なんてこった
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02-初対面
<雛未視点>
両家挨拶当日
会場は、重苦しい沈黙に包まれていた。
本日の主役――五条家当主、肝心な五条悟の姿が一向に現れない。
「……誠に、申し訳ございません」
五条家の面々が、揃って深々と頭を下げる。
私は返事をせず、軽く会釈だけを返した。
襖の向こうへと、自然と視線が流れる。
(…噂には聞いてたけど、ここまで奔放だとは…)
「……お嬢様。やはり、この縁談はお断りしては……」
傍らに控える幼馴染の侍女が、怒りに震える声で囁く。
私はふっと小さく笑い、唇に指を当てて彼女を制した。
期待など、最初からしていなかった。
けれど、せめて「形式」としての誠意くらいはあるものだと思っていた自分に、少しだけ苦笑する。
どれほど時間が経っただろうか。
私は静かに口を開いた。
「……申し訳ございません。少し、別室で足を崩してもよろしいでしょうか」
これ以上、平伏する大人たちを眺めているのも忍びなかった。
「……! は、はい。こちらへ」
慌てた様子で案内される。
案内された茶の間は、先ほどの広間とは違い、庭の緑が美しい静かな部屋だった。
椅子に腰掛け、一息つく。
緊張が解けたせいか、不覚にも少し微睡んでしまったらしい。
外が、急に騒がしくなった。
「お待ちください、悟坊ちゃま! せめて着替えを――!」
「あっ、ちょっと! お嬢様は休憩中で……!」
五条家の使用人と、私の侍女が焦り狂う声。
(……ようやく、お出ましか)
次の瞬間、遠慮という概念を忘れたかのように、勢いよく襖が開かれた。
私は背を向けたまま、乱れた髪がないか指先で整え、ゆっくりと姿勢を正す。
「あ~、遅れてごめん。仕事が思ったより押してさ」
背後から届いたのは、驚くほど軽やかで、一ミリの罪悪感も含まれていない声だった。
「挨拶なんて形式だけでしょ。僕からは、この前手紙に書いた通り」
男の足音が、迷いなく部屋の奥へと踏み込んでくる。
「余所で子どもさえ作らなきゃ、あとは何しててもいいから。僕に関わらないで好きに生きてよ」
(……この人は、本当に)
心の中に冷たい火が灯る。
私はその怒りを静かに飲み込み、凛とした動作で立ち上がり、振り返った。
「綾間 雛未と申します。……恐れ入りますが、悟様の仰せの通りにさせていただきます」
視線を上げた瞬間、言葉が途切れた。
目の前に立っていたのは、目隠しをした長身の男。
彼は、傲慢な笑みを浮かべたまま——石のように固まっていた。
五条悟の唇が、わずかに戦慄く。
目隠しで見えないはずの視線が、私の顔を、射抜くように凝視しているのが分かった。
まるで、計算外の事態に直面したかのような、奇妙な沈黙。
「あの……?」
私が小首を傾げて問いかけると、彼はハッとしたように数歩後退った。
「……あ、ああ。それじゃ、よろしく」
それだけを吐き出すように残し、彼は逃げるように襖を閉めた。
開いた時と同じ、嵐のような去り際だった。
「な、何なんですかあの男は……! 失礼にも程があります!」
案の定、侍女が憤慨して私の元へ駆け寄ってくる。
けれど私は、先ほどの彼の動揺が不思議でならなかった。
「……終わりよければ、すべて良しか」
ようやく終わった、この滑稽な挨拶。
私は窓の外の風を感じながら、静かに胸をなでおろした。
これが、私と彼の、あまりにも歪な始まりだった。
<雛未視点>
両家挨拶当日
会場は、重苦しい沈黙に包まれていた。
本日の主役――五条家当主、肝心な五条悟の姿が一向に現れない。
「……誠に、申し訳ございません」
五条家の面々が、揃って深々と頭を下げる。
私は返事をせず、軽く会釈だけを返した。
襖の向こうへと、自然と視線が流れる。
(…噂には聞いてたけど、ここまで奔放だとは…)
「……お嬢様。やはり、この縁談はお断りしては……」
傍らに控える幼馴染の侍女が、怒りに震える声で囁く。
私はふっと小さく笑い、唇に指を当てて彼女を制した。
期待など、最初からしていなかった。
けれど、せめて「形式」としての誠意くらいはあるものだと思っていた自分に、少しだけ苦笑する。
どれほど時間が経っただろうか。
私は静かに口を開いた。
「……申し訳ございません。少し、別室で足を崩してもよろしいでしょうか」
これ以上、平伏する大人たちを眺めているのも忍びなかった。
「……! は、はい。こちらへ」
慌てた様子で案内される。
案内された茶の間は、先ほどの広間とは違い、庭の緑が美しい静かな部屋だった。
椅子に腰掛け、一息つく。
緊張が解けたせいか、不覚にも少し微睡んでしまったらしい。
外が、急に騒がしくなった。
「お待ちください、悟坊ちゃま! せめて着替えを――!」
「あっ、ちょっと! お嬢様は休憩中で……!」
五条家の使用人と、私の侍女が焦り狂う声。
(……ようやく、お出ましか)
次の瞬間、遠慮という概念を忘れたかのように、勢いよく襖が開かれた。
私は背を向けたまま、乱れた髪がないか指先で整え、ゆっくりと姿勢を正す。
「あ~、遅れてごめん。仕事が思ったより押してさ」
背後から届いたのは、驚くほど軽やかで、一ミリの罪悪感も含まれていない声だった。
「挨拶なんて形式だけでしょ。僕からは、この前手紙に書いた通り」
男の足音が、迷いなく部屋の奥へと踏み込んでくる。
「余所で子どもさえ作らなきゃ、あとは何しててもいいから。僕に関わらないで好きに生きてよ」
(……この人は、本当に)
心の中に冷たい火が灯る。
私はその怒りを静かに飲み込み、凛とした動作で立ち上がり、振り返った。
「綾間 雛未と申します。……恐れ入りますが、悟様の仰せの通りにさせていただきます」
視線を上げた瞬間、言葉が途切れた。
目の前に立っていたのは、目隠しをした長身の男。
彼は、傲慢な笑みを浮かべたまま——石のように固まっていた。
五条悟の唇が、わずかに戦慄く。
目隠しで見えないはずの視線が、私の顔を、射抜くように凝視しているのが分かった。
まるで、計算外の事態に直面したかのような、奇妙な沈黙。
「あの……?」
私が小首を傾げて問いかけると、彼はハッとしたように数歩後退った。
「……あ、ああ。それじゃ、よろしく」
それだけを吐き出すように残し、彼は逃げるように襖を閉めた。
開いた時と同じ、嵐のような去り際だった。
「な、何なんですかあの男は……! 失礼にも程があります!」
案の定、侍女が憤慨して私の元へ駆け寄ってくる。
けれど私は、先ほどの彼の動揺が不思議でならなかった。
「……終わりよければ、すべて良しか」
ようやく終わった、この滑稽な挨拶。
私は窓の外の風を感じながら、静かに胸をなでおろした。
これが、私と彼の、あまりにも歪な始まりだった。
