第28話
食事を終え、夜になり焚火を囲う様に3人が腰を掛けていた。
パチパチと音を立てる焚火をの火を見ながら、ルーは膝を抱えながら浮かない表情をしていると、突然頭をこつんと軽く拳があたる。
それに驚き、バッとそちらの方を見るとじっと見つめてくるユーリがいた。
「!ユーリ…」
「まーた馬鹿なこと考えてんだろ」
小さく溜息をつくユーリに、目を瞬かせたが、ふいっと視線をずらす。
「…そんなんじゃ…」
「ねえっていうようには見えねぇけどな。」
はっきりと言われてしまったルーは言葉を詰まらせる。
俯き暫し無言でいたルーだったが、独り言のようにぽつりと呟く。
「…俺…なんでこんなに迷惑ばっかかけてんだろうって…。…今回のだって…ルーク達は俺のせいじゃないって言ってくれたけど…、…俺が、…いたから…。」
考えていたことを口にするなり、ルーは耐えるように顔を埋めぎゅっと膝を抱え込む。
もし自分が音素を隠しきれていれば、あいつに会っていなければ。
クーデターを止める方法だって他にあったはずで、こんなことにはならなかったはずだ。
それを考えるほど、どんどん自分の存在に疑問を持つ。
元々この世界に存在しなかった自分。
そんな自分を受け入れてくれたのは他ならないルーク達だ。
それなのに自分という存在のせいでルーク達が危険な目に合うなんて。
なぜ自分という存在は、大切な人たちを…。
「…なんで…俺は…」
「ルー」
消え入りそうな声で零れた言葉に、ユーリは待ったをかける。
それにビクリと反応し無言になるルー。
ユーリはその姿を見ながら口を開く。
「お前はまだわかってねぇようだから敢えて言うがな、お前はお前が思ってる以上に、俺達にとって必要な奴なんだよ。」
「…それは…」
「ローレライの力があるからとか、俺達が特別優しいからとかそんなんじゃねぇ。」
言いかけた言葉を一蹴するようにユーリは否定する。
そしてユーリは遠くに視線を向けながら紡ぐ。
「生まれたこと、生きていることに意味があるかどうかなんて考える必要はねぇ。それでももし、お前がその意味が欲しいっていうなら、それは俺達に会うため、俺達の願いを叶えるためだと思えばいい」
ユーリの言葉にルーはそろそろと顔を上げ、ユーリを見る。
それに気づいたユーリはルーに視線を向け、笑みを見せた。
「俺達はお前に会えた。それがどれだけ俺達を変えたか、お前はわかってねぇだろ」
「俺と会って…?」
「ギルド自体元々仲は悪い方じゃなかったが、お前が来て、大分雰囲気が変わった。それまで皆で集まって何かやるとか、あんまなかったしな」
「そう、なのか?」
「ああ、お坊ちゃんだって前と今じゃ印象が大分変わった。前は本当にとんでもねぇ我儘おぼっちゃまっつー感じだけだったし。アッシュとも常にいがみ合いしてたしな」
「・・・・。」
そういや取っ組み合いの大喧嘩もたまにしてたらしいなとユーリがぼやくと、聞いていたアッシュは眉をぴくりと寄せながら、ふいっと視線を逸らす。
それにルーは目を瞬かせる。
自分と向こうのアッシュと比べて、ルークとアッシュは兄弟だからかお互いが対等、お互いが言い合える仲で、あまりいがみ合っているような印象はなかった。
ましてや二人でそんな大喧嘩をしている姿を見たことがなかった。
アッシュの様子を見る限り、ユーリが過大に言っているわけでもないようで。
「俺達に大切なものを気付かせてくれたのは、お前だよ。」
「大切なもの…?」
「ああ。…当たり前が、当たり前じゃねぇってこと」
まっすぐに一生懸命に全力で生きるその姿に、気付かされ教えてもらった。
そこに仲間がいる、大切な奴がいる、傍にいる、生きている。
その自分達にとって当たり前過ぎてその尊さ、大切さを見失っていたのかもしれないことに。
そして思うのは…
「…俺達にとって、お前の笑顔が何よりも励みで、失くしたくねぇんだ。」
ユーリはじっと見つめてくるルーの頭に手を伸ばし、ふわふわの朱髪にぽんと乗せる。
「だから、難しいこと考えんな。お前はこれからお前自身が幸せだと思えるように、お前自身のためにお前の世界を目一杯生きればいい。それが俺達が望む世界だ。…けど無理はすんなよ。もし途中できつくなったり、疲れちまったら周りを見ろ。お前には俺達がいる。お前はひとりじゃねえ」
ルーは目を瞬かせ唖然としていたが、それに優しい笑みを向けるユーリ。
そしてふと真向かいにいるアッシュの方を見るも、焚火越しにみえるその顔には肯定的な穏やかな顔をしていた。
それに対してルーは顔を赤らめ、地面に視線を向ける。
じわじわと心に広がるなんともくすぐったくて、でも温かいものが込み上げてきて言葉が上手く出てこない。
すると、自然に零れてきた涙がぽたぽたと地面を濡らす。
悲しさからくるものではない、溢れた出たそれは止まることなく土の色を変える。
その姿にユーリは小さく微笑み、ルーの頭を撫でた。
暫くして徐々に落ち着いてきたルーにあたたかいココアをとユーリは準備を始める。
手際よく作るその姿を見ながら、ルーはぽつりと呟く。
「…ルーク、大丈夫かな…」
「大丈夫なんじゃねぇの?」
ルーの心配をよそにユーリはあっさりと返す。
それになんとなくムッと眉を寄せると、ユーリは軽く笑いながら続ける。
「あいつならそんな簡単にやられたりしねぇだろ。」
ほらと出来立てのココアを差し出され、ルーはおずおずとしながらもお礼を言い受け取る。
なんで言い切れるんだろうと納得しない様子のルーはココアと睨めっこしていると、ユーリは自分の分を入れながら口を開く。
「護るものができた奴は強えんだよ。」
その言葉にルーは顔を上げ、ユーリの方を見ると不敵な笑みを浮かべていた。
それはまっすぐとぶれない目をしていて、ルークへの信頼が見て取れる。
それを受けたルーは僅かに息を飲む。
ルークが頑張っているのに、そのルークを信じきれていない自分の器の小ささを感じた。
「…ごめん…」
「別に謝ることじゃねぇだろ。それに今回はお坊ちゃんだからってだけで、お前の方が反応としては普通なんじゃねぇの?」
「ルークだから?」
よくわからないと首を傾げるルーに、ユーリはココアを飲みながら補足する。
「お前とあいつ、生まれた世界も、通ってきた道も、環境もちげぇけど…根本は似てっからな。」
ルーはきょとりとした表情を見せていたが、何か考え込む仕草をするなり、次第に不安げな表情を浮かべてそわそわとし始める。
「どうした?」
不審に思ったユーリが問いかけると、ルーはびくりと肩を震わせ、目を泳がせる。
何かを言い渋っていたルーだったが、うつむきがちにぽつりと呟く
「…、ルークは頭いいし、自信もあるし、優しいから…その…。」
恋敵であるルークのいい所を上げていくルーにユーリはピクリと眉が動くが、次の瞬間目を丸くする。