第32話
「え、えっと…じゃあ、アッシュは…た、助けに来てくれたのか…?」
「ああ?それ以外になんの意味がある。俺は暇じゃねぇんだよ」
まさかそんなことはと思って聞いた質問だったが、あっさりと返ってきた肯定にルーはぽかんと口を開く。
そんなルーを無視してアッシュは真剣な目でルーの全身を軽く見るなり肩の力を抜いた。
「…まあ、お前の無事なことが分かったからな、無駄足ではなかった」
そういうなりアッシュはふっと優し気な笑みを浮かべた。
それを直視したルーはピシリと固まりこれでもかと目を見開く。
・・・・・・・・・・・誰。
「・・・え・・・あ・の・・あ、アッシュ・・・だ、よな・・・?」
この世の物とは思えないものに出会ったような感覚を受けたルーは、汗をダラダラ掻きながらぎこちなく改めて問いかける。
すると、それまで優しげだったアッシュの顔は一変し不機嫌さを前面に出した。
「ああ゛?何度言わせる気だ」
「!う、うん!そうだよな!アッシュはアッシュだよな!!」
凄みを増したアッシュにルーは必死に言い聞かせるように頷く。
確かにこの感じとこの感覚はアッシュであることに間違いない。
けれど、自分の知っているアッシュとは偉く違うのも感じ、困惑を隠しきれずにいた。
「ルークが困惑するのも無理はないですね」
背後から声が聞こえ、バッと振り返るとそこにいたのはオールドラントのジェイド。
見た目はこちらのジェイドと変わらないが、ルーは直感的に悟った。
アッシュだけではなくジェイドまでと驚きっぱなしのルーを見て、ジェイドは笑み見せる。
「何せ、あなたと別れてから2年は月日が流れてますからね。」
「!2年…?」
「正確には3年弱くらいでしょうか。皆それなりに歳も取りますし価値観も変わりましたよ。特にあなたに対してはわかりやすいくらいに。」
「え?俺?」
「はい。ローレライから “ルーク”という単語が出た瞬間に皆飛びつきましたし、大の大人たちが軽いパニック状態でしたよ。」
「ぱ、パニック?」
「一応両国の代表者の集まりだったはずなんですがね。いつも厳格なファブレ公も今回はなかなかすごかったですね。あんなに青ざめて取り乱しているのを見たのは初めてでした。」
「…お陰で冷静にはなったがな」
はぁ…と溜息をついたアッシュは遠い目をしながら若干疲れた様子を見せる。
「まぁ、結果的にタイミングはよかったです。おかげであなたを助け出す方法についての議論が話がとんとん拍子で進みました。」
「!」
「助け出すにしても、あなたはオールドラントへ戻すことができませんから、こちらからそちらに向かうしか方法がない。そんな方法があるかどうかがその場の焦点でしたが、ローレライから提案があったんです。こちらの世界に転送術に長けた人間がいる、その者の力と私達側の力をタイミングを合わせればこちらの世界に行くことは可能だと。」
「!」
「けれど、そう簡単にもいかないこともわかりました。見えない世界とのタイミングを合わせることも難しいですが、問題はその力の量です。何せ、オールドラントからこの世界へ来るには、オールドラント中にいる全ての第七音譜術士の力が必要だとされましたから」
「そ、そんなに?!そんなの無理だろ…」
それはハードルが高すぎる。
ただでさえオールドラントはローレライが解放されたことによって第七音素自体が減っているはずだ。
ただ一人のためにそんな貴重なものを使うはずがない。
そう感じたルーだったが、ジェイドは見透かしたように続ける。
「力を使うことについては、その場で両国ともに二つ返事で快諾がされました。あなたのためになるのであればと」
「!」
「私たちが一番大変だったのは第七音譜術士たちを一か所に集める作業です。オールドラント中にいる第七音譜術士を探して一か所に集めるにはそれ相応に時間がかかりますからね。ですが、ギンジたちが大分頑張ってくれましたので、どうにか間に合いました。結果、私たちはここにいるんです。」
展開についていけず、思考が停止していたルーだったが、実際にアッシュ達を前にし少しずつ脳が現実を受け入れ始めた。
ルーの中でじわじわと温かな感情が広がっていく。
アッシュ達が助けに…会いに来てくれた…!
「そっか…!二人とも、ありがとな!」
ルーは本当にうれしくて、思わず満面の笑みが零れる。
その笑顔を見てアッシュとジェイドは笑みを返すが、ぴくりと何かに反応し視線をずらす。
それにルーは首を傾げていると、背後からばたばたと走ってくる足音が聞こえてくる。
なんだろうと振り向こうとした途端、ドン!と衝撃が入るなり視界が真っ暗になる。
「わ!?え、なにっ」
「ルーク!大丈夫だったか!?」
「!その声、ガイ!?」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられるルーは正直見えないが、この声はガイだ。
ルーはもがき、なんとか顔だけ外に出るとぷはっと息を吸う。
そして心底心配そうにする以前より少し大人になったガイと目が合う。
「ルーク、怪我ないか?心配したんだ。お前は無茶ばっかりするから…」
「う、うん、大丈夫だよ。それより、ガイも来てくれたんだな」
「当たり前だろ。」
少しばかり落ち着いたガイは、抱きしめる手を解くとぐりぐりとルーの頭を撫でる。
ルーはうわっと声を上げつつも、久しぶりに会えたガイのスキンシップに笑みが零れる。
「へへ、ありがとうな、ガイ」
嬉しそうに笑うルーに、ガイも笑みが零れる。
デレデレのガイは再びルーに抱擁しようと腕を伸ばす。
すると、今度は別の方向から足音が聞こえてきた。
「ルークー!!!」
「!」
「ぎゃーっ!!」
大声を上げルーめがけてダイブするように抱き着いたのは、オールドラントのアニス。
ガイはアニスに触れると、お決まりのように勢いよくルーから離れる。
視界が開けたルーは驚き目を瞬かせるが、下に視線を向ければ涙を流すアニスが目に入る。
「ルーク…!!会いたかったよ~…!」
ぐすぐすと泣きながらアニスがこぼした言葉に、ルーは息を飲む。
顔を上げると、そこにはナタリアとティアの姿もあり、二人のほっと安堵した笑顔を見て、ルーは感極まり涙をこぼした。