眠る膝上、覚めぬ想い
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05-お手並み拝見
廃ビルの内部は、湿った呪力が滞留していた。
壁に染み付いた怨念が、空気を重くする。
「……いる」
伏黒が低く告げると同時に、奥から歪んだ気配が膨れ上がる。
次の瞬間、呪霊が姿を現した。
人型に近いが、輪郭は曖昧で、蠢く影のような存在。
「じゃあ、始めよっか」
美鈴はそう言って、一歩前へ出た。
呪力が、ふわりと広がる。
空間がわずかに揺らいだ瞬間、呪霊の動きが鈍る。
——幻覚系。
視界の端で、伏黒は気づく。
呪霊の認識が、わずかにズレている。
美鈴はその隙を逃さない。
薙刀をしならせ、滑るように距離を詰める。
鈍い音。
薙刀の一撃が、呪霊の胴を叩き抜く。
「……っ!」
呪霊が後退するが、すぐに呪力を膨張させる。
床が軋み、空間そのものを押し潰すような術式。
「上から来る!」
伏黒が叫ぶ。
巨大な圧が、美鈴の頭上に落ちる。
だが——
美鈴は一瞬も迷わず、後方へ跳んだ。
バク転。
宙で身体を反転させ、そのまま軽やかに着地する。
「……っと」
呼吸ひとつ乱れていない。
(無駄に引き延ばす気はない、か)
美鈴は薙刀を構え直し、深く息を吸う。
「……ここで終わらせる」
そう呟いて、掌印を結ぼうとする。
伏黒は、その動きを見て悟る。
(あの構え……)
伊地知から聞いたことがあった。
強烈な幻覚を直接流し込む、高出力の術式。
呪霊の意識を完全に欺く代わりに、
展開までに、ほんの一瞬の隙が生まれる。
その瞬間。
呪霊が、美鈴を狙って突進してきた。
——間に合わない。
そう思った時、伏黒の身体は勝手に動いていた。
「っ、美鈴先輩!!」
考えるより先に、前に出る。
術式を展開する暇もなく、ただ庇うように。
美鈴の視界に、伏黒の背中が飛び込んだ。
「……っ!」
一瞬、呼吸が止まる。
(この子——)
次の瞬間、美鈴は即座に判断を切り替えた。
掌印を結ぶ。
呪力が、爆発的に広がる。
「——見なさい」
囁くような声。
呪霊の動きが、ぴたりと止まる。
幻覚が流し込まれる。
自分が勝利し、周囲が静まり返り、安心している“偽りの現実”。
完全な隙。
「下がって」
美鈴は伏黒を引き寄せながら、一歩踏み込む。
薙刀が、一直線に振り抜かれた。
——断。
呪霊の核が砕け、霧のように消滅する。
静寂。
伏黒は、呆然と立ち尽くしていた。
美鈴は薙刀を下ろすと、すぐ伏黒の方へ向き直った。
「……怪我、ない?」
視線が、伏黒の肩から足元までを一通りなぞる。
その声は穏やかで、少しだけ心配が滲んでいた。
「ありません」
伏黒が即答すると、美鈴はほっと息をつく。
「よかった」
それから、少しだけ真面目な顔になる。
「でもね、さっきのは……無茶だったよ」
責める調子ではない。
諭すような、やわらかい注意。
「ごめんなさい。反射で……」
伏黒が言いかけると、美鈴は首を横に振った。
「気持ちは分かるよ。守ろうとしてくれたんでしょ」
一拍置いて、少しだけ照れたように微笑む。
「幻覚系の術、見せるの初めてだったよね」
伏黒は小さく頷く。
「間に合わないように見えても、意外と大丈夫なの。
だから、ああいう時は……信じて、見てて」
その言葉に、伏黒の胸が少し熱くなる。
「でも」
美鈴は続ける。
「心配させちゃうのは、よくないから」
いつもと変わらない、穏やかな笑み。
「次はちょっとだけ、急いでみるね」
伏黒は一瞬、言葉を失い、それから静かに頭を下げた。
「……はい。
俺も、もっと周りを見ます」
美鈴は満足そうに頷いた。
「うん。それでいい」
廃ビルの内部は、湿った呪力が滞留していた。
壁に染み付いた怨念が、空気を重くする。
「……いる」
伏黒が低く告げると同時に、奥から歪んだ気配が膨れ上がる。
次の瞬間、呪霊が姿を現した。
人型に近いが、輪郭は曖昧で、蠢く影のような存在。
「じゃあ、始めよっか」
美鈴はそう言って、一歩前へ出た。
呪力が、ふわりと広がる。
空間がわずかに揺らいだ瞬間、呪霊の動きが鈍る。
——幻覚系。
視界の端で、伏黒は気づく。
呪霊の認識が、わずかにズレている。
美鈴はその隙を逃さない。
薙刀をしならせ、滑るように距離を詰める。
鈍い音。
薙刀の一撃が、呪霊の胴を叩き抜く。
「……っ!」
呪霊が後退するが、すぐに呪力を膨張させる。
床が軋み、空間そのものを押し潰すような術式。
「上から来る!」
伏黒が叫ぶ。
巨大な圧が、美鈴の頭上に落ちる。
だが——
美鈴は一瞬も迷わず、後方へ跳んだ。
バク転。
宙で身体を反転させ、そのまま軽やかに着地する。
「……っと」
呼吸ひとつ乱れていない。
(無駄に引き延ばす気はない、か)
美鈴は薙刀を構え直し、深く息を吸う。
「……ここで終わらせる」
そう呟いて、掌印を結ぼうとする。
伏黒は、その動きを見て悟る。
(あの構え……)
伊地知から聞いたことがあった。
強烈な幻覚を直接流し込む、高出力の術式。
呪霊の意識を完全に欺く代わりに、
展開までに、ほんの一瞬の隙が生まれる。
その瞬間。
呪霊が、美鈴を狙って突進してきた。
——間に合わない。
そう思った時、伏黒の身体は勝手に動いていた。
「っ、美鈴先輩!!」
考えるより先に、前に出る。
術式を展開する暇もなく、ただ庇うように。
美鈴の視界に、伏黒の背中が飛び込んだ。
「……っ!」
一瞬、呼吸が止まる。
(この子——)
次の瞬間、美鈴は即座に判断を切り替えた。
掌印を結ぶ。
呪力が、爆発的に広がる。
「——見なさい」
囁くような声。
呪霊の動きが、ぴたりと止まる。
幻覚が流し込まれる。
自分が勝利し、周囲が静まり返り、安心している“偽りの現実”。
完全な隙。
「下がって」
美鈴は伏黒を引き寄せながら、一歩踏み込む。
薙刀が、一直線に振り抜かれた。
——断。
呪霊の核が砕け、霧のように消滅する。
静寂。
伏黒は、呆然と立ち尽くしていた。
美鈴は薙刀を下ろすと、すぐ伏黒の方へ向き直った。
「……怪我、ない?」
視線が、伏黒の肩から足元までを一通りなぞる。
その声は穏やかで、少しだけ心配が滲んでいた。
「ありません」
伏黒が即答すると、美鈴はほっと息をつく。
「よかった」
それから、少しだけ真面目な顔になる。
「でもね、さっきのは……無茶だったよ」
責める調子ではない。
諭すような、やわらかい注意。
「ごめんなさい。反射で……」
伏黒が言いかけると、美鈴は首を横に振った。
「気持ちは分かるよ。守ろうとしてくれたんでしょ」
一拍置いて、少しだけ照れたように微笑む。
「幻覚系の術、見せるの初めてだったよね」
伏黒は小さく頷く。
「間に合わないように見えても、意外と大丈夫なの。
だから、ああいう時は……信じて、見てて」
その言葉に、伏黒の胸が少し熱くなる。
「でも」
美鈴は続ける。
「心配させちゃうのは、よくないから」
いつもと変わらない、穏やかな笑み。
「次はちょっとだけ、急いでみるね」
伏黒は一瞬、言葉を失い、それから静かに頭を下げた。
「……はい。
俺も、もっと周りを見ます」
美鈴は満足そうに頷いた。
「うん。それでいい」
