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第5話



暗かった部屋に徐々に日が差し込み、朝の訪れを知らせる。
ベッドで寝ころんでいたルーはそれを感じ取りゆっくりと目を開ける。

「…もう朝か…」

そろそろと窓の外に目を向けると、まぶしい太陽と青い空が見える。
いつもならそれだけで嬉しくなって飛び起きるのだが、今のルーは浮かない表情だった。

「…あんまり眠れなかったな…」

オールドラントで旅をしていた頃、特に乖離が進んできた頃から夜に眠れなくなることが多くなった。
それは時折見るアグゼリュスやレムの塔の夢と、いつまで持ってくれるかわからない自分の体への不安感からだ。
この世界では幾分かマシになったが、今日のようにあまり眠れない時もしばしばある。
溜息をつき、もぞもぞとベッドから出て部屋にある鏡の前に立ち、鏡に映る自分の顔を覗き込む。

「うーん…これくらいなら大丈夫かな」


うっすらと隈が浮かんではいるが、近距離で見られなければ気付かれない程度で、そのことにホッと安堵する。
ここの皆はとても優しく、人の変化に敏感だ。
少しでも疲れた顔や目の隈を見たら心配させてしまう。
そんなのは絶対嫌だ。
今日は幸いクエストもないため、ゆっくりしていようと思いつつ、ノロノロと身支度を始めた。







*****


ルーの思いは通じ、何事もなくのんびりできたその日の夜。
食堂の一角に集まっていたマオ、ルカ、ジーニアス、カイルとこのギルドの中では年齢が若い仲間と一緒にルーは食事をとっていた。
このメンバーとは精神年齢が近いこともあり、話が合いやすく楽しい。
談笑しながらの食事はあっという間に過ぎ、今はクレアが特別に作ってくれたピーチパイを
皆で食べていた。


「な~んかユーリの驚くところとか見てみたくない?」

いたずらっ子な笑みを浮かべるマオの唐突な話に、皆ふと手が止まる。

「なんだよ?いきなり」
「実はこの間さ、ヴェイグを驚かせようといろいろやってみたんだけど、全然効果なくてさー。じゃあ他の人にって思って、今度はクラトスに試したんだけど、これもダメでさ。怒られた。」
「クラトスにやっちゃったんだ…」

ルーの問いによくぞ聞いてくれたと英雄談のように話すマオ。
そもそも驚かせようとする人選がどうなんだろうと呆れ顔のジーニアスに、マオはわかってないな~と言葉を零す。

「普段から大人オーラ出してるひとであればあるほど、驚いてるところなんてレアじゃん?仮にルークとかゼロスとか驚かせても全然面白くないって」
「まあ、なんとなくわかるけど。」
「ユーリはいつも落ち着いてるもんな。」
「うん、大人だよね。確かに見てみたいかも!」

マオの意見にジーニアス、ルー、カイルは同調する。
確かに人の意外な一面というものは珍しく貴重だと思う。

「でもそれって難しいんじゃ…」

怒られちゃうよと眉を下げながら制止しようとするルカにマオはニヤッと笑みを浮かべ、ルーを見る。思わず首を傾げる。

「ん?なんだ?」
「ルーにちょっと協力してもらいたいんだよねー、ユーリ驚かすの♪」
にこにこしながらおねだりするマオに、ルーは眉を下げ首を横に振る。
ユーリには随分とお世話になっていることもあり気が引ける。

「嫌だよ、ユーリに迷惑かけたくないし、それに嫌われたくない…」
「大丈夫だって!ルーならユーリも怒んないし、まず嫌うことは絶対ありえないから」
「いや、そんなのわかんないだろ。」
「いやいや、だってユーリ、ルーにだけちょー甘々じゃん。ないない。」

断言するマオに首を傾げるルーに対して他の3人はうんうんと頷いている。

「ユーリ優しいけど、ルーにはちょっと違うよね」
「そうそう。誰にでも平等な人だなって思ってたけど、ルーは別格って感じだよ。」
「うん、僕もそう思う」
「でしょ?今まであんなユーリ見たことなかったし、大丈夫だって!」

カイル、ジーニアス、ルカの言葉を受け、更に自信をつけたマオに詰め寄られる。
ルーはといえば、ただただ困り顔を浮かべている。
一体何をもってそんなことを言っているのだろう。

「随分楽しそうね、何の話?」
「あ、レイブン」

振り向くとレイブンが手をひらひらさせながら近づいてくる。

「ユーリを驚かせようっていう作戦会議中~」
「青年を?なんでまた」
「ユーリってあんまり感情表にださないから、驚くとこ見てみたいんだよねー」
「ああ、そゆこと。なるほどね」

納得した様子のレイブンは顎に手を当て、ルーを見る。

「で、ルーちゃんに青年を驚かせてほしいってお願いしてたわけか」
「よくわかったね、レイブン」
「いい案だと思わない?っていってもどうやって驚かすかはまだ決めてないんだけどね」
「ふーん、じゃあこういうのはどお?」

レイブンの一声で話がどんどん進みはじめ、もうすっかりルーがユーリを驚かせる計画が組まれている。
やると言っていないとルーは何度か訴えてみたが、その度に上手くかわされ項垂れるしかなかった。



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