第29話
「イオンがルークの協力者だったのか」
目を瞬かせ呆然としているルーに、イオンは笑顔を見せる。
「はい。ですが、僕だけではないですよ」
「え?」
すると、イオンが入ってきた扉が再び開く。
ルーはそちらの方を見るなり、思わず目を見開いた。
そこにいたのはマスクを外した素顔のシンクの姿だった。
「!シンク!?」
「彼もルークの協力者ですよ」
驚き何度も目を瞬かせるルーに、イオンが笑顔でそういうとシンクは眉を寄せ不機嫌な顔を見せる。
「ちょっと、いつからそうなったわけ?僕はあいつに協力する気なんてサラサラないけど」
そう言いつつシンクは、ルーに近づくと上から下までじろじろと見る。
「へー、本当にあのおぼっちゃまとそっくりなんだ。ドッペルゲンガーってやつ?」
「ドぺ??」
「ドッペルゲンガーだよ。知らないの?そっくりな割にあっちの方がまだ頭いいんじゃない?」
「あ、うん。俺なんかよりルークは頭いいから」
完全に馬鹿にしたような物言いに対して、ルーは素直に頷く。
まったく嫌みが通じない相手にシンクは思わず呆れたような表情で溜息をつき脱力する。
その様子を見ていたユーリやイオンからくる“残念だったな(ですね)”という視線を感じ、イラっとしていると、ふと別の視線を感じる。
そちらの方を見ると、じっとルーがシンクを見つめていて、その目はルーはシンクに会えた気持ちの方が先行しているようできらきら輝かせていた。
それに耐えられなかったシンクは、すぐさま標的を変えるようにアッシュの方を向く。
「で、あんたがあれの手助けするなんてね、どういう風の吹き回し?」
「手助けなんかじゃねぇ」
「わざわざこんなところまできといて?いっつもいがみ合ってよくわかんない意地張り合ってたのによく言うよね。アッシュって実はブラコンなんじゃない?」
「ちげぇ!!」
「アッシュもルークが心配なんですよ。大切な家族ですから」
「そういうわけじゃね…」
「へー、家族ねぇ。そういえばブラコンの前にマザコンだったよね」
「まっ!?てめえっ」
「いいじゃないですか、家族仲がいいのはいいことですよ」
憤慨するアッシュに、シンクは面白がっていると、それまで静観していたイオンが笑顔でアッシュを援護し始める。
それを皮切りに、アッシュを挟んだ状態でシンクが嫌味を言い、イオンが思わず恥ずかしさを覚えるようなフォローをするという言葉の合戦が始まった。
間に挟まれているアッシュはといえば、止まらない二人の横行に堪らず胃がキリキリし始めてくる。
だからこいつらとは性に合わねぇんだよ…!!
そう心底思うアッシュだが根が真面目なだけあり、わざわざ相手をしてしまうので収まらない。
一方で、傍観していたユーリはこの状況をよく心の中を葛藤する天使と悪魔に囲まれてる図を連想し、こいつ意外と苦労人だよなと他人事に思いながらも、自分はパスとさり気なく一定の距離をとっていた。
暫し二人のアッシュいじりが続いていたのだが、アッシュはイライラしながら懐に手を伸ばし、1通の封書を取り出す。
「導師、これを。預かってきた」
ぐいっと有無を言わさずにそれをイオンに差し出す。
それを受け取ったイオンはその封書の差出人を見るなり頷く。
「ありがとうございます。後程確認します。」
「ああ。…して導師、例の物を頼みたい」
「はい」
「例の物??」
アッシュの言葉にルーが首を傾げると、イオンは笑みを見せる。
「あなた方にここまで来ていただいたのは、僕からあなた方に証を付与するためです。」
「証?」
「ええ。このライマでは、僕たち教団の人間は少し扱いが異なり、少々優遇が効きやすいのです。」
「優遇?」
「はい。例えば、立ち入りが制限されている場所にも入りやすくなるといった具合です。」
「さすがは宗教国家、ってわけか。」
「はい、なので今回便宜的にこのシステムを利用します。これからあなた方にお渡しするものは僕からの証です。それがあれば多少は動きやすくなるはずなので。」
なるほどと思っていると、イオンはルーとユーリの前に立つ。
その顔は先程の穏やかさから一転して至極真剣な顔をしていた。
「…ただ」
「ん?」
「この証をお渡しする前に、一つ僕の依頼を受けてもらえないでしょうか?」
「依頼?」
「はい。アドリビトムのあなた方に。」
ルーの問いにしっかりと頷くイオンに、アッシュは眉を寄せる。
ルーとユーリは顔を見合わせるなり、小さく頷く。
「で、依頼はなんだ?」
そうユーリが問うと、イオンは手を握りしめ、強い意志を持った表情を見せる。
「僕は…僕の大切な友人を助けに行きたいんです。なので、僕もご一緒させていただけますか?」
イオンの依頼内容に、シンクは特に顔色を変える様子はなく小さく息をつく程度であったが、アッシュは眉を上げ、ぎょっとした表情を浮かべる。
そんな二人の様子に気づきつつも、イオンは続ける。
「…僕は、導師として生きるように周囲とは隔離されるように育てられてきました。そんな僕にとって、初めてできた友達がルークでした。ルークは、いつも僕に外の世界の事を教えてくれました。狭い世界にいた僕にとってどれだけその優しさに助けられてきたか…。だからこそ、今度は僕が彼の助けになりたいんです。」
そうはっきりと強く言い切るイオン、その目は揺るぎないものだった。
それを受けたルーは、イオンの目をじっと見ていたが、静かに頷いた。
「…うん、わかった」
「!おい!」
ルーの承諾にアッシュが待てと止めようとするが、ユーリはまぁと口を開く。
「別にいいんじゃねぇの?行きてえっていうなら。」
「てめぇ!」
「アッシュ、すみません。あなたが止めに入るのもわかります。ですが、それでも僕は行きたいんです」
イオンの言葉にアッシュは苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべる。
信仰心に重きを置くこの国にとって、イオンはその教えの最高指導者。
いわばこの国の要の一人なのだろう。
これから先自分たちが向かう先は、イオンといえども何が起こるかわからない状況下になる可能性が高く、アッシュが止めに入る気持ちもわかる。
けれど。
「…アッシュ、俺からも頼むよ」
「あ?」
「イオンの気持ち、すげーわかるんだ。」
ルーも閉ざされた空間で長い間過ごしてきた。
もし、あの時もっと外の世界を見れていればという思いは今でも消えない。
イオンにとって世界を教えてくれたルークの存在は相当大きいはずだ。
ルーは真剣な表情でアッシュを見る。
それにアッシュは眉間のしわを深め、しかしと考え込み葛藤しているように見えた。
目を瞬かせ呆然としているルーに、イオンは笑顔を見せる。
「はい。ですが、僕だけではないですよ」
「え?」
すると、イオンが入ってきた扉が再び開く。
ルーはそちらの方を見るなり、思わず目を見開いた。
そこにいたのはマスクを外した素顔のシンクの姿だった。
「!シンク!?」
「彼もルークの協力者ですよ」
驚き何度も目を瞬かせるルーに、イオンが笑顔でそういうとシンクは眉を寄せ不機嫌な顔を見せる。
「ちょっと、いつからそうなったわけ?僕はあいつに協力する気なんてサラサラないけど」
そう言いつつシンクは、ルーに近づくと上から下までじろじろと見る。
「へー、本当にあのおぼっちゃまとそっくりなんだ。ドッペルゲンガーってやつ?」
「ドぺ??」
「ドッペルゲンガーだよ。知らないの?そっくりな割にあっちの方がまだ頭いいんじゃない?」
「あ、うん。俺なんかよりルークは頭いいから」
完全に馬鹿にしたような物言いに対して、ルーは素直に頷く。
まったく嫌みが通じない相手にシンクは思わず呆れたような表情で溜息をつき脱力する。
その様子を見ていたユーリやイオンからくる“残念だったな(ですね)”という視線を感じ、イラっとしていると、ふと別の視線を感じる。
そちらの方を見ると、じっとルーがシンクを見つめていて、その目はルーはシンクに会えた気持ちの方が先行しているようできらきら輝かせていた。
それに耐えられなかったシンクは、すぐさま標的を変えるようにアッシュの方を向く。
「で、あんたがあれの手助けするなんてね、どういう風の吹き回し?」
「手助けなんかじゃねぇ」
「わざわざこんなところまできといて?いっつもいがみ合ってよくわかんない意地張り合ってたのによく言うよね。アッシュって実はブラコンなんじゃない?」
「ちげぇ!!」
「アッシュもルークが心配なんですよ。大切な家族ですから」
「そういうわけじゃね…」
「へー、家族ねぇ。そういえばブラコンの前にマザコンだったよね」
「まっ!?てめえっ」
「いいじゃないですか、家族仲がいいのはいいことですよ」
憤慨するアッシュに、シンクは面白がっていると、それまで静観していたイオンが笑顔でアッシュを援護し始める。
それを皮切りに、アッシュを挟んだ状態でシンクが嫌味を言い、イオンが思わず恥ずかしさを覚えるようなフォローをするという言葉の合戦が始まった。
間に挟まれているアッシュはといえば、止まらない二人の横行に堪らず胃がキリキリし始めてくる。
だからこいつらとは性に合わねぇんだよ…!!
そう心底思うアッシュだが根が真面目なだけあり、わざわざ相手をしてしまうので収まらない。
一方で、傍観していたユーリはこの状況をよく心の中を葛藤する天使と悪魔に囲まれてる図を連想し、こいつ意外と苦労人だよなと他人事に思いながらも、自分はパスとさり気なく一定の距離をとっていた。
暫し二人のアッシュいじりが続いていたのだが、アッシュはイライラしながら懐に手を伸ばし、1通の封書を取り出す。
「導師、これを。預かってきた」
ぐいっと有無を言わさずにそれをイオンに差し出す。
それを受け取ったイオンはその封書の差出人を見るなり頷く。
「ありがとうございます。後程確認します。」
「ああ。…して導師、例の物を頼みたい」
「はい」
「例の物??」
アッシュの言葉にルーが首を傾げると、イオンは笑みを見せる。
「あなた方にここまで来ていただいたのは、僕からあなた方に証を付与するためです。」
「証?」
「ええ。このライマでは、僕たち教団の人間は少し扱いが異なり、少々優遇が効きやすいのです。」
「優遇?」
「はい。例えば、立ち入りが制限されている場所にも入りやすくなるといった具合です。」
「さすがは宗教国家、ってわけか。」
「はい、なので今回便宜的にこのシステムを利用します。これからあなた方にお渡しするものは僕からの証です。それがあれば多少は動きやすくなるはずなので。」
なるほどと思っていると、イオンはルーとユーリの前に立つ。
その顔は先程の穏やかさから一転して至極真剣な顔をしていた。
「…ただ」
「ん?」
「この証をお渡しする前に、一つ僕の依頼を受けてもらえないでしょうか?」
「依頼?」
「はい。アドリビトムのあなた方に。」
ルーの問いにしっかりと頷くイオンに、アッシュは眉を寄せる。
ルーとユーリは顔を見合わせるなり、小さく頷く。
「で、依頼はなんだ?」
そうユーリが問うと、イオンは手を握りしめ、強い意志を持った表情を見せる。
「僕は…僕の大切な友人を助けに行きたいんです。なので、僕もご一緒させていただけますか?」
イオンの依頼内容に、シンクは特に顔色を変える様子はなく小さく息をつく程度であったが、アッシュは眉を上げ、ぎょっとした表情を浮かべる。
そんな二人の様子に気づきつつも、イオンは続ける。
「…僕は、導師として生きるように周囲とは隔離されるように育てられてきました。そんな僕にとって、初めてできた友達がルークでした。ルークは、いつも僕に外の世界の事を教えてくれました。狭い世界にいた僕にとってどれだけその優しさに助けられてきたか…。だからこそ、今度は僕が彼の助けになりたいんです。」
そうはっきりと強く言い切るイオン、その目は揺るぎないものだった。
それを受けたルーは、イオンの目をじっと見ていたが、静かに頷いた。
「…うん、わかった」
「!おい!」
ルーの承諾にアッシュが待てと止めようとするが、ユーリはまぁと口を開く。
「別にいいんじゃねぇの?行きてえっていうなら。」
「てめぇ!」
「アッシュ、すみません。あなたが止めに入るのもわかります。ですが、それでも僕は行きたいんです」
イオンの言葉にアッシュは苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべる。
信仰心に重きを置くこの国にとって、イオンはその教えの最高指導者。
いわばこの国の要の一人なのだろう。
これから先自分たちが向かう先は、イオンといえども何が起こるかわからない状況下になる可能性が高く、アッシュが止めに入る気持ちもわかる。
けれど。
「…アッシュ、俺からも頼むよ」
「あ?」
「イオンの気持ち、すげーわかるんだ。」
ルーも閉ざされた空間で長い間過ごしてきた。
もし、あの時もっと外の世界を見れていればという思いは今でも消えない。
イオンにとって世界を教えてくれたルークの存在は相当大きいはずだ。
ルーは真剣な表情でアッシュを見る。
それにアッシュは眉間のしわを深め、しかしと考え込み葛藤しているように見えた。