第30話
ルークは顔を引きつらせていたが、ガイが引く気がないということが分かると目を彷徨わせ下に視線を落とす。
「…わかんねぇ」
「え?」
ぼそりとルークの口から出たそれに、ガイは目を瞬かせる。
きっとしどろもどろにになりながら好きだという言葉が出てくると思っていただけに拍子抜けだった。
ルークはルーの事を思い出しながら口を開く。
「…あいつを見てると…あいつはもう一人の俺のはずなのに、俺にないもんがすげーあって、それが…羨ましいって思うようになった。…けど」
あんなに素直に“ありがとう”や“ごめん”も言えない。
あんなに人の目を見てそいつの気持ちを汲み取ることはできない。
あんなに人のために動くことはできない。
あんなにやさしくもない。
ルーが笑うだけで周りの場が和んだり、気持ちが穏やかになる。
それは自分にはない、できないことだ。
なんであいつにはそんなことができるんだろうと思うこともあった。
それはルーの過去を知って、更に思うようになった。
「…あいつの夢を見るようになって、あいつがすげぇ大変な思いしてきたんだって、酷えこと沢山受けてきたんだって知って、…俺はあいつが分からなくなった。あんな酷え目に合ってるのに、なんでそんな目に合わせた奴らを許してやれんのか、守りてえって思うのか、全然わかんねぇ」
夢の中のルーはいつも真っ直ぐに、前だけを見ていた。
それが例え目を背けたくなるような現実だったとしても、自分の命を削る行為だったとしても。
その姿に徐々に感化された皆がルーの事を変わったといい信頼し始めた。
けど、ルークから見たルーの表情は、いつもどこか不安げで、痛々しかった。
周囲に気を使わせないために気丈に振舞うその姿は、ただ誰も頼るものがいない子どもの強がりに見えた。
この世界に来たばかりの時もそうだった。
それもそうだ。自分の置かれた状態がわからず、見たこともない、知らない場所に前触れもなく来たのだから。
けれど何にも縛られることのない環境に、徐々にその不安げな表情や気丈さも薄れ、その代わりに笑顔が増えた。特にユーリといる時は。
なんであいつなんだと思ったが、二人を見ているうちにその意味がなんとなくわかった。
「あいつには、どんなことがあっても、あいつを引っ張って守ってやれるくらいの奴が必要なんだよ。」
ルーのためなら世界を敵に回せるくらいの奴があの優しすぎる子には必要だ。
あの子が犠牲にならない世界にするには。
夢を通して見たもう一つの世界オールドラントは、ルーを大切に思う奴がいる一方で、あいつのために動いている奴はいなかった。
「…あっちにはいなくても、こっちにはいんだろ」
「それがユーリってわけか」
「………すげームカつくけどな。…もうあんな顔見たくねぇんだよ。」
大切な奴が他の奴に取られたら誰だって腹が立つ。
けど、それ以上に嬉しそうに無邪気に笑うルーを見て、それでもいいかって思ったのも、これからもその姿を見ていたいと思うのも事実で。
それが例え相手が自分でなくても、ルーが選んだ奴なのであれば。
…けどやっぱりムカつく。
ルークの中でいろんな感情がせめぎ合っていたが、やはりそう簡単に納得できるものでもない。
そんな中、ガイはルークの発言が娘を取られた父のような、妹を取られた兄のようなものを感じ、むすっと剥れながら悶々としているルークの頭をぽんぽんと撫でる。
「!?な、なんだよ!!?」
「いや~、いつの間にか成長したなぁと思ってな。」
「はあ!?」
馬鹿にすんじゃねぇ!とガイの手を振り払い、そっぽを向く。
その横顔から見える耳は真っ赤で、ガイは思わず笑みが零した。
その後、なんとか机に戻ったルークだったが時間が経つにつれ、やる気がドンドンなくなっていく。
それでもペンを握ったまま離さないのは、これをやるようにと指示を出した人物からルーを守るためだ。
良くも悪くも現実的で頭のキレるあの人は、きっとルーから生み出される音素に目をつけているだろう。
非人道的な行為はしないとしてもエネルギー源としてルーを隔離し取り込もうとする可能性は捨てきれない。
ルーにはそんな囲いや重りを負わせたくない。
その一心でルークは頑張っていた。
とはいえ、ルークの性格上、限界に近いことも確かで。
見守っていたガイは座っていた椅子から立ち上がる。
「ルーク、夜食をもらいに行ってくる。それで休憩な」
「…ん」
「俺が出た後ちゃんと鍵をかけるんだぞ?」
「…誰も来ねぇって」
「ルーク」
「~だーっ!もうわかってるっつーの!!!」
だからさっさと行けとルークはガイに視線を送ると、ガイはやれやれといった表情を浮かべ部屋を出た。
ルークはガイの心配性は一体いつに治るんだと呆れ顔を浮かべる。
一応ガイのいいつけを守り、内鍵をしたルークはあっと溜息をつきつつ固くなってしまった体を伸ばすように背伸びをして、再び席に着くなりペンを握り直す。
その数分後、部屋にノックの音が響き、びくりと反応する。
ガイかと思いドアの方を見るが、一向に反応がない。
こんな夜更けに来る人間などガイを除いてほぼいない。
不審に思ったルークだったが微かに聞こえたのはガシャガシャと鎧のような金属の音。
それは複数あるようで、気づいたルークは即座に立ち上がり距離をとる。
するとドアノブがガチャガチャと音を立て始める。
その音にびくっと体が震えるが、先ほど鍵をかけたので開くことはなく僅かに安堵していたルークだったが、その音は徐々に激しくなっていく。
まるでドアごと壊さんばかりの音に、ルークはすぐに剣を手にする。
ばくばくと一気に脈が上がるのを感じていると、ガチャンと大きな音を立て、閉ざされていた扉がゆっくりと開かれた。
「…わかんねぇ」
「え?」
ぼそりとルークの口から出たそれに、ガイは目を瞬かせる。
きっとしどろもどろにになりながら好きだという言葉が出てくると思っていただけに拍子抜けだった。
ルークはルーの事を思い出しながら口を開く。
「…あいつを見てると…あいつはもう一人の俺のはずなのに、俺にないもんがすげーあって、それが…羨ましいって思うようになった。…けど」
あんなに素直に“ありがとう”や“ごめん”も言えない。
あんなに人の目を見てそいつの気持ちを汲み取ることはできない。
あんなに人のために動くことはできない。
あんなにやさしくもない。
ルーが笑うだけで周りの場が和んだり、気持ちが穏やかになる。
それは自分にはない、できないことだ。
なんであいつにはそんなことができるんだろうと思うこともあった。
それはルーの過去を知って、更に思うようになった。
「…あいつの夢を見るようになって、あいつがすげぇ大変な思いしてきたんだって、酷えこと沢山受けてきたんだって知って、…俺はあいつが分からなくなった。あんな酷え目に合ってるのに、なんでそんな目に合わせた奴らを許してやれんのか、守りてえって思うのか、全然わかんねぇ」
夢の中のルーはいつも真っ直ぐに、前だけを見ていた。
それが例え目を背けたくなるような現実だったとしても、自分の命を削る行為だったとしても。
その姿に徐々に感化された皆がルーの事を変わったといい信頼し始めた。
けど、ルークから見たルーの表情は、いつもどこか不安げで、痛々しかった。
周囲に気を使わせないために気丈に振舞うその姿は、ただ誰も頼るものがいない子どもの強がりに見えた。
この世界に来たばかりの時もそうだった。
それもそうだ。自分の置かれた状態がわからず、見たこともない、知らない場所に前触れもなく来たのだから。
けれど何にも縛られることのない環境に、徐々にその不安げな表情や気丈さも薄れ、その代わりに笑顔が増えた。特にユーリといる時は。
なんであいつなんだと思ったが、二人を見ているうちにその意味がなんとなくわかった。
「あいつには、どんなことがあっても、あいつを引っ張って守ってやれるくらいの奴が必要なんだよ。」
ルーのためなら世界を敵に回せるくらいの奴があの優しすぎる子には必要だ。
あの子が犠牲にならない世界にするには。
夢を通して見たもう一つの世界オールドラントは、ルーを大切に思う奴がいる一方で、あいつのために動いている奴はいなかった。
「…あっちにはいなくても、こっちにはいんだろ」
「それがユーリってわけか」
「………すげームカつくけどな。…もうあんな顔見たくねぇんだよ。」
大切な奴が他の奴に取られたら誰だって腹が立つ。
けど、それ以上に嬉しそうに無邪気に笑うルーを見て、それでもいいかって思ったのも、これからもその姿を見ていたいと思うのも事実で。
それが例え相手が自分でなくても、ルーが選んだ奴なのであれば。
…けどやっぱりムカつく。
ルークの中でいろんな感情がせめぎ合っていたが、やはりそう簡単に納得できるものでもない。
そんな中、ガイはルークの発言が娘を取られた父のような、妹を取られた兄のようなものを感じ、むすっと剥れながら悶々としているルークの頭をぽんぽんと撫でる。
「!?な、なんだよ!!?」
「いや~、いつの間にか成長したなぁと思ってな。」
「はあ!?」
馬鹿にすんじゃねぇ!とガイの手を振り払い、そっぽを向く。
その横顔から見える耳は真っ赤で、ガイは思わず笑みが零した。
その後、なんとか机に戻ったルークだったが時間が経つにつれ、やる気がドンドンなくなっていく。
それでもペンを握ったまま離さないのは、これをやるようにと指示を出した人物からルーを守るためだ。
良くも悪くも現実的で頭のキレるあの人は、きっとルーから生み出される音素に目をつけているだろう。
非人道的な行為はしないとしてもエネルギー源としてルーを隔離し取り込もうとする可能性は捨てきれない。
ルーにはそんな囲いや重りを負わせたくない。
その一心でルークは頑張っていた。
とはいえ、ルークの性格上、限界に近いことも確かで。
見守っていたガイは座っていた椅子から立ち上がる。
「ルーク、夜食をもらいに行ってくる。それで休憩な」
「…ん」
「俺が出た後ちゃんと鍵をかけるんだぞ?」
「…誰も来ねぇって」
「ルーク」
「~だーっ!もうわかってるっつーの!!!」
だからさっさと行けとルークはガイに視線を送ると、ガイはやれやれといった表情を浮かべ部屋を出た。
ルークはガイの心配性は一体いつに治るんだと呆れ顔を浮かべる。
一応ガイのいいつけを守り、内鍵をしたルークはあっと溜息をつきつつ固くなってしまった体を伸ばすように背伸びをして、再び席に着くなりペンを握り直す。
その数分後、部屋にノックの音が響き、びくりと反応する。
ガイかと思いドアの方を見るが、一向に反応がない。
こんな夜更けに来る人間などガイを除いてほぼいない。
不審に思ったルークだったが微かに聞こえたのはガシャガシャと鎧のような金属の音。
それは複数あるようで、気づいたルークは即座に立ち上がり距離をとる。
するとドアノブがガチャガチャと音を立て始める。
その音にびくっと体が震えるが、先ほど鍵をかけたので開くことはなく僅かに安堵していたルークだったが、その音は徐々に激しくなっていく。
まるでドアごと壊さんばかりの音に、ルークはすぐに剣を手にする。
ばくばくと一気に脈が上がるのを感じていると、ガチャンと大きな音を立て、閉ざされていた扉がゆっくりと開かれた。