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第29話

シンクはその様子を見て軽く息をつく。

「相変わらずの堅物だね。どうせここで断ったって、後でこっそりついてくと思うよ。」
「!シンク!」

なんで言っちゃうんですかとイオンが僅かに焦った様子を見せる。
そんなイオンを無視してシンクは不敵な笑みを浮かべる。

「それなら最初から護衛買って出た方がいいんじゃない?それに今のあんた達にとって貴重な戦力だと思うけどね。」
「戦力?」
「残念なことに僕はイオンの護衛役だからね、イオンが行くなら僕も行かないといけないし。」

シンクがイオンの護衛役ということにルーは驚く。
オールドラントの頃、シンクは六神将の一人として高い戦闘力を持っていた。
ただ、それでイオンを守っているというイメージはなく、どちらかと言うと一定の距離を置いていた気がする。
同じ被験者のイオンから造られた者なのに扱いが違ったこともあったのかもしれない。
そもそもこの世界ではフォミクリーという技術事態が存在しない。
もしかしたらルーク達と同じで双子なのかもしれないと、向こうの世界とこちらの世界との差を感じながら、2人を見ていると、イオンは笑顔で頷く。

「僕もシンク程ではありませんが闘えます。」
「!そ、そうなのか?」
「こんなんでも、ヴァンの妹と陰険鬼畜眼鏡を合わせたくらい力あるからこいつ」
「「!?」」

シンクから告げられた事実にルーだけではなくユーリも僅かに目を見張る。

ティアとジェイドを合わせたって、それ凄くないか!?

ただでさえルーの中でイオンは体が弱いイメージがあっただけに衝撃度は相当だった。
だが当の本人は、ふふっと笑みを浮かべ杖をぐっと握りしめる。

「実戦経験は皆さんより乏しいですが、足を引っ張らないように頑張ります!」

気合の入った言葉にルーは呆気に取られつつも、笑顔で頷く。
その中ユーリは、その朗らかな笑顔とは裏腹にどこか猟奇的な空気を感じ、やはりライマの連中だと改めてそのキャラの濃さを再認識していた。

「だが導師。ここはどうするつもりだ?」

すっかり行く気満々のイオン達に、アッシュが苦言をさす。
ここのトップであるイオンが不在になるのはそう簡単じゃないはいずだと。
だが、それに対してイオンはにっこりと笑顔を見せ頷く。

「その心配は無用です。フローリアン」
「!」

イオンは出てきた扉の方を見るなり呼びかけると、きいっと扉が開くなりひょっこり顔を出したのは、イオン達と同じ顔のフローリアンだった。
イオンはフローリアンを手招きすると、ルー達には目もくれずぱたぱたと駆け寄ってくる。

「彼はフローリアン。僕とシンクの弟です。」
「三つ子か…」
「はい。」

双子だったり三つ子だったりすげぇなライマとユーリが思う一方、オールドラントと何か関係しているのだろうかとも思う。
ちらりとルーの方を見ると口を開け呆然としていて、恐らくオールドラントにも同じ人物がいるのだろうと推測する。
フローリアンはルー達を軽く見渡すなり、イオンに首を傾げる。

「何?イオン」
「ふふ、ちょっと待ってくださいね。」

そういい笑顔を見せたイオンの手には、どこから取り出したのか白いローブと髪飾りがあった。
イオンはシンクと二人でフローリアンを囲うと阿吽の呼吸で飾り付けていく。
その手際の良さは素晴らしく、見る見るうちにフローリアンの着付けが終わっていく。
そして気づいた頃には写し鏡の様にフローリアンはイオンと同じ姿になっていた。

「はい!どうですか?僕そっくりでしょう?」

自信満々なイオンにアッシュは呆気に取られる。
全くわからないほどの瓜二つ感だ。
だが、フローリアンは状況が分かっていないのか、それとも素なのかぽやんとした様子で、イオンはイオンでも“気の抜けたイオン“に見える。

いや、確かにぱっと見は全くわからない…が…。

妙に不安だけが残るフローリアンの状態に、アッシュは顔を引きつらせているとイオンはフローリアンに体を向ける。

「フローリアン、僕は大切な友人を助けに行ってきます。その間、ここをお願いできますか?」
「?わかった」


大きく頷くフローリアンだったが、絶対わかってないだろうとツッコミたくなるほど、頭上にハテナを飛ばしている状態で益々アッシュの不安が募っていく。
するとそれを見越したかのようにイオンは扉の方を見る。

「アリエッタ。」
「はい、イオン様」

名を呼ぶと、そばで待機していたのか、瞬時に姿を現したのは背後にライガのような大きな魔物を連れ、ぬいぐるみを抱きしめているアリエッタ。
突然現れたアリエッタにルーとユーリは驚く。

「彼女はアリエッタ、僕の部下です。アリエッタ、僕はしばらくここを留守にします。その間、彼のサポートをお願いします。」
「…わかりました」

イオンの頼みにアリエッタは躊躇なく頷く。
そこは部下として止めるべきなのではとアッシュは思うが、アリエッタがイオンに対して盲目的なことを知っていたこともあり、それはすぐさま諦めた。
イオンはどうだと言わんばかりにアッシュににこにことした笑顔を向ける。
アッシュはこめかみを抑えながら深く溜息をついた。

「…好きにしろ…」
「!ありがとうございます」

少々強引にアッシュから許可をもらえたイオンは嬉しそうに礼を言っていたが、アッシュの疲れ切った顔を見たルー達は僅かに同情した。

「では、僕から証をお渡しいたします。手をこちらへ貸してもらえますか?」

イオンは自らの手を出し、手の甲を見せるようにする。
ルーとユーリもそれに習って片手を差し出すと、イオンはその手の上に手を翳す。
イオンは目を閉じ、集中すると手が光り出し小さな譜陣が浮かび上がり、その譜陣はルー達の甲に張り付く。

「!」

その張り付いた譜陣は手の中に取り込まれていくように消えていくと、イオンはそっと瞼を上げる。

「終わりました。」
「なんかすげーな!」

驚き、興奮しながら自分の手を見つめるルーにイオンはふふっと笑顔を見せる。

「もし何かあった場合、その証を見せるようにしてください。必要に応じて浮かび上がってきますので」
「わかった!」

元気よく素直に頷くルーに、イオンはにこにこと笑顔を見せる。
ルーが可愛くてたまらないといった様子を見せるイオンに、ユーリはすぐさま反応しルーを引き寄せた。

「!ユーリ?どうしたんだ?」
「…いや、なんとなく」






その後、イオンとシンクは準備をとその場を一時離れる。
自室に戻る途中、イオンは後ろを歩くシンクの方に振り向く。

「シンク、ありがとうございました」

突然言われた礼に、シンクは目を瞬かせたがすぐにそっぽを向く。

「…別に。思ったこと言っただけだよ。一人で行こうとする方が迷惑だしね。…それに珍しかったし」

幼少から一緒にいるシンクにとってイオンがあそこまで主張するのは珍しいことだった。
ルークが心配だということは勿論事実にあるのだろうが、そこまでさせるには他にも何か意味があるのだろうと踏んだシンクが一体何があるんだと目で訴えると、イオンは目を細め、ルーの方へと視線を向けた。

「…約束をしたんです」






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