第33話
それはオールドラントのアッシュ達が帰り、ルー達もバンエルティア号へ戻ろうとピオニー達に挨拶をしたときのとこだった。
ピオニーはルー達が戻ると伝えると、まだここにいてもいいんじゃないか?と駄々をこね始めたのだが、それをジェイドが飛び切り笑顔という凶器で一刀両断で拒否した。
どうやら今回の騒動で一番働かされたのはジェイドだったらしい。
いろんな人への根回しと道具を作り、挙句の果てにはセッティングまでさせられたのだと、真っ黒な笑顔と共に捲くし立てていた。その時の情景と恐怖はルーの目に焼き付いている。
その後、ピオニーやイオン達がライマの門まで見送りにと来てくれた。
「ルーク、また手紙を送りますね」
「おう。お前ちゃんと休めよ、あんま体丈夫じゃねぇんだから、ぶっ倒れても知らねぇぞ」
「はい、休むようにしますね。」
ルークの気遣いにイオンはふふっと笑い頷くと、今度はルーの方を向き歩み寄った。
「ルーにも手紙を送っても良いでしょうか?」
「!うん!勿論だ!」
嬉しそうに頷くと、イオンも嬉しそうに笑みを見せた。
「…ルー、あなたの優しさは大きな雫の波紋のように、あなたに出会った人間にやさしさを与えていきました。それは一つ、また一つと増え、大きな波紋となり、いがみ合いの心は思いやりの心へと変わり、それは関係性さえも変えました。」
イオンは朗らかな笑みを浮かべながら、祈るように両手の指を組み目を閉じる。
「僕達はあなたに会えて、本当に良かった。沢山の優しさをくれたあなたの世界が沢山のやさしさで溢れるように、僕たちは願います。」
そう言い終えたイオンは勿論、見送りに来た者たちも、ユーリやルーク達も優しい笑みを浮かべる。
それを受けたルーは僅かに目を瞬かせたが、胸の奥が熱くなるのを感じ、飛び切りの笑顔を返した。
「ルー」
ぼんやりと思い返していた中、ふいに声をかけられ、そちらの方を見ると、ユーリはいつの間にか起き上がり胡坐をかいていて、笑顔を浮かべた状態で軽く腕を広げていた。
ルーはそれに誘われるように近づくと、その腕の中に引き込まれる。
それに答えるように腕を回し、ぎゅっと抱きつくと温かな温度とふわっと香るユーリの香り。
ルーは顔をぽっと赤くさせたが、きゅぅっとしたものも感じ、離したくないとそのままぎゅっと服をつかみ、体を密着させた。
甘えるように頬を摺り寄せると、頭を優しい手つきで撫でられる。
それが嬉しくて、自然と笑みが零れ、そっと目を閉じた。
穏やかな陽気で心地の良い時間が流れる。
温かく安心できる腕の中、ルーはふと思う。
「…いいのかな」
「ん?何がだ?」
「なんか…すげー、幸せだって思ったから」
俺なんかが良いのだろうか。
沢山の命を摘んでしまったのに。
消えようのない罪悪感に、ルーは僅かに身を縮めた。
そんな中、ユーリはルーの額にキスを送る。
「いいんだよ」
少しずつ変わっても、きっと完全には消えることのない痛み。
けれど、それもひっくるめて心に誓ったことがあった。
ユーリはゴソゴソと懐から四角く小さい箱を取り出し、ルーに手渡す。
受け取ったルーは目を瞬かせ、首を傾げる。
??なんだろう?
ユーリを見ると、開けてみろと目で言われたルーは不思議そうにそれを開ける。
そこにあったものに、ルーは大きく目を開き、バッとユーリを見た。
「俺は一生賭けてお前を幸せにしてやるって決めたんだ」
そういうユーリの目には強い意志のこもった光を宿していて、ルーはじわじわと頬が熱が集まってくるのを感じ、そして同時に膨れ上がる気持ちに反響するように目頭が熱くなる。
「だから、お前も俺に幸せにされてろ」
「…うん…っ!」
嬉しくて、幸せそうに笑うルーは花の様で、ユーリは他の人に見せたことのない優しい笑みを浮かべ、愛おしそうにその花に誓いのキスを送った。
その小さな箱で輝くリングに祈りを込めて。
END
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