短編集

伏黒視点

「寒~い」
そう言って俺にぴたっとくっつくこいつは、俺が好きなやつだ。

同学年で、隣の席。
任務も、よく一緒にこなしている。

(こいつ、誰にでも距離感近いんだよな)

そう考えている間にも、こいつは俺のダウンに手を突っ込もうとしてくる。

「お前、誰にでもこんなことしてんのか」

思わず、小さなため息と一緒に口をついて出た。

「え? してないよ。野薔薇とは腕組むくらいで、虎杖にはくっつくくらい?」

けろっとした顔で、続ける。

「伏黒はあったかいし、傍にいると安心するから吸い寄せられちゃうんだよね」

そう言って、俺のポケットに手を滑り込ませて、指を絡めてくる。

自分だけ動揺させられているのが、少し悔しい。

(……たまには一泡吹かせてやるか)

「じゃあ、俺も吸い寄せられちまった」

そう言って、頬に手を添え、触れるだけのキスを落とした。

本当に、一瞬。

なのに。

こいつはしばらく、瞬きも忘れたみたいに固まっている。

「……え?」

小さく漏れた声が、やけに近い。

「言っただろ」

平静を装って、視線を逸らす。

「吸い寄せられたって」

沈黙。

風が冷たい。
さっきまで「寒い」って言ってたくせに、今はぴたりと動かない。

「……伏黒」

名前を呼ばれて、反射的に視線を戻す。

「ずるいよ……嫌って、思わなかった」

少しだけ拗ねた顔。
でも、逃げない距離。

(……ああ、もう)

誰にでも距離が近いと思ってた。
でも、こうやって俺の前でだけ立ち止まるなら。

「だったら」

今度は逃げ場を与えないように、そっと肩に手を置く。

「俺の隣にだけ、いろ」

それだけ言って、歩き出す。

頬が赤いのは、寒さのせいじゃない。
多分、向こうも同じだ。

嫌だって思わなかった。
その事実だけで心は満たされていた。
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