第4話
「あ、暗くなってきたな」
気付いたころには辺りはすっかり暗くなってきており、そろそろ帰らないといけない。
ルーは残念そうにしょんぼりとする。
まだいろいろ見て回りたいところだが、迷惑をかけるわけにはいかない。
「ユーリ、そろそろ帰る?」
「実はもうちょっとばかし寄りたいとこがあんだよ。一緒に来てくれないか?」
「!うん、もちろん!つーか、気付かなくてごめんな。なんか俺ばっかり…」
「いや、そういうんじゃねえよ。むしろこれからだから」
「?」
どういうことだろうと首を傾げながらも、歩き出すユーリの後を追う。
徐々に街の中心から離れていき、人だかりから遠ざかっていく。
ますます不思議そうに首を傾げる。
一体どこに向かっているのだろう。
「なぁ、どこに行くんだ?」
「ついてからのお楽しみ」
はぐらかされた。
それにルーは眉を寄せるが、ユーリは笑いながらもうすぐだと告げる。
答えを言うつもりはないらしい。
しばらくしてふとユーリの足が止まる。
そこは少し小高い丘のようなところだった。
「間に合ったみたいだな」
「?ここに何かあんのか?」
「ああ」
辺りを見渡すが特にこれと言って何もない。
不審に思い、口を開こうとした時、突然大きな音が響く。
驚き、音のする方を見ると…
「うわぁ…!!」
そこには夜空に浮かぶ大輪の花火。
思わず感嘆の声が零れる。
1発2発と打ちあがるそれの美しさに目の輝きが増し、自然と笑みを浮かべる。
「ユーリが言ってたのはこれのことか?」
「ああ」
先ほどユーリが街で見かけた張り紙に今日花火をあげるイベントがあることが記されていたのだ。
街中で見てもよかったが、出来たら二人でゆっくり見たいと思った。
だから以前見つけた街全体を見渡せる絶好のポイントのここにわざわざ来たのだ。
ユーリの予想は的中し、大きな花火もそれに照らされる街も見ることができた。
「すげー!ありがとユーリ!」
とんでもないサプライズにルーはすごく嬉しそうに無邪気にはしゃいでいる。
連れてきてよかったと本日2回目になる想い。
目を輝かせて花火を眺めるルーを横目で見る。
その表情はとても幼く見える。
とても可愛い。
そしてとても綺麗だった。
ユーリは自然と体が動きルーとの距離を徐々に詰める。
「ルー」
呼びかけられたルーは振り向くと、まっすぐと真剣な面持ちのユーリの目が合う。
引き込まれるような黒く深い紫紺の色を宿す瞳。
それはとても綺麗で安心感を感じるもので、ルーは思わず見とれる。
時が止まったように見つめ合い、ユーリがルー頬に手をあてる。
その手の温もりにようやく我に返ったルーだったが、体は金縛りにあったように動かない。
徐々に近づいてくる瞳に息を止める。
その時だった。
「ルー!!」
突如呼ばれた自分の名。
ハッとしてそちらの方を見ると、街の方から走ってくる人影。
「!ルーク!?」
「………なんつータイミング…」
突然現れたルークの姿にルーは驚いたが、すぐに笑顔で手を振る。
ルークは今まさにな状態の二人に怒りを露わにしながらずかずか近づいてくる。
そしてそのままルーの腕を引っ張って自分の方に引き寄せた。
「うわっ!…ルーク?」
不思議そうにルークを見ると、ルークはユーリを睨みつけている。
首を捻り、ユーリの方を見るとユーリもルークを睨みつけていた。
ユーリからしたら絶妙なタイミングでの邪魔者でしかない。
この状態に困惑していると、今度はユーリに手首を掴まれて引き寄せられる。
それに対してルークは怒りを爆発させる。
「てめぇっ、ルーから離れろよ!つーか今何しようとしてやがった!!?」
「坊ちゃんこそ、いきなりきてなんなんだよ。邪魔すんじゃねぇ」
「あんだとっ!?」
いがみ合う二人に挟まれたルーは何をそんなに怒っているのか分からず、ただただ困惑する。
「あ、ルー!探しました!」
「!」
声のする方を見ると、エステルの姿があった。
よくよく見るとロイドやクレスを先頭にギルドの仲間が大勢こちらに向かって歩いてきている。突然の仲間の登場に目を白黒させる。
「み、みんな?なんでここに?」
「ルーとユーリが出かけたまま帰ってこないと聞いたので調べていたら、今日花火大会があることを知ったんです。それで、皆ルーと一緒に見たいと思って、来ちゃいました」
何人かは留守番しているが、ほとんどのメンバーは降りてきていると告げられる。
「俺と…?」
「はい!ユーリばっかりルーを独り占めするのはずるいです!」
「俺たちもクエスト早めに終わってよかったよなー」
「うん。ルークが早くクエスト切り上げたいって言ってくれたおかげだね。」
うんうんと笑顔で頷いているロイドとクレス。
その間にも徐々にその場に大勢の仲間が集まり、あっという間に賑やかになる。
さりげなくユーリとルークからルーをかっさらったエステルは、ルーの手を握り微笑む。
「まだ始まったばかりです。みんなで見ましょう」
「…うん!」
ルーは照れたように頬を染め、とても嬉しそうに笑みを浮かべ頷く。
その姿に癒される者もいれば顔を赤くする者もいる。
それを見たユーリとルークはお互いを一睨みし、すぐにルーの方へ足を向けた。
賑やかな笑い声と歓声の中、夜空に咲く美しい大輪。
優しく、楽しい、暖かなこの空間。
その場にいて、ルーはとても幸せだと感じた。
それは本当は大罪人の自分にとって許されるものではないだろうことも。
でも、それでも今日だけは、今日だけでいいから感じていたい。
消えゆく花火を見ながらそう思った。
続く