の知ってるみんなと同じ感じなのかな?
「いつ頃帰ってくるんだ?」
「さっき鳩がきたから、そろそろ着くと思うぞ」
「そっか、楽しみだなー」
誰から見てもわくわくとしていることがわかるその姿を見て、ルークは面白くないとむすっとする。
分かりやすい二人にガイは思わず笑みを浮かべる。
ガイにとってルークは可愛い主人であるし、ルーは可愛い弟みたいな存在だ。
二人のやり取りはガイの癒しの時間である。
また、ルーが来てからのルークは前より性格が少し丸くなったと感じていた。
相変わらずの無茶ぶりもあるといえばあるのだが、それも減った気がする。
それどころか、不器用な気遣いや優しさを以前よりちらつかせるようになったのだ。
この短期間で感じたルークの成長に、なんとなく寂しいような嬉しいような複雑な気持ちだ。
でも嫌ではない。今のルークを見たらきっとライマの人間も驚くだろう。
そしてルーの存在にも。
ガイもいろんな意味で皆の帰還を楽しみにしていた。