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第32話





その頃、ルークは物陰に隠れながらタイミングを見計らっていた。
その視線の先にいるのは、なぜかルー達のいる場所から離れたオールドラントのアッシュ。
見たところ一人のようで、誰かを待っているようにも見えた。

…い、今しかねぇ…

誰かが来る前にと、恐る恐るアッシュの方へ向かうと、アッシュはすぐにルークの方に振り向く。

「なんだ」

最初からルークが話しかけてくるのを見透かしていたかのようで、淡々としたものだった。
ルークはそれに怯みながらも、ぎゅっと手を握りしめ、自分を奮い立たせる。

「…べ、別に、俺は頼んだわけじゃねぇし、勝手にお前がやり始めただけ…だけどよ…」

目を泳がせながら、しどろもどろに言葉を紡ぐルーク。
ちらりとアッシュの方を見ると、じっと無表情でルークを見ていて、思わず目をそらす。

「…けど、えっと…だから、その…、…た」
「…」
「……た……助かった」

しんと静まり返る中、ぼそりと呟かれたそれに、アッシュはぴくりと僅かに反応する。
一方でルークは心臓をバクバクさせながらも安堵の笑みを見せる。

よ、よし!言った!言ってやった!!!

あとはバックレるだけだとすぐに踵を返し、その場を離れようとしたルークだったが、突如腕を掴まれ阻まれる。
想定外の事態に驚いたルークはその腕の方を見ると、驚くほど至近距離にアッシュがいて、ルークは反射的に身を引き臨戦態勢になる。
その身構え方は得体のしれないものに対して怯えながらシャーッと猫が威嚇しているような様子でアッシュの口角があがった。

「な、なん…っ!?」

なんだよ!と噛みつくように言いかけたルークだったが、突然その口が塞がれた。
ルークは大きく目を見開く。
視界いっぱいに映る目は綺麗な翡翠色。
思考が一時停止していたルークだったが、ゆっくりと離れ、見えたのはニヤリと笑みを見せるアッシュで、その顔には面白い玩具を見つけたと書いてあった。

「うぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

ルークは悲鳴を上げダッシュでその場から離れる。
全力疾走するルークは、ルーの姿を見つけた途端、突進しルーの肩をがっと掴むとその勢いのまま揺さぶる。

「おいっ!!!!お前んとこのアッシュどうなってんだよ!!!!!??」
「え、る、ちょ、まっ」
「おいお坊ちゃん落ち着け!」

顔を真っ青になったり真っ赤になったり忙しないルークは衝動のままルーに問い詰めるが、物凄い勢いで揺さぶられぐわんぐわんになっているルーはそれどころではない。
すぐにユーリが制止し、目を回すルーを救出する。
すると、足音が聞こえてきてルークはハッとしてそちらの方を見ると人の悪そうな笑みを浮かべたアッシュがいて、ルークは悲鳴を上げてルーの後ろに隠れる。

「…何をしたんですか?」
「さあな」

ジェイドの問いかけに、アッシュは笑み浮かべながら適当に返す。
ルーは訳が分からずハテナを頭上に浮かべていた。









***

「皆、ご苦労だったな。」

満足げに笑うピオニーの前にルー達はいた。
この場にいるのは、ルーとユーリ、ルークとルミナシアのアッシュ、そしてイオンだ。
オールドラントのアッシュ達は今、ルミナシアのジェイド達と音素について話をしている。
元々オールドラントからこの世界に来たアッシュ達はルーを助けるためにきた。
それはこの混乱から救うということ、そして音素についての知識をこの世界の信頼できる人間へ伝えることだった。
ルミナシアのジェイドはいろいろと音素について調べたが、やはり不明な点も多かったようで、戦力としても使えるだろうし、この際この世界に呼んでしまうのが手っ取り早いと判断したらしい。
そこで怪しいと踏んでいたミュウの存在を調べ居たところ、ソーサラーリングとローレライがつながっていることに気づき、それからはあれよあれよと話が進んだ。

「今回は、お前たちのギルドにも大分世話になった。」
「え?それはどういう…」

首を傾げるルーにピオニーは大きく頷く。

「実はここの玉座に四角の変な箱があっただろう。あれはジェイドとアドリビトムのメンバーが作り上げた代物だ。なんでも、以前大精霊が使った過去の映像を流す譜陣をジェイドが暗記して実践したらしい。」
「!?」

過去の映像とは恐らくローレライが見せてくれたアッシュ達の伝言で見せてくれたあの映像を指しているのだろう。

でも譜陣を暗記って、あんな一瞬しか見えなかったあれをか!?

ルーは唯々唖然としていると、イオンはふふっと笑う。

「僕からもお礼をしなければいけません。今回、転送の譜術を使いましたが、その力を100%以上高めてくれたのは、彼らが作ってくれた補助器とルーの宝珠です。」
「え?」
「僕は転送の譜術が得意ですが、流石に星一個分の力を受け止める力はありません。その力を分散化させるために、宝珠の力で音素を拡散させ、補助器で譜陣の力を高め大きく広げたんです。」
「そうだったんだ…」

だから宝珠を貸してほしいとジェイドが言っていたのかと合点が行った。
つい先ほど返してもらった宝珠見ながらぽつりとつぶやくと、満足そうにピオニーが笑う。

「礼は追ってするとして…。…ルーク、アッシュ」

先ほどとは打って変わって真剣な口調で名を呼ばれた二人はピクリと反応し、ピオニーを見る。
その顔に笑みはあるものの、その目は笑っておらず、僅かに二人に緊張が走る。
そんな中、ピオニーは立ち上がり玉座から離れると二人の目の前に立つ。
何とも言えない威圧感に、二人の背中に汗が流れる。
一体何を言われるのだろうと身構えていると、ピオニーは笑みを見せた。

「二人とも、合格だ」

ルークとアッシュは一瞬何のことかわからず呆然としていたが、徐々にその意味を理解し始める。
ルークとアッシュは互いの顔を見合わせ、驚きの表情を見せる。
それに対してイオンは自分の事かのように嬉しそうに笑みを浮かべた。






続く。


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