採掘してたら!!ああっと!!されて開幕シェゾが食いちぎられた
採掘してたら
!!ああっと!!されて
開幕シェゾが食いちぎられた
「お兄ちゃん!!!」
「…あ、」
アミティが気づいたが、遅かった。
こちらが身構えるより速く、そのケモノはシェゾに牙を突き立てる。
「ぐ…!」
その攻撃力は凄まじく、まともに一撃喰らったら戦線離脱は免れない。
…採掘中に『オオヤマネコ』と遭遇してしまったようだ。
「うわぁ…運悪いなぁ…」
「…バッファーが潰された。どうする?」
「…シェゾが耐えられないなら、多分全員ダメだよね…」
アルルが運の悪さを嘆くが、出会ってしまったものは仕方がない。
アルルは杖を、シグは刀を構える。
相手の攻撃は1度も耐えられない。それに加えて、こちらは1人分欠けた状態。攻撃を耐える為にはバッファーのシェゾが不可欠なのだが、真っ先に潰された。
どうやら戦闘開始と同時にピンチに陥ってしまったようだ。
さて、どうしたものか…
すると不意に、下方から声があがった。
「仕方ないからボクが前出るよ」
「カーくん?!危ないよ!」
「どのみち危ない橋渡るんだから誰が行っても変わんないし、だったら後々を考えて、シグの爪削ぎとアルルの魅了邪眼入れた方がいいんじゃない?」
アルルが止めようとするが、カーバンクルは冷静だった。
バフが出来ないならデバフを入れるしかない。攻撃デバフが出来るシグとアルル、そして復活要員のアミティを生かすためには自分が前に出るしかないのだ、そう結論を出した。
「攻撃がボクに来るとも限らないし、大丈夫。来たとしても防御してるから耐えられるよ。」
カーバンクルはそう言ってアルルを説得し、そしてシグに向かって言った。
「『多分』ね。」
「…!」
後衛魔法職のカーバンクルが前線で、
例え防御していたとしても相手の攻撃に耐えられるかは…正直怪しいところだ。
つまり。
「(…相手より先制して、『削げ』…ってことか…!)」
シグの攻撃デバフ『爪削ぎ』を、相手が動くより先に入れるしかない。
「…邪眼のレベルが低い今の状態では、それしかないんだ。」
アルルの『魅了の邪眼』はレベルがまだ低く、発動に時間がかかる。
「…ごめんね、頼りっきりで」
「…」
今までシグは常に最前線で戦い、敵は全て斬り払ってきた。
しかしそれは、シェゾの『号令』があってこその話…
二刀流は防御性能が低い。
故に『防御の号令』が必須だ。
アルルが敵の動きを止め、
シェゾが味方の強化をし、
アミティが回復しつつ、
シグとカーバンクルが殲滅する。
誰が欠けてもいけない。
樹海での戦闘は、パーティ戦なのだ。
ここでカーバンクルが戦線離脱したら長期戦は必至であった。
守る為には、
「…大丈夫。任せて」
やるしか、ない。
「!くるよ!!」
カーバンクルが防御態勢に入る。
オオヤマネコが飛びかかってきた。
「っ、間に合え!」
後方からの斬撃。
上手く敵に当たったが…距離があった為いつもより威力は落ちているようだった。
だがそれで構わない。今回は『爪を破壊』出来れば良いのだ。
しかし敵はそのまま突っ込んでくる。
「あっ!」
防御していたカーバンクルの横を抜け、
その先の…
「いっ、たぁ…っ!!」
アルルに牙を突き立てた。
「姉様!!」
「っ、大丈夫!まだ動ける…!」
オオヤマネコの爪が壊されていたのもあったが、どうやらシグと同じように、敵とアルルの距離があった為に致命傷は避けられたようだ。
そして、
「大人しくしててね…っ!」
その一言で、アルルから離れたオオヤマネコは毛を逆立てて威嚇する。
『魅了の邪眼』が効いているようだ。
一方…
「お兄ちゃん…大丈夫だよ」
巫術『反魂』。
アミティの治療により、シェゾの負った深い傷が治っていく。
「…っ、は…っ、すまん、油断した…」
やがて喋れるまでには回復したが…
「お兄ちゃん!」
「アミティ…ありがとうな、もう大丈夫…」
「じゃないでしょうが」
すぐに前線に出ようとしたシェゾにカーバンクルが待ったを掛ける。
「まだ前線行くのは早いでしょ」
「お、おい、」
「何?まさか薬がもったいないとか言い出すんじゃないでしょ?」
カーバンクルが治療薬『メディカ』でシェゾの治療を続ける。
「それは無いが…前衛が足りな…」
「あたしが行くから大丈夫!いってきます!」
今も一人牽制を続けているシグを案じて自分が出ようと思っていたシェゾだが、アミティが即座に立候補し、行ってしまった。
「多分牽制に加わりつつ、こっちに回復投げてくると思うよ。はい、おしまい。後はアルルと一緒に回復して貰ってね」
「アルル…?」
そういえばアルルは…と視線を巡らせる。
「…あー…大分やられたな?」
彼女はシェゾより後ろに座り込んでいた。
「ぁ…シェゾ…、大丈夫…?」
「それはこっちの台詞だ。…立てるか?」
「えへへ…ちょっと、ツラいかな…。次、方陣張るんだけど…」
治療薬を使って貰ったシェゾは立てるまで回復したが、アルルは辛そうだ。
手を貸してやり、フラつきながらも立ち上がらせる。
すると、回復の光が周囲に広がった。
巫術『再生帯』。
アミティの回復だ。
カーバンクルの予想通り、アミティは自分の『役割』を理解していた。
…ならば、自分も『役割』を果たさねばならない。
「…シグ!アミティ!
『行けるな?!』」
『防御の号令』。
強い言葉が味方を鼓舞する。
「、はいっ!」
「任せろ!」
強力な防御バフを得た二人は、そのまま敵を攻めていく。さらには、
「(…そう、お前の相手はこっちだ…!)」
シグは『大武辺者』を使い、自分の火力を上げつつ、ヘイトを稼いでいた。
爪削ぎ、邪眼、そして号令が入った今、例え狙われたとしても…
「シグ!そっち!」
「…遅い!」
かすり傷は喰らっても、致命傷にはならない。
「…腕封…!」
アルルの声が聴こえると同時に、足元が光る。
『腕封の方陣』だ。
だが相手はピンピンしている…上手く回避したらしい。
しかしそこに、
「悪いな、待たせた!」
シェゾがオオヤマネコに斬りかかった!
前線復帰出来るほどに回復したのだ。
「兄貴…!」
「シグ、よくやった。
…ここからは『いつも通り』だ!
『行くぞ!!!』」
シェゾの『攻撃の号令』が掛かる。
同時に、オオヤマネコはシェゾに爪を立ててきた!
「おわっ、と!」
爪は先程シグが壊したので、これも致命傷にならない。
更に言うなら、シェゾはバフが掛かっている状態で攻撃を食らうと回復するスキル『王の威厳』を持っている。
「…なんでさっきから俺ばっか狙うんだ?!
何か恨みでもあんのかふざけんな!!」
…言動には威厳なんてあったもんじゃないが、気にしてはいけない。
「そりゃあここのヤマネコはそれなりに狩ってるし」
『双燕』。
言うなり、シグの二本の刀が敵を切り裂く。『攻撃の号令』が乗った、良い火力だ。
「まぁボクらのリーダーだし、覚えられちゃったかもねぇ」
『炎の星術』。
カーバンクルがそんなことを言いながら、弱点の炎属性で焼き尽くす。
「あははっ!皆余裕出てきたね!あ、動かないでね?」
『衰身の邪眼』。
アルルは嬉しそうに笑いながら、隙を見て防御デバフを追加していく。
「だ、大丈夫だよ!あたしも、おにーちゃんを守れるもん!」
巫術『脈動』。
全員に行動時回復のバフを掛けたアミティには、
「アミティ〜!おまえだけだよ俺を案じてくれるのは!!」
もれなくシェゾのハグが付いてきた。
割りといつもの光景である。
「また始まった…」
「いつも通りだね」
「どつき回されたいかこのクソ兄貴、」
「はいはい、シグは落ち着いて」
カーバンクルが呆れ、シグは苛つき、アルルが宥める。
いつものパターンに入ったところで、
「じゃ、最後決めちゃうよ!」
アルルの破陣『亜空絞破』が決まって、オオヤマネコとの戦闘に勝利した。
〜〜〜〜〜
「そういやお前ら、よくフォース使わずに倒そうと思ったな?」
アミティを構っていたシェゾが不意にそんなことを言い出した。
フォースとは、それぞれの職業の必殺技の事で、フォースブーストしてからのフォースブレイクはとても強力なのだが、1度使うと使えなくなってしまい、街に戻って休息しないと再度使用のできない技だ。
まさに『奥の手』と呼ぶに相応しい技なのだが…
「フォース使えば速攻倒す事も出来ただろ?」
「えー…それ本気で訊いてる?」
「一応返答は予測してる」
カーバンクルが訝しげに言う。
問いかけるシェゾも、心当たりはあるようだ。
「いやだって…ねぇ?」
「…まだ、朝だし」
「採掘しただけだし、」
「あれは運が悪かっただけだし?」
カーバンクル、シグ、アルルがそれぞれ言う。
理由としては要するに、
「お兄ちゃん、今日はこの下の階層に行くんでしょ?楽しみだね!」
満場一致で、
『もっと探索するため』、であった。
冒険者達の1日は、
まだ始まったばかりである。
-end-
1/1ページ