第32話
ルーとユーリは、城に残る魔物や賊たちを倒しながらルーク達を探す。
至る所に瓦礫が散らばり、走り辛いがそんなことも気にならない程に心は逸る。
城の裏側に向かうと多くの魔物や賊が倒れているのが見えてくる。
激しい戦闘の跡が垣間見えるそこへ二人は駆け込むと、ルーはハッと目を見開く。
「っルーク!!」
「!」
体力を戻すために隅の方で大人しく身を隠していたルークは、突如聞こえてきた呼びかけにハッとし振り向く。
するとルーはルークめがけて飛びつき、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「!?ルー!?なんで…」
「よかった…っ…よかった…っ」
涙ぐみ震える声で呟かれた言葉にルークはピクリと反応する。
ルーはルークを離さないと言わんばかりにルークの服を力強く握りしめている。
その姿に、ルークはぐっと口を紡ぐ。
「…ル…いで!!~っ何すんっ、だ…」
申し訳なさそうにおずおずと声を掛けようとしたルークだったが、その直後バシッと頭をひっぱたかれる。
その衝撃に頭を抑えるが、すぐに顔を上げキッとそちらの方を見ると、そこには腰に手を当てたユーリがいて、その顔はいつもの余裕さはなく、どこか怒っている様に見えた。
「…今のはギルドの連中、特にロイドとクレスからだ。ちゃんと謝れよ。」
「!…」
ルークは目を大きく開き言葉を詰まらせる。
「…それと」
「いだ!!」
「これは俺から」
今度はげんこつが飛んできたルークは思わず目を閉じる。
さっき叩かれたばかりということもあり、痛みでうなり声を上げながら頭を抑える。
それに対してスッキリしたと言わんばかりに、ユーリはいつもの余裕あるいい笑顔を見せる。
「~~~っコノヤロー…!!!」
イライラMAXのルークは拳をあげようとしたが、ふと視界に入ったものにぴくりと手が止まる。
すると、同時にルーもピクリと反応し、ばっと顔を上げた。
その視線の先にいたのは、魔物の残骸に背を向け、剣についた血を払い鞘に納めるオールドラントのアッシュ後ろ姿。
ルーは目を見張り、あまりの衝撃にどくりと脈を打つ。
「っアッシュ!?」
ルーは声を上げオールドラントのアッシュの方へ駆け寄る。
するとアッシュはゆっくりとした動きで振り返るが、その顔を見るなりルーは思わずびくりと体を震わせた。
め、めちゃくちゃ怒ってる…!!?
こめかみに青筋を立て、目が据わっており、まさしく般若の如く怒っているのが手に取るようにわかる。
びくぅ!っと条件反射でルーが体を震わせていると、アッシュはルーの方へとずかずか近づいてくる。
「へ?あいた!!」
目の前に来たアッシュが無言のまま手をあげたかと思えば、突然ルーの頭にげんこつした。
さほど強くはないものだったが、ルーは思わず叩かれた頭に手を当てる。
いきなり何するんだとルーは怒りだしそうになったが、ふと我に返る。
痛い…?
その感覚にルーはそろそろと顔を上げると、そこには変わらずアッシュの姿があり、思わず目を瞬かせる。
それに対してアッシュは眉間の皺を深くし不機嫌を前面に出す。
「てめぇは相も変わらず無茶ばっかしやがって…!どれだけ心配かけさせれば気が済む!」
「うっ!ごめ…、…え?」
いきなり怒鳴られ反射的に首をすくめ目を閉じたルーだったが、はたと目を瞬かせる。
心配…??つーか…
見れば相変わらず不機嫌全開のアッシュがいたが、ルーはそれどころではなかった。
「…アッシュ…?ほ、本当に…アッシュなのか?」
半信半疑で独り言のように漏らすと、アッシュは僅かに呆れたような表情を浮かべた。
「ああ?他に誰がいる」
何を言っていると眉を寄せるアッシュに、ルーは目をパチパチさせる。
ゆ、夢じゃない??
「え、な、なんで…ここに…」
「…なんでだと…?」
アッシュはピクリと眉を上げるなり、ぎろりと睨みつける。
その迫力にルーは改めてアッシュであることを再確信し、体を震わせる。
「ローレライから連絡を受けた。」
「え?ローレライ??」
「…今、オールドラントでは人口増加に伴う食糧難の問題がおこっている。その為、キムラスカとマルクトは互いの技術の連携し事態の回避を図ることになり、その会議を行うことにした」
「!そうなんだ…」
ルーのいた頃は、友好からは遠く休戦状態で互いが睨み合い探り合いだった両国だった。
その国同士が技術の連携をするまでになっていたことに、ルーは驚く。
それはピオニー陛下や叔父上たちの力もあるだろうが、きっとアッシュ達が橋渡しをしたのだろう。
やっぱりすごいな…!とルーは考えていたのだが、アッシュを見ればどこか遠い目をしていて思わず首を傾げる。
「その会議の場であるダアトにキムラスカ、マルクト、ユリアシティの代表団が赴き、各々の席に着席した途端、ローレライのやつが現れた。」
「!」
「今まで俺たちの前から姿を消していた奴がいきなり現れて一体何事かと思えば、開口一番に『ルークが一大事だ』と言い出した」
「へ!?」
「…話を聞けば、あいつはてめぇが本当に別の世界に馴染めるか見ていたらしいが、途中体の組織が偉く変わって音素が送り辛くなるわ、それに悪戦苦闘していたら置いて行かれて姿を追えなくなるわ、念のためお前に張っておいた防御用の音素がその間に破られて力が暴走するわ…」
ルーはそこまで聞いて、ハッと思い出す。それはきっと自分が毒?のせいで女性の体になってしまった時の話だ。
そういえば屋敷で殴られそうになった時、一度だけ突然力が溢れ出てきたことがあった。
「…それが落ち着いたと思ったら、今度は自ら敵陣のど真ん中に突っ込んでいくわ、しかも宝珠を他の奴に渡すわ…!」
「う…っ!!」
めちゃくちゃ筒抜けじゃん!!つーかどこでそんなの見てた…?ローレライがいたならすぐ分かる…ってまさか、ミュウのソーサラーリング!!?
いろいろと思考を巡らせている中、更に機嫌が悪化しているように見えるアッシュが目に入り、ルーは冷や汗が流れる。