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番外編 ちびルーとユーリ


さて、どうしようか。
ユーリはベッドに腰掛け子どもになったルーを見ながら考える。
ルーは辺りをキョロキョロと忙しなく見回しており興味津々といった様子で、デートの時のルーを彷彿させる姿に自然と笑みが溢れる。
可愛くて仕方がない。
今のルーは恐らく12歳くらいか。
その年頃に比べれば落ち着きはないかもしれないが、ルーの精神年齢的に考えると単純計算で2歳くらい。むしろ大人しい方だ。
流石に何もせずこの部屋で待っているのは退屈だろう。大人の自分ですらそうなのだから。
薬がどれくらいで完成するかもわからないこともあり、このバンエルティア号の中を教えておく必要もある。

となると、まずは服か

今のルーは元々着ていたブラウン色のシャツだけだ。
サイズは小さくなった体には合わずダボダボした印象だが、これだけでは丈も足りないし、何より無防備過ぎるその格好を他の奴に見せたくない。
ギルド内でルーは人気があるし、あわよくば…と狙っている気がするジュディス等の一部メンバーは特に警戒したことに越したことはない。
そんなことを真顔で考えていると、部屋にノックの音が響く。

「はい?」

悶絶から回復したアニーがドアを開けると、そこにいたのはジーニアスとマオのお姿で息をきらしていた。

「さっきハロルドからルーが大変なことになっちゃったって聞いて来たんだ!ルーは……!!?」

大丈夫かと言いかけたジーニアスだったが、ふと視界に入ったルーに目を大きく見開き驚く。
マオも同様に驚いた表情を見せたが、わずかに感心した様子でルーの元に歩みよる。

「本当に大変なことになっちゃってるね、ルー。僕より小さくなっちゃったんじゃない?」

素直な感想をそのまま口にしたマオに、ルーはきょとりとしたがすぐに両頬をプクーっと膨らませ怒った表情を見せた。

「ちいさくないもん!!」

主張するように大声をあげたルーは、感極まった様子で顔を真っ赤にすると隠れるようにユーリの背中にぎゅっと抱きつき顔を埋める。
すると今度はぐすぐすと涙ぐむ声が聞こえてきた。

……やべぇな……

本当にどうしたものか。ルーには悪いが可愛すぎて目眩がしそうだ。
顔の筋肉が完全に緩むのを感じながらも、力いっぱい抱きついてくるルーの頭を宥めるように撫でる。
一方でマオとジーニアスは目を丸くしてその様子を見ていた。

「え、もしかしてルー…記憶ないの?」

ルーが身長のことを気にしているのは知っていたが、今の癇癪を起こした姿はどう考えても幼い子どもにしか見えなかった。

「ああ」

ジーニアスは半信半疑で問われたはユーリが肯定するとふたりは互いに顔を見合わせた。
すると、それまでユーリの後ろで隠れていたルーが恐る恐る顔を見せる。
その目はまだ涙で濡れていたが、それよりも先程とは違いどこか怯えた様子にユーリは首を傾げた。

「どうした?」
「……」

ユーリの問いかけにルーは口を閉ざしつつも、ぎゅっと離れないようにその服を掴み直す。
その様子を見て、ジーニアスはルーに近づく。

「嫌だったんだよね。ごめんね、マオってデリカシーないから」
「さりげなくディスらないでよ。…けど、ごめんねルー」

素直に謝ったマオにルーは目をぱちぱちさせる。その拍子に溢れていた涙がぽおりと溢れるが、おずおずとした様子で頷く。
そんなルーにジーニアスはポケットからハンカチを出し、涙を拭いてあげるとルーは嫌がる様子は見せなかった。

「これでいいね」

よし!と笑顔のジーニアスをルーはじっと見ていたが、どこかそわそわし始める。
何か言いたいがどうすればいいのかわからず困っているようにも見える。
その様子にジーニアスとマオは首を傾げたが、ピンときたユーリは口を開く。

「ルー、そういうときは“ありがとう”って言うんだ」
「あ、りあとう?」
「“ありがとう”」
「あり、がとっ!」

ゆっくりわかりやすく口にすれば、ルーはその口元を見ながら一生懸命真似る。
その姿にユーリは笑みを浮かべ、よくできたと褒め頭を撫でれば、ルーは嬉しそうに頬を赤く染めた。

「ありがと!」

ジーニアスの方を向き直ると目を輝かせながら覚えたばかりのお礼の言葉を口にする。
向けられた目はとても澄んでいて、心の底から伝えたかったことだったことが手に取るようにわかる。
その様子にどこか感動したジーニアスはすこし顔を赤くしながら笑顔を見せ、どういたしましてと返した。
ホッと心が温まる光景にその場の面々は見入っていたが、ふとユーリが思い出す。

「悪ぃんだが、ルーに服を貸してやってくれないか?合うサイズがなくてな」
「あ、うん、勿論だよ!」

快く快諾したジーニアスは取ってくるねと言い残し、部屋から駆け出していった。
その数分後、戻ってきたジーニアスの手には服があり、ルーは首を傾げる。

「お待たせ!えっと、着替えの仕方わかるかな?」
「?」

持ってきた服をルーに手渡してみるが、ルーは服を手にしつつも頭上にはハテナが沢山飛んでいた。
その様子にジーニアスとマオは顔を見合わせるなり、うんと頷く。

「じゃあ一緒に着替えようか」
「ってなわけで、ルーこっちね。」

2人はルーを着替えさせるために、張り切って医務室のカーテン奥へと連れて行く。
このギルドでは1番年下扱いされている2人だ、恐らく弟ができたような気持ちなのだろう。
それに対してユーリとアニーは微笑ましく思い笑顔を見せた。

しばらくして、カーテンが開かれる。

「ゆーり!」
「お、着替え終わったな」

元気いっぱい声に反応し、見ればジーニアスの青い服を身につけたルーが駆け寄ってくる。
ルーはユーリの前に立つと、余程嬉しかったのか目をキラキラさせながら見てくれと一生懸命にアピールしてくる。
だめだ、これは…。

「似合ってるぞ」
「!えへへ、ありがと!」

ルーはとても嬉しそうに満面の笑顔を見せ、ユーリの隣にくっつく。

「…ねぇ、あれ大丈夫なのかな?」
「うーん…大丈夫かって言われると…」
「まー今更っちゃ今更だけどね〜…」

困惑したような、呆れたような表情を浮かべたジーニアス、アニー、マオは小声で話しはじめる。
その視線の先にいたのは、ルーを見つめるユーリだ。
普段からルーに向けるその視線は甘ったるいものだが、今のユーリ甘いを通り越してもうデレデレだ。
完全に自分達の存在を忘れているに違いない…そう確信が持てるほど、その目は甘ったるく口元はゆるゆるの豹変ぶりだ。
あんな姿初めて見た。キャラが違う。

「ユーリをどうにかできるのってルーくらいしかいないんだけど…」

そのルーは今、ある意味ユーリをどうにかしている。
不安げにぽつりと呟かれたアニーの言葉の先に続くものなかった。

ユーリが壊れる前にルーを元に戻さないと…。
そんなことばかり考える3人だった。



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