短編集

※もしも虎杖が普通の高校生として生きていたら
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文化祭準備は、思った以上に長引いた。

校舎内。
私は段ボールをまとめながら、息をつく。

「よし、今日はここまでにしよ!」

虎杖が明るく言って、ぐっと背伸びをした。

「俺、ちょっと用事あるから先行くな!ごめん、お先に!」

「うん、ありがとう!お疲れ様」

そう言って手を振ると、虎杖は軽く笑って校舎を出ていった。

……それから少しして。

教室に残っている人数はまばらだ。
私もそろそろ帰ろうと支度をする。

そんな時、教室のドアが開いた。
振り向くと、虎杖が息を切らして立っていた。

「え?あれなんで?」

「駅の方まで行ったんだけどさ……」

一瞬、言葉を探すみたいに頭をかく。

「もう暗いじゃん。
一人で帰るの、心配になって」

「わざわざ戻ってきたの?」

「うん!」

即答だった。

「嫌じゃなかったら、一緒に帰ろうぜ」

あまりにも自然で、あまりにも真っ直ぐで。
胸の奥が、きゅっとなる。

「……ありがとう」

校舎を出る前、階段の踊り場で足を止める。

虎杖は一段上。
私は、二段下。

(……今なら)

「ねえ、虎杖くん」

「ん?」

「ネクタイ、曲がってる気がする。直してあげる」

それは、少しの嘘。
本当は、全然曲がってない。

一段、近づく。

「え、マジ?」

虎杖は素直に身を屈めてきて、距離が一気に縮まった。

「はい……あ、もう大丈夫」

指先が離れると、虎杖は照れたように笑った。

「ありがと!なんか新鮮だな、こういうの」

夜道を並んで歩く。

「文化祭さ、成功するといいよな」

「ね、きっと終わったらあっという間に感じるだろうね」

無邪気な声。
でも、暗い道では、ちゃんと歩く速度を合わせてくれる。

駅に着いて、改札の前で立ち止まる。

「今日はありがとな」

「ううん、こっちこそ本当にありがとう」

「また明日な!」

そう言って手を振る背中を見送る。

——あの時は、気付かなかった。

駅の近くまで行ってから、
わざわざ戻ってきてくれたこと。

まっすぐすぎるその優しさが、
今でも、ふと思い出す理由だったことを。
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