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第31話


ルーは驚き目を見開き、ユーリは眉を寄せた。

「…誰だこのおっさん」

とげのある言葉を吐いたユーリに、ピオニーは面白いものを見るような目を向ける。
すると、その背後からスッとフリングスが姿を現す。

「このお方は、ライマ国を治める皇帝陛下のピオニー陛下です」
「!」

ルーはフリングスの登場に驚きつつもやっぱりと息を飲む。
ピオニーはすたすたとルーに近づき顔を覗き込み、何か心得たようなに頷く。

「お前さんが、“ルー”だな。」
「え、なんで…」

突然名を呼ばれルーは目をパチパチと瞬かせていると、その姿にピオニーは満面の笑みを浮かべる。

「なるほどな、うんうん、可愛いぞ!さすが俺の可愛い甥っ子が認めただけある。あのジェイドでさえも俺にひた隠ししたのも今なら少しは納得できるな」

これは仕方ないと満足げに頷くピオニーに、朗らかな笑みを浮かべ見守るフリングス。
見えない展開の速さについていけず、呆然とするルー。
だが、ユーリはピリピリしたオーラを消すことなく、ピオニー達に真っ向からぶつける。
その様子に、ピオニーは殊勝な笑みを浮かべた。

「俺の立場を聞いた上でのそれか。今時随分と珍しい若者だな。嫌いじゃない。」

ピオニーは愉快そうにユーリを見るが、その目は侮蔑したようなものではなく、素直な感想といった様子だった。

「ぐっ、貴様…なぜここに…」

息が絶え絶えになりながら、アルンプルトは醜い顔でピオニーの方を見る。
それに対してピオニーはといえば、声を出して笑う。

「おかしなことをいうな。ここが俺の国だからに決まってるだろう。それとも、俺がアスランに殺されている夢でも見たか?」
「っフリングス少将!貴様、裏切ったな!!」

アルンプルトはフリングスの方を睨みつける。
だがフリングスはその視線を受けながらも淡々とした様子で口を開く。

「私が生涯仕えると心に誓ったお方は、ピオニー陛下ただお一人です。」
「なっ!?」
「残念だったな、アスランは俺のだ」

勝ち誇った笑みを浮かべるピオニーに、怒りで震えるアルンプルトは強く睨みつける。
すると、フリングスの背後に待機していた兵士たちがアルンプルトを拘束しその首元に剣をクロスさせるように突き立てた。
また、アルンプルトの連れていた兵士たちも取り押さえられる。

「っ私にこんなことをしてただで済むと思っているのか!!私はガルバンゾの貴族だぞ!!あの国が黙っているわけがないだろう!!」
「つい先までその国に宣戦布告しようとしてた奴を庇うとでも?」
「はっ!お前たちがそう証言したところで、あの国は私の話を聞き、優先する!…このライマがガルバンゾに攻め込もうとしていたと、それを私が止めに行ったのだとな!」
「…どこまでも腐ってやがる…っ!」
「ユーリ!!」

再び怒りに支配され始めたユーリをルーは必死に止める。

「っこんな奴が生きてる限り、また繰り返される…権力がありゃあ、なんでもやっていいと思ってんのか…!!」

低い声で己の怒気をぶつけるユーリを、アルンプルトは馬鹿にしたような笑みを見せる。
そんな中、ふむとピオニーは呟く。

「確かにこのままではこちら側は不利だな。…だが、お前がガルバンゾに対してしでかそうとした証拠を見せれば、どうだろうな?」
「はっ!何を言っている、証拠など…」
「ならば、いいものを見せてやろう」

殊勝な笑みを浮かべたピオニーはすたすたと玉座の方へと歩み寄り、その背もたれの装飾品の一つに触れると、カタリと音を立て外れる。
それは箱のように四角く、その一つ面に円形の透明な塊がついている手のひらサイズの物。
その見たこともないものに皆の視線が集まる。
ピオニーは少し考えた後、それを適当にぶんぶんと振る。
すると、どこからともなく悲鳴のような奇声が聞こえ、ものすごいスピードでルー達の前を横切る。

「ちょ!!!!あなた何してるんですかっ!!!!!!そんな貴重なものに!!!!!」
「よおサフィール、ちょうどいい。これ起動してくれ」

ディストは発狂したようにピオニーに詰め寄るが、そのピオニーはといえば特に気にすることもなく手元にあるものを手渡す。

「まさか起動方法知らないんですか!!?」
「ああ。」
「ああ、じゃないでしょう!!!」

卒倒する勢いのディストに、ピオニーは悪びれた様子はなく、早くやってくれとせっつく。
それにディストは最初こそ目くじらを立てていたが、その箱のような物を見るなり何か操作を始める。
すると、突如その箱の一部が光り出し、次に透明な塊が光りを帯びた。
ディストはその光を白い壁に向け当てると譜陣が浮かび上がる。
だがその譜陣がきえると同時に浮かび上がったものに、ルー達は目を疑う。


『ようやく捕まえたという連絡を受けて着てみれば…まさかお前までここにいるとはな』
『…なんでてめぇがここにいんだ』

それはつい先ほどアルンプルトとルー達がやり取りした光景が映像と音となって流れ始めたのだ。
しかも映像はとてもクリアで声もしっかりと聞こえる。

「!?こ、これはなんだ…っ!!?」

アルンプルトは思わず声を荒げると、ピオニーはにやりと笑みを見せる。
その間も話は進んでいき、映像の中のアルンプルトはとても醜い笑みを浮かべながら言い放った。

『言っただろう、私はあの国に償いをさせなければならないと。その為にはあの国を破壊するしかない。…ガルバンゾとライマの間で戦争を起こすのだよ』

「…これを見たあの国は、いったい何を思うのだろうな?」
「っ!!!」

アルンプルトは突然暴れ出し箱を奪おうとするが、兵士たちによってすぐさま拘束され、顔を床に押し付けられ動けない態勢にさせられる。
必死に抵抗しようとしているアルンプルトをピオニーは見下ろす。
その目は鋭く冷たいもので、アルンプルトはぐっと息を飲む。

「お前は国を大小でしか考えられないようだが、国がデカかろうが、小さかろうが国は国だ。うまくいくことも、いかないこともある。その国ならではのメリットもデメリットもある。それでも、全て“民の為に国はある”。それが欠如した奴では、一国を引っ張ることなんてできやしない。」

きっぱりと言い切ったピオニーは口元に笑みを見せる。

「喧嘩売った相手が悪かったな」





フリングス達が拘束した兵士を連行している姿を見守っていたピオニーはふと感じた視線の方に目を向ける。
そこには未だ強い目の光を放つユーリがいた。

「お前さんの中の怒りはまだ収まらんか。悪いがここから先は俺たちの仕事なんでな、お前さんには引いてもらうぞ。」
「…」
「なに、心配するな。それ相応の報いは受けてもらう。もうお前たちの前には現れんだろう」

任せておけという言葉にルーはホッと僅かに安堵する。
この人がいうなら大丈夫だ。
そう感じたルーの気持ちがユーリに伝わったのか、徐々に怒りが収まり始める。
そんな二人を見て、ピオニーは笑みを見せる。

「お前さんはユーリといったか。よかったじゃないか」
「あ?」
「自分の本質を理解し、自分のために思い、真っ向から向き合い、受け止めることができる人間がすぐ傍にいる。そんな存在はそうそういないぞ。」

最初は怪訝な表情を浮かべていたユーリだったが、そこまで聞いてピクリと反応する。
無意識に振り返るとルーがいて、目がばちりと合う。

「一生会えない奴もいる、お前は出会えてよかったな。」

ピオニーはそう言い残し、歩き出す。
ユーリはルーをじっと見つめ、そしてきつく抱きしめた。

「!!」

ルーは突然の事に驚き顔を赤くしたが、無言のままぎゅっと強く抱きしめてくるユーリに目を瞬かせる。
その手は僅かに震えていることに気が付いたルーは、そっとユーリの背に腕を回し抱きしめ返した。



だが、その間を裂くように突如外で大きな爆発音が響く。

「!」

2人はばっと顔を上げると、笑い声が部屋に響く。
その声の方を見れば、拘束されているアルンプルトが高笑いしているのが目に入る。

「全てが終わったと思ったか?ばかめ!まだ終わってなどいない!」

するとその言葉の通り複数の爆発音が鳴り響きわたる。
ルーはすぐにそばにある窓から外を見ると、城の外壁部分で崩れ落ちていて、そこから武器を持った柄の悪そうな集団が侵入してくるのが見える。

「あれは!?」
「フハハハハ!私がこの国の制圧をするために雇っていた奴らだ!!ようやく到着したらしいな!!」
「ほお…、賊にまで手を出していたか」
「使えるものはなんでも利用する!!あいつらは凶悪で名の知れた奴らだ…お前ら全員を皆殺しに」

するとアルンプルトが言いかけた、その時だった。
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