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第31話




クーデターを企てる者たちが動き出したという情報を受け、リグレットをシュザンヌの護衛として残したルー達はすぐに城へと向かうことにした。
だが、辺りは夜の暗闇に覆われ、城のランプの明かりだけが頼りだが、そのランプの近くには警備する兵士たちの姿があり、なかなか容易に近づくことができない。
またそれとは別に違和感を感じた。

「…妙に静かだな」
「うん…」

動き出したという割には慌ただしさはなく落ち着いた様に見え、ルーとユーリは眉を寄せる。
その中、城の様子を見たアッシュは、考える素振りを見せると先頭に立ち足を進めていく。だが、その方向は城からどんどんと離れていく。
ルーとユーリは顔を見合わせるが、きっと何か考えがあるのだろうとアッシュについていくと出たのは城の裏側の方に草木が生い茂るエリア。
暗闇で見えづらいが、人気はない茂み道を更に突き進む。
だが、その途中ルーはピクリと反応し足をぴたりと止めた。
それに皆が反応し足を止めた、その時だった。

「!避けろ!」

突如茂みの方から無数の矢がルー達に向かって放たれたのだ。
すぐに反応することができたルー達は、それらから身をかわし、間一髪のところで凌ぐ。
だが、息つく間もなく今度は魔法陣が地面に浮かび上がる。

「来るぞ!」

アッシュがそう言った直後、地面が隆起し爆発が起こる。
ルー達はバッとその場から飛びのき、術を交わす。着地するなり辺りを見ると周囲を囲うように術士や兵士たちが姿を現す。
反射的に武器を構えたルー達だったが、パッと見ただけで相手が数十人規模であることを認識すると緊張が走る。
相手のレベルが低い可能性もあるとはいえ、数は個をつぶすことがある。
互いが武器を構え、相手の出方を伺いながら睨み合いをしている中、アッシュはイオンに視線を送るとイオンはそれを目で了承をするなり、ちらりと城の方を見た。

「この位置からならいけそうですね。」
「え?」

ルーが言葉に反応すると同時にイオンは身をルーとユーリに向けるなり両手を二人に翳す。
すると、ルー達の手にあった甲が光り出し、二人の足元に譜陣が浮かび上がった。

「二人は先に行ってください!」
「!イオ」

イオンと言いかけたルーはユーリと共にしゅっと音を立てその場から姿を消した。
突然いなくなった二人に兵士たちにどよめきが走る。
様子を見ていたアッシュとシンクは眉を寄せた。

「…ねぇ、本当にこれってクーデター?こいつらどう見ても違くない?」
「…、…!」

ハッと何かに気づいたアッシュだったが、同時に兵士たちの一斉攻撃が始まる。
向かってくるそれにイオンはぎゅっと杖を握りしめた。



















「ここは…」

ルーとユーリは先程の草むらの景色から一転し、紙や物が散乱する部屋が視界に広がる。
その散乱した様子は何かがあったと確信させるほどのもので、部屋にあるソファーやクッションは何かで切り裂かれたような痕跡があり、綿が飛び出ていた。
騒然とした部屋を軽く見渡したユーリは近くにある窓に歩み寄り外を見ると、そこには先ほどまで滞在していたファブレ邸や城下町を見下ろすような景色。

「これっ!」

突然大きな声を上げたルーの方を見ると、ルーは机にある紙を手に驚愕した表情を浮かべていた。

「どうした」
「これ…っルークの字だ!」
「!」

ルーは衝動のままに他の書類も確認したが、そのどれもが紛れもなくルークの筆跡だった。
バンエルティア号でずっとルークに勉強を教えてもらっていたから断言出来たルーだったが、それらを見れば見るほど心臓がバクバクと鳴り出す。
ふと目に入ったぐしゃぐしゃになった書き途中の書類。それを見るなりルーはどくりと脈を打つ。
紙には飛び散った血痕があった。

「これは…っ」
「まだ決まったわけじゃない」

パニック状態になりそうだったルーにユーリはそう落ち着くように言うと、ルーはぐっと飲みこみ、こくりと頷く。

「…けど、動き出したっつーのは本当っぽいな」
「うん…早くルーク達を見つけないと」

焦る気持ちを抑えながら今すべきことを考える。
血痕があったとしてもこの部屋の惨状に比べてそれは見る限りは少量だ。
ルークも剣士でガイも傍にいるということを考えれば、交戦したとしてもなんとか逃げ切ったんだろう。
イオン達も気がかりではあるが、それでもアッシュもシンクも強いということを知っているし、イオンもあのシンクが認めるほどということであれば相当の力量があるはずだ。
ならば、今はなによりもルーク達と合流することが最優先。
ルーの考えはユーリと同じだったようで、二人は目を見合わせるなりすぐに部屋をでた。

廊下に出るとそこには複数の兵士たちが倒れこんでいるのが見え、二人は恐る恐る近づくと、すでに息絶えており、ルーは辛そうに顔を歪める。
周囲を見れば壁が崩れているところがあったり、したの絨毯が破れていたりと激しく交戦があったであろう痕が多くみられた。
その中、床に血痕が続いているのを見つけるなり、二人はそれを追うように走り出す。
長く続く廊下を突き進むと、大きな広間のような場所に出た。
するとその直後、二人に反応したようにサイレンが周囲に響き渡り、バンと大きな音を立て兵士たちが姿を見せる。

「来たぞ!侵入者だ!!」
「!あの朱髪は!すぐに捕らえろ!!」

兵士の一人が大声で叫ぶと、兵士たちは一斉に攻撃を始めた。
ルーとユーリはすぐに武器を手にするなり、攻撃に応戦する。
数は圧倒的に不利だが、それでも実戦経験の長けている二人は兵士達をなぎ倒していく。
ルーの背後に兵士が詰め寄ればそれをユーリが応戦し、隙ができたユーリに斬りかかる兵士をルーが弾き飛ばす。
お互いがお互いをカバーしながら、流れるように倒していく二人に、兵士たちの中には尻込みをする者も現れる。
だが、それでもその場に続々と駆け付けてくる兵士。
レベルがそこまで高いわけではない相手でも、相手は人間。
その動きは魔物のように単純ではなく、なかなか骨が折れる相手で、ルーとユーリの体力は徐々に削られていく。
2人は肩で呼吸をしながら互いの背中を合わせるように剣を構える。その間にもこちらに向かってくる足音が聞こえ、ユーリは舌打ちをする。

「きりがねぇ…!ルー、退くぞ!」
「うん!」

二人は広間からすぐに近くにある他の廊下の方へと駆け込む。
広間より狭いそこでは相手も四方八方から攻撃できないため逃げやすい。
案の定背後から追っては来るものの先程よりも応戦しやすく、その間に近くにあった扉に手をかけ、その部屋の中へと逃げ込み、即座に鍵をかける。
外から激しく叩かれるドアから身を離す。

「大丈夫か」
「うん、ユーリは大丈夫か?」
「なんとかな」

互いの安否を確認したところで、上がっている呼吸を整わせる。

「…ルーク達、大丈夫かな…」

信じていないわけではないが、あの数と応戦したルーは再び不安に煽られる。
未だ激しく音を立てるドアに目をやると、重厚な造りをしているのにも関わらず、もう少しで破られてしまいそうな様子で、二人は再び剣を構えた。
だがその激しかった音が急にぴたりと止まり、静まり返った。
ルー達は眉を寄せ訝しげにドアを見る。
するとドコン!!と大きな音を立て扉が壊され、その先にいた人物に、ルーは目を大きく見開く。

「なっ!?」

2人の視線の先にいたのは、多数の兵を引きつれた白っぽい髪に褐色の肌、青い軍服を身に纏ったフリングス少将だった。
フリングスは真っ直ぐとした目で二人を見る。
ユーリはその姿を見て僅かに苦笑いを浮かべた

「…どうやら、お坊ちゃんたちの心配してる余裕はなさそうだな」

少し対峙しただけで只者ではないことを悟ったユーリは神経を集中させ始める。
その間にも兵士たちは部屋の中へと広がり、二人を取り囲む。
緊迫した空気が広がる中、それまで口を閉ざしていたフリングスが口を開く。

「あなたが“聖なる炎の光に似た、赤毛で短髪の女性”ですね。」
「!」

ルーはびくりと反応すると、フリングスは小さく頷く。

「私はあなたをあの方の元にお連れしなければなりません。ご同行いただけますか?」
「…断ったらどうなんだ?」

すっと目を細くし、剣呑なオーラを纏うユーリに、フリングスは顔色を変えず淡々とした様子で腰にある剣に手を当てる。

「ここでむやみな争いはしたくありません。ですが、抵抗されるということであれば…」

穏やかな表情から一転し目に鋭さを宿したフリングスに、二人は思わず身構える。
一触即発の空気に、ルーはぎゅっと目を閉じ、そしてふっと力を抜いた。

「…わかりました」
「!」

ユーリは即座にルーの方を見ると、ルーはしっかりとした表情でフリングスを見ていた。
フリングスはルーの目を見るなり、すっと穏やかさを戻す。

「ありがとうございます。」

するとフリングスは、手で兵士たちに指示を出すと、それに応じるように剣を鞘に納めた。

「ではご案内いたします。ですが、その前に…」

フリングスは未だに鋭い目を向け続けているユーリの方を見る。

「私はあなた方に危害を加えるつもりはありません。この状況下で無理な話かもしれませんが、今は私を信じてください。」
「…」

真っ直ぐ真摯な目を向けられたユーリはルーの方を見る。
ルーもこの人なら大丈夫だと小さく頷く。
暫し考えたが、どう考えても部の悪い今の状況に小さく息をつくなり剣を納めた。



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