Re:3 孝之助の恋愛事情
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ー…バタバタバタ…バターン!!
「お邪魔します!!」
『へ‥?』
翌日、うららかな朝を切り裂くような声とともに事務所に現れたのは、息を荒らげた椿だった。
驚く一同をよそに椿は佐奈を見るなり鬼の形相で睨みつけると、つかつかと孝之助に歩み寄った。
「南在くん、言いづらいんだけれどもあなた二股かけられてるわよ、あの小娘にっ!!」
「は…はい…?」
『へ…?』
突然の椿の言葉に孝之助と佐奈が目を丸くして驚いていると、椿は鬼の首を取ったかのように勝ち誇って言い放った。
「私昨日見たの、昨日南在くんと別れてこの女、あろうことかそこの長髪の男とキスして部屋にもつれ込んだわよ!!」
『も…もつ…!?』
「……。」
「なっにいいい!?俺というものがありながらどういうことだ!!」
「和泉、ややこしくなるのでふざけてないで黙ってなさい。」
『もつれ込んでなんていません!!ただ普通に部屋に招き入れただけです!!』
「佐奈、そこかよ。」
「ふん、部屋に入れたのは認めたわね、南在くん残念だけどこれは由々しきことよ、慰謝料でも取ってあげるわ。」
『あっ…あのっ…』
勝ち誇ったように言う椿に孝之助はハアとため息をつくと、少し強い口調で椿を制した。
「由々しきことはお前だろうがよ、椿。探偵まで付けて俺と佐奈を付け回しやがって…どうせヒナを部屋に入れたのだって探偵からのタレコミだろ、俺らのことは俺らの問題なんだからお前にゃ関係ないだろ。」
「……なによ。」
「…?」
珍しく強気に出た孝之助に椿は少し驚いたように黙りこくっていたが、すぐに眉間にしわを寄せキッと孝之助を睨んだ。
「…ここまで来ても…本当のことは言ってくれないのね。」
「…?」
『え…?』
「南在くんさ、自分が嘘つくとき頬を触る癖があるの知ってた?前別れた時も今回も同じだったよ。」
「……。」
「九条誠子の時だってそう、嘘ついてるって思いたくは無かったけど、あの女を少し調べたら部屋から別の男が出て来たわ…南在くんとの関係は嘘で、実際はその男と同棲してたんでしょう。」
((…そ…それは恐らく同一人物…………!!!!!!))
「・・・。」
椿の言葉に振り向きもせず存在を消した九条の方を、皆は恐る恐るそーっと振り向いた。
だが椿はそんなことには気付かず、淡々と言葉を続けた。
「だから今回もすぐに分かったわ、本当はその子の彼氏が南在くんじゃないんじゃないかってね。まあ南在くんにまた嘘をつかれたんだって思いたくなくて躍起になって調べちゃったけど…やっぱり結果は惨敗だったわ。」
「椿……。」
皮肉にも観察眼が鋭すぎる椿は、誰よりも早く孝之助の嘘に気づいてしまっていた。
だが嘘をつかれて別れられた事を信じたくない椿は、昔も今回も自分の見ぬいた嘘が本当であって欲しいと、探偵をつけるまでに至ったのだった。
『孝之助さん、今度こそ嘘ではぐらかすんじゃない本当の言葉で…伝えたらどうですか…?』
「……。」
佐奈に後押しされ孝之助は観念したように頷くと、意を決したように椿の前に立ち、深々と頭を下げた。
「嘘をついて別れたこと…本当に悪かったと思ってる、お前がそんな事を思ってたなんて考えもしなかった。お前をそんな風にさせたのは俺だったんだな…ごめん。」
「南在くん……私の方こそごめんなさい…じゃあ教えてくれる…?本当の理由。本当のことを聞いたら…私やっと南在くんの事、諦められる気がするの。」
「本当の…理由…?」
椿の言葉に孝之助が戸惑っていると、佐奈が孝之助を励ますようにうんうんと頷いてみせた。
そして孝之助はためらいながらも口を開き、堰を切ったように話し始めた。
「本当の理由は…まずはあれだなお前俺の携帯毎日盗み見してただろ、しかもご丁寧に接続記録まで調べ上げやがって。それに電話帳に登録してた女みんな着信拒否に設定してたこともあったよなあ。あと一緒にいる時お前仕事の電話線抜いたよね?アレのお陰でどれだけあの後大変だったか!!」
((うわあ………。))
昔の恨みつらみを思い出し止まらなくなった孝之助と、思っていた以上の理由に困惑しドン引きする一同。
そんな皆の視線を受けワナワナと表情一変させた椿は、ポロポロと涙を流し始めた。
「こんな…こんな公衆の面前で女性の過去を晒すなんてどうかしてるわ!!ひどい!!!!」
((ええーーーーーーー!?自分が言えって言ったのに!?))
「あ…ご…ごめん言い過ぎた…でも俺もあの時大概困っててな、本当のこと言って傷つけると思ったから今まで言わなかったわけで…」
「刑法230条1項、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立する名誉毀損罪により訴えます!!3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金に処されたくなければ直ちに責任を取って頂きます!!」
「は…はあ!?いや…ちょっと待て椿…」
「それとも何?元恋人同士の弁護士同士で泥沼の法廷対決でもする?貴方が私に勝てるとは思えないけど。大丈夫!!この事務所畳んでも私と二人で弁護士事務所設立すれば一生安泰よ、私ももう弁護士やらないって決めてたけどそうと決まればやぶさかでないわ!!」
「決まってない決まってない!!頼む俺の話聞いて!!!」
「『・・・・。』」
『ヒ…ヒナさん…世の中には素直に話せばいいってもんじゃない事があるようです。そして事務所が無くなりそうです…ピンチです。』
「……ああ、仕方ない、和泉。」
「がってん承知!!」
怒涛の勢いで椿に言いくるめられる孝之助を横目にヒナが和泉に合図を出すと、和泉と佐奈は楽しそうに九条ににじり寄った。
「な…何を…!!?」
「南在探偵事務所存続の危機だ…観念しろ!!」
「九条さんすぐ終わりますのでじっとしてて下さい!!」
「…ぎゃああああああ!!」
そうして九条が事務所の奥に連れ去られてから数分後、
椿に丸め込まれそうになっていた孝之助であったが、そんな間を割って入るようにドアを開ける音が響いたのだった。
ー…バターン!!!!!!
「…!!な…何!?」
「お…お前は………!!」
驚き振り返った二人の目の前に現れたのは他でもない、怒りで目の据わった九条誠子だった。
孝之助は助け舟が来たとパアッと表情を輝かせると、
今度は頬に手を当てないよう気をつけながら誠子に都合のいいように話を合わせた。
「か…帰って来てくれたんだな~!!!!」
「九条誠子…!?…まさか、今もずっと繋がりがあったというの…!?そんな…!?」
「そ…そうなんだよ!!椿が見たっていう誠子の家にいた男は誠子の唯一の家族で生き別れた兄妹だったんだ……その調停で今まで連絡が取れなくってな…うっ…」
「な…なんですって…!?」
無理矢理女装させられ完全にキレている九条と、迫真の演技の孝之助に事務所の面々は必死に笑いをこらえていたが、
椿は先ほどまでの勢いを休息に鎮火させ、諦めたようにフッと笑った。
「…私が勝手に勘違いをしていただけで、南在くんが言ってたことは初めから本当だったのね…私の観察眼もまだまだだわ…。」
「つ…椿…分かってくれたのか、嬉しいよ…!!」
「悔しいけど負けたわ…私だってそんな苦労をしてきた子からあなたを奪うなんて酷い真似出来ない…でもありがとう、これで諦められるわ…。」
『…おお、なんか誠子さん一言も喋らぬまま解決しましたよ…!!にしても九条さん適当な女装ながらも美人ですね…。』
「あの人は何に負けたんだろう。」
「あの女頭いいんだろうけどアホだな。」
『まあ…案外可愛らしい人なのかもしれませんね。』
橘佐奈22歳。
穏やかな笑顔(?)を見せる二人を前に、嘘をつかないと解決しない問題があることを知り
また一つ大人になった春でありました。
【Re:3 】孝之助の恋愛事情 -END-
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