第28話
ルー達がライマへと旅立った数刻後。
ルー達の姿が見えないとティアやクレス達が気付くと、それはすぐにバンエルティア号にいる仲間達に知られ、多くの仲間達がジェイドの元に詰め寄っていた。
それに対してジェイドは事態を隠すのは困難と判断し、状況を説明。
仲間達はそれを聞くなり驚愕の表情を見せる。
クレスとロイドも驚いた表情を見せていたが、昨日のルークを思い出すなり手をぎゅっと握りしめる。
「昨日、別れ際ルークの様子がちょっと可笑しかったんだ…、あの時気付いていれば…」
クレスが悔しそうに呟くと、ロイドは何かを振り払う様にぶんぶんと首を振る。
「俺達も行こうぜ!今ならまだ追いつくって!」
「それは止めてください」
いまにも飛び出して行きそうなロイドにジェイドは間髪入れず止め、至極落ち着いた様子で続ける。
「今回の件はクーデターしかも他国が絡む複雑な話です。ライマの人間であればまだしも、あなた方は違います。これからのことを考えるとこれ以上他国の人間に口をださせるわけにはいきません。」
「けど!そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!」
「ならば、私たちは大丈夫ですわね」
すっと前に出たのはナタリアで、背筋をピンとさせ意志を固めた表情でジェイドを見る。
向けられた方はといえば、それに対してはぁと小さくため息をついた。
「私としては、あなたは特にここに残っていて欲しいんですがね」
「ルークが自らを投じてでも守ろうとしたのです。同じライマの王族として私だけここで待っているわけにはいきませんわ」
「そうそう!それにナタリアの事ならアニスちゃんに任せて!」
はっきりと言い切ったナタリアの背後からひょいと顔を出したアニスは力強く頷く。
その様子にやれやれと息をつきつつティアの方を見ると、ティアは何も言わず、けれどそこには強く確固たる決意を含んだ目をしていた。
そんなティアにヴァンも口を閉ざす。
「…わかりました。ですが、私との同行が必須条件です。私の準備が終わるまでは待機していてください」
3人は言葉に頷き、すぐに出発の準備をしに部屋へと戻る。
一方で納得がいかないロイド達が眉を寄せているのを見たヴァンは口を開く。
「ルークにとって、ここは唯一羽が伸ばせる場所だ。それは君たちがいるからに他ならない。…あの子がここに帰ってこれるように、ここであの子の帰りを待っていてくれないだろうか」
そういうなりヴァンはロイド達に頭を下げた。
それに驚いたロイド達だったが、その姿と言葉を受け、気持ちをぐっと押しこみ、わかったと頷く。
すると、それまで思慮していたフレンがジェイドとヴァンの前にでる。
「僕は一度ガルバンゾへ戻ります。今回の件についてガルバンゾ側の状況を確認してきます。」
「私も行きます。場合によってはガルバンゾとしても動かなければなりません。不本意な事態で関係を悪化させかねない状況を見過ごすことはできません。」
フレンとエステルの申し出に、ジェイドは僅かに考える様子を見せたが、真剣な表情を見せる二人を前に頷いた。
「ご主人様もルークさんも心配ですの…」
皆に説明を終えたジェイドも身支度と最後のやり残した準備を終わらせるために、科学室へと向かっていた。
その腕の中にはしゅんと耳をたらしたミュウがいて、心配そうに呟く。
皆と同じくルー達が旅立った後に事態を知ったミュウは最初こそ驚き取り乱していたが、徐々に落ち着いてきた。
とはいえ、自分の主人の事を考えると心配でしょうがないのだろう。
科学室に到着すると、そこにはハロルド、リタ、リフィル、キール達がいて何か作業をしていた。
皆ジェイドの姿を見るなり、その手を止め、歩み寄る。
「お疲れ様です。例の物は順調でしょうか?」
「誰にモノいってるわけ?」
聞くまでもないでしょと自信満々に胸を張るハロルドに、それは失礼しましたとジェイドは適当に答える。
そして皆が作業しているあるものに目を向けると小さく頷く。
「あともう少し、というところでしょうか」
「これでも充分急いで準備したのよ。あんたが急かさなきゃもっとしっかりしたものが出来たはずなんだけどね。」
もう少しじっくりやりたかったと僅かに不貞腐れているリタ。
「完成品とは程遠いけれど…理論はあってるはずよ、あとは使い手次第というところかしら」
「そればかりは僕たちじゃ確かめようがないからな」
リフィルとキールからは若干疲れたような様子ではあるが、その顔には自信が見て取れた。
その様子を見てジェイドは笑みを見せながら、ミュウを机の上に降ろす。
「ありがとうございます。あとは、こちら…ですね。」
すると、皆の視線がミュウに集まる。
ミュウはそれに気づくなりキョロキョロと皆を見渡し、首を捻る。
「みゅ?みゅ?皆さんどうしたんですの?」
不思議そうに問いかけるミュウに、ジェイドはいえと呟きながら眼鏡のブリッジを上げる。
「準備はもうじき終わる…ですが、その前にやらなければならないことがあるんです。」
「みゅ?」
きょとんとした表情のミュウに、ジェイドはこれまでにない真剣な表情を浮かべて口を開いた。
「あなたと話をしたいことがあるんですよ、…ローレライ」
その数刻後―
ルーク達を追い、ライマへと向かうルー達は沢山の木々が生い茂る森の中にいた。
いくつかルートがある中、最短とは言いにくいが比較的近道でかつ周囲に気付かれにくい道を選択した。
正規のルートでは相手に気付かれる可能性があるためだ。
だが、森の中は湿度が高く、足場はぬかるみがあったり木の根っこがあったりと歩きにくい。
徐々に体力が削られていくと同時に先を急ぎたい気持ちが募っていく。
「う~っ急がないといけないのに、じめじめするし、すげー歩き辛え!」
「焦んなルー。怪我するぞ」
冷静に制するユーリに、ルーはぐっと堪えるようにおずおず頷く。
二人の前を歩いていたアッシュは何かにぴくりと反応するなり、片手にあるコンパスと地図を見る。
「?アッシュ?」
「…近くに水場がある」
そう言われたルーとユーリは耳を澄ませると、僅かに水の流れる音が聞こえてくる。
その方向へ向かって歩き出すと、程なくして川辺に出た。
川は穏やかで綺麗な水が流れおり、その岸は休憩がしやすい草地だ。
アッシュは地図を見返し、辺りを見渡すなりルー達を見る。
「今日はここで野営をする」
「え、でもまだ…」
「もうじき日も落ちる。これから先、水が確保できる場所があるとは限らねぇ」
確かにアッシュの言う通り空は夕焼け色に染まり始めていて、暗くなるのはあっという間だろう。
ここで無理して進んでも危険がつきまとう。
それはユーリも同じ感想のようで、すんなりと承諾する。
ルーも逸る気持ちを抑え、わかったと頷き野営の準備を始めた。