短編集

◇虎杖視点

校庭へ続く階段の先に、二つの背中が見えた。
一人は、俺の好きな子。
そして、もう一人は伏黒。

一歩。
また一歩と近づく。

二人の間から、何やら楽しそうな声が聞こえてくる。

あと五歩ほどの距離まで来て、
俺は背後から、いつも通り明るく声をかけた。

「よっす、何してんの!」

彼女は俺の顔を見るなり、ぱっと笑顔になる。
伏黒も、少しだけ肩の力が抜けたような表情をした。

「あっ、虎杖! ナイスタイミング~。
私の救世主になって!」

屈託なく笑うその様子に、胸が軽くなる。

伏黒は彼女をじろりと見てから、俺に向かって言った。

「おい、虎杖に押し付けるなよ」

状況はなんのこっちゃよく分からなかったけど、
「おう、いいぜ」
と、反射みたいに答えた。

すると彼女は、さっきから手に持っていたスプーンを、
少し気まずそうに差し出してくる。

「実はさ、伏黒とコンビニ寄ったら変なデザート売ってて。
出来心で買ったんだけど、残り一口で限界きちゃって。
伏黒に押し付けようとしたら、絶対イヤって言うし……
私が使ったスプーンで申し訳ないんだけど、食べられそう?」

答えるより先に、体が動いた。

彼女の手首を軽く掴んで、
そのままスプーンを口に運ぶ。

「……うっわ、まっずいな!」

思わず笑いながら言う。

好きな子に頼られた嬉しさが、七割。
彼女が使ったスプーンに、
伏黒の唇が触れるのが嫌だったのが、三割。

「こんなん、どこで買ったの?
次は俺も誘ってよ」

本心は全部飲み込んで、
いつも通り、笑ってそう言った。
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