11.正義の詐欺師
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ー…バクバクバク
『やってしまった…。』
事務所から飛び出した佐奈は勢いに任せた自分の発言を思い出し、一人猛烈に反省していた。
(和泉さんならともかく(←失礼)10コも年上で先輩で上司の九条さんになんて偉そうな……何様のつもりよ私…。)
ー…ドンッ!!!!
『わっ…!!』
「おわっ!!!!」
フラフラと道を歩いていた佐奈は前から歩いてきた男と派手にぶつかりそのまま道路にしりもちをついた。
「ごめんなさい…僕がよく前を見ていなかったもので…。」
『い…いえ…私こそすみません…あ、カードがバラバラに……って…え?』
「?…どうかしましたか?」
『・・・・・!!!!!』
佐奈は目の前の男の顔を見て驚き言葉を失った。
その男はつい先程写真で見たばかりの結婚詐欺常習犯、鷲谷晃だったのだ。
(なんて偶然、なんて作者のご都合主義!!!!
…いや、でもこれはチャンスだ…ここで知り合いになってカモになれば証拠が得られるかもしれないんだ…!!!)
「…お姉さんお一人ですか?」
『…へ?』
「俺、今用事ドタキャンされちゃって…でもこんな綺麗な人とぶつかれてラッキーでした…!!もし良かったらお茶でも一緒に飲みませんか?」
『……は…はい…じゃあ…』
佐奈が意を決して男の誘いに乗ろうとした瞬間、目の前に見慣れた人影が立ちふさがった。
「…何してるの?」
(く…九条さん!?)
佐奈と鷲谷の間を割って入るように現れた九条は、佐奈を自分の方へと引き寄せた。
「すみません、彼女本当ぬけてて、怪我は無いですか?」
「あ…お姉さんのお連れ様ですか?こちらも不注意だったので……あ、カード拾って頂いてありがとうございました。」
鷲谷はそう言って少し残念そうな顔で頭を下げると、そそくさとその場から立ち去って行った。
『九条さん…!?せっかくのチャンスだったのに…どうして…?!』
「チャンスってどうせ鷲谷のカモになろうとしてただけでしょう。…佐奈さんにそんなことはさせません。」
『…え?』
驚く佐奈の頭をぺちんと弾くと、九条はニコッと笑った。
「それに…チャンスと言うならもう充分過ぎるくらいですよ。」
『…?』
九条は驚く佐奈の前に一枚のカードを差し出した。
『それって…今あの男が落としたカードですか!?』
「一番使い込んだ形跡のあるこのカード、鷲谷に届ければ仲良くなる口実になると思いませんか?」
『で…でも届けるにも居場所が…』
「落とした免許証とカードで住所とよく行く店も分かりました。そこに偶然を装って行きカードを口実に話しかけ、気が合う人間だと演出する、ここまで舞台が整えばもう大丈夫です。」
『……今の一瞬でそんな事まで暗記してたんですか。』
「勉強になりましたか?安懸小春の件…裁判になんて持っていかずとも、私が彼に全額返金させてあげますよ。」
そう言って笑った九条の横顔はさっきまでとは少し違う明るいものだった。
その横顔を見ながら佐奈は、本当にこの人だけは敵に回すまいと、密かに誓ったのだった。
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それから数日後、九条は手筈通り行動を起こした。
偶然を装って鷲谷行きつけの居酒屋でカードを渡し、そのままの流れで二人は酒を酌み交わした。
鷲谷の事をくまなくリサーチしていた九条との会話は鷲谷にとって非常に楽しいものだったに違いない。
そうして日を重ねるごとに完全に九条を信じ切った鷲谷は、九条をよき理解者として全てを打ち明けるようになっていった。
「それであのキャバ嬢にはだいぶ稼がせて貰ったんですよね~…いやあ…あれは本当に美味しかったな~…。」
「鷲谷君の頭の良さだからこそなせる事だよね、でも全部の金を飲みに使っちゃうなんて体壊すよ?」
「ふふふ…俺体が丈夫な事が自慢なんですよ~生まれてこのかた病院なんてかかった試しがないですよ。」
「うそでしょ!?だって絶対病弱そうにも見えるもん。」
九条の言葉に鷲谷はケラケラと笑うと、ひどいなぁと更に笑いながら言った。
「ははは…でもこの病弱に見えるってのも使いもんでですね、このお陰で300万ゲット出来ちゃったんッスよ~!!!」
「・・・へえ?何それ面白そうだね。その話、聞かせてよ。」
九条のこぼしたほんの少しの笑みと、レコーダーの録音ボタンを押す手。
一般人相手に普段の鷲谷ならその微妙な変化に気付けたのかもしれない。
だが目の前にいるのは天才詐欺師と謳われた九条誠一で、
その九条に踊らされている今の鷲谷が、それに気付けるはずもなかった…。
ー…カチッ
「では鷲谷さん…私からも面白い話をしましょう。」
「…へ?」
「刑務所行きと300万の返済、どちらがよろしいですか?」
「あ、それかマグロ漁船にしておきますか?ねえ、高虎さん。」
「・・・・・・!!!!!!!????」
数日後、九条の指定した口座にぴっちり耳をそろえて300万が振り込まれたのは
言うまでもありませんでしたとさ。