24.置かれたハニーポット
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ー…カツカツカツカツ
「……。」
「どうしました?千咲さん。」
「あ、く…九条さん!!!!」
仕事を終えて帰ろうとしていた千咲に九条が声をかけると、千咲は嬉しそうに笑顔を見せて九条に駆け寄った。
「今日はもうお仕事いいんですか?」
「はい、だって今日は一緒にご飯食べに行く約束していたでしょう?まあまだ仕事残ってはいるんですが千咲さんとの約束の方が大切ですから。」
「九条さん…!!」
千咲は九条の言葉に喜んで抱きつくと、九条が持っていたパソコンと沢山のデータを見て思いついたようにポツリと言った。
「今日予約とってるのって赤坂のホテルですよね…あの…もし九条さんが良ければ…そこのホテル、泊まりませんか…?」
「え…?」
「そうすれば一緒にいられて九条さんもお仕事出来るでしょう?一緒にいたいですけどそのせいで九条さんのお仕事に迷惑がかかるのは私も嫌なんです…!!」
「千咲さん…ありがとうございます…!!」
九条が優しい笑顔で嬉しそうに頷くと、千咲も顔を赤らめながら笑顔を見せた。
そうして二人は事務所を後にし、赤坂にある高級ホテルへと向かったのだった…。
...............................................................
ー…ガチャ…
「わあ!!このお部屋すごく素敵ですね…!!夜景が綺麗……!!」
「本当だ、いい部屋があいていて良かったです。」
夕食を終え、二人はホテルの部屋で夜景を眺めていた。
高層ビルが並ぶ東京でもひときわ高いその部屋から見る夜景は格別で、千咲はうっとりとしながらその絶景に見とれていた。
「九条さん何か飲みます?私注ぎましょうか!!」
「はい、じゃあお願いします。」
千咲はそう言って二人分のグラスを用意すると、ワインを注ぎ共にそれを口に運んだ。
「あ、九条さんお仕事していていいですよ、その為に来たんですから!!」
「…そうですね。でも…」
ー…グイッ
「…!!」
「この状況じゃ、冷静に仕事なんて出来ないんですけれど?」
九条はそう言って千咲をベッドに押し倒すと、ニコリと笑った。
千咲は目の前の九条に顔を赤らめると、少しはにかみながら九条の頬をむにっとつまんだ。
「でも先にお仕事終わらせないと後でゆっくり出来ないですよ?先に私シャワー浴びますので…その間にお仕事終わらせるっていうのはどうですか?」
「…じゃあそうしましょうか。」
「はい…!!」
千咲はそう言って照れたように頷くと、いそいそと浴室へと向かった。
最高級のホテルに最高にかっこいい彼氏、千咲はその二つに余程満足したのか一人微笑むと、シャワーのノズルをひねったのだった。
ー…ザー……バタン…
「九条さん…?」
千咲がシャワーを終えて浴室から上がると、部屋ではパソコンを開いたままソファで眠ってしまったらしい九条の姿があった。
千咲はそんな九条にそうっと近づくと、九条の耳元で小さく名前を呼んだ。
「…九条さん?九条さん。」
「…スー……」
「………ふふっ。」
声をかけても起きない様子の九条を見て千咲は微かに笑顔を見せると、すぐさま自分の鞄から取り出したUSBを九条の起動したままのパソコンに差し込んだ。
千咲は手慣れた手付きでパソコンの中身をくまなく調べると、そのデータをどんどんUSBへとコピーしてはパソコンの中身を削除していったのだった。
「…ごめんね九条さん、天才詐欺師とか言われてたけど…ただの綺麗な男の人だったね。」
千咲はそう言って勝ち誇ったような顔で眠る九条を見下ろした。
そしてコピーと削除が終わるとパソコンからUSBを抜き取り、何事もなかったように鞄にしまおうとした
その時だった。
「やっと正体を表しましたね、この女狐が。」
「!?」
ー…ガシャーン!!!!!!!!!
「な…何するんですか?九条さん…!?」
「もう正体は知っていますから取り繕おうとしなくて結構ですよ、千咲さん。あ、この名前も偽名なんですよね?」
「……!!!?」
突如目覚めた九条に羽交い締めにされた千咲は、先ほどまでの笑顔とは打って変わって恐ろしい形相で九条を睨み付けた。
だが九条はそんな事気にも留めず千咲の手を拘束すると、ホテルの柱に動けないように縛り付けた。
「なんで…確かに睡眠薬入りのワインを飲んだはずなのに…!!」
「私元々酷い不眠症でして、睡眠薬の飲み過ぎで睡眠薬のたぐいが効かなくなってるんですよね。まあこれは正直困っていることなんですけども。」
「……じゃあわざと…寝たふりを…!!」
「パソコンとデータをちらつかせて密室に誘い込めば必ず尻尾を出すと踏んでいましたので、まあ…効く体質なら飲みませんでしたけどね。」
「…っ…!!」
悔しそうに唇を噛みしめる千咲を横目に九条は千咲がしまおうとしていたUSBをパソコンに刺すと、USBにコピーされていた内容をひとつずつ確認していった。
その内容はある事に関する情報で一貫していて、九条は予想通りと言うふうに溜め息をついた。
「…やはりバベルの情報でしたか。」
「……。」
「バベルを使用しているという佐橋大臣の裏にいる組織のスパイが、うちの事務所にバベルの情報がもれた事を知り経路を調べるとともに隠蔽しに来たってとこですか?まあ吐いて頂くまでもない、正解ですよね?」
「!!」
「あなたが皆を罠にかけていると思い上がっている前から私はあなたに罠をかけていた。ご存知でなかったですか?」
九条はそう言って白々しい笑顔でニコッと笑った。
だが千咲はそれに対して何の返答もしないまま九条をキッと睨むと、堰を切ったように九条を脅し始めた。
「……犯されたって警察に逃げ込んでやる…前科がある分あんたは刑務所行き確定よ!!そうされたくなかったら今すぐ…」
「父親は飯野和彦53歳塗装業、母親は飯野早苗50歳主婦、ともに現在は神奈川県にお住まい。姉の美代子さんは市役所勤務の公務員、兄の潤一さんはやっと3年越しで高校の教員になれたんですよね、おめでとうございます。」
「……!!?」
突然九条の口から羅列されたのは、千咲の本当の家族の情報だった。
予想外の事に千咲が驚いていると九条は表情を変えることなく続けた。
「せっかく決まった就職ですがお兄さんには諦めていただきましょうか。警察に逃げ込むならご自由に、その代わりその時はあなたのご家族ご友人、片っ端から"死んだ方がマシだ"と思うくらいに追い詰めますので、覚悟されて下さいね。」
「……!!!!この悪魔…!!あの事務所の連中もみんなそうだ、救いようのない犯罪者のくせして…あんただってあわよくば私とやろうとでもしてたんでしょ!?ヘラヘラ騙される馬鹿ばっかりの犯罪者集団のくせして…あの女も野暮ったいくせにいい人押し売りして鬱陶しいったらなか…」
ー…ガンッ!!!!!!!!!!
「…!?」
千咲の言葉を遮るように九条は置いてあったアイスピックを手に取ると、千咲の横の壁目掛けてアイスピックを突き立てた。
九条は更にそれをズボッと抜き笑うと、今度は更に千咲の近くに何度も何度もアイスピックを突き立てた。
ー…ガスッ…ガスッ…ガツンッ…!!!!
「ひっ……!!!!」
「…私はね、心底頭にきているんですよ。ヒナの持ってる情報を探るのに二人をバラしたかったのでしょうが…そんな事の為に佐奈さんをあんなに傷付けたこと。私の大切な人を平然と傷付ける女に、誰が欲情などするものですか。」
「……く…狂ってる…!!」
「うちの事務所はね、底なしのお人好しと脳ミソ筋肉のバカ、それに佐奈さん以外に何の頓着もない引きこもりなのでね…。狂っても悪魔と呼ばれようとも、私が騙される訳にはいかないんですよ。
さあ、洗いざらい話していただきましょうか、 千咲 さん?」
パラパラと落ちるかけらの音とパソコンの無機質な起動音だけが響く室内。
先程まであんなに綺麗に見えていた窓一面の夜景は、 全てを飲みこむような漆黒の暗闇へと姿を変えたのだった…。