24.置かれたハニーポット
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「はああああああああああああ?!」
『うっ…ひっく…ごどごしゃあああああん!!』
事務所にいたたまれなくなった佐奈は聞き込みと銘打って事務所を抜け出して近くの喫茶店に来ていた。
泣きじゃくる佐奈から電話をもらった琴子は一緒にいた高虎とすぐに佐奈の元に駆けつけ、事の一部始終を聞き怒りに我を忘れていた。
「何なのよそのナメくさった女は!!私が落とし前つけてやるわ、虎ちゃん!!拳銃貸しなさい!!」
「琴子さん、拳銃は良くないですよ、穏やかでないですよ。」
怒り狂う琴子を高虎がどうどうとなだめると、琴子はイライラと落ち着かない様子で椅子に腰を下ろした。
『千咲ちゃんも悪いことしてるわけじゃないんです…きっと悪気もないと思いますし…ただ…何となく感じる私への嫌悪感があるというか…』
「悪気がなくてもあんたをこんなに落ち込ませてるんだから十分悪いわよ!!そいつは確信犯だわ!!ていうか私が納得行かないわ!!」
『うっ…琴子さああん…』
「でもその話じゃあのイケメン王子様はどうしたのよ、あの人はその女の毒牙にかかってないんじゃないの!?」
『それが…実は…』
「えっ……ええええええええええええええええ!?その女とイケメン君が付き合ってるううううううう!?」
『はい…そうらしいです…。』
「あ、すみません、すみません。琴子さん、少し声のボリュームを抑えめにして頂けると…助かります…」
寝耳に水の衝撃事実に琴子が店中に響き渡る大声で驚くと、高虎は周りの客や店員に頭を下げた。
琴子はあまりの事の成り行きにぐったりと頭を抱え込むと、渋い顔でコーヒーを口に運んだ。
「佐奈さん、九条さんから話は聞かれたんですか?」
『いえ…九条さんは今一人別に動いているのでまだ話してないんです…。』
「………そうですか。」
佐奈の濁したような物言いに九条が東雲大臣の依頼を一人で調査していると悟った高虎はそれ以上何も聞かなかった。
だが怒りを未だ抑えられない琴子は、佐奈に九条と千咲の事について詳しく尋ね始めた。
「でもなんでたった三日で話がそう飛躍するのよ、しかもイケメン君と付き合ってるくせに和泉ちゃんと二人でご飯に行ったっていうの?」
『二人で行ったかは知らないですが…千咲ちゃんは前から九条さんの事気になってたようですし、千咲ちゃん可愛いし告白すればまずふられないと思いますし……。』
「何なのよその女はそんな美人なわけ!?」
『美人というか…可愛い感じで…』
「とは言っても私より美人なはずないわ!!そこらへんの小娘でしょ!!気後れするんじゃないわよ佐奈!!」
『琴子さん…私も限りなくそこら辺の小娘以下といいますか……』
ゴニョゴニョと気落ちする佐奈を前に高虎はニコッと笑うと、佐奈を安心させるように優しい口調で言った。
「佐奈さんの事を事務所の皆さんがとても大切にしていることはよく存じています。
今まで色んな事を乗り越えて築いた佐奈さんと皆さんの絆を、一朝一夕で塗り替えられるとは到底思えません、大丈夫ですよ、佐奈さん。」
「そうよ!!佐奈にしか興味のないメガネ君がそんな女なんかに揺らぐわけないじゃない!!きっとその女の名前すら覚えてないわよ!!」(←経験談)
『高虎さん…琴子さん…!!』
優しくて温かい二人の言葉と笑顔に佐奈は思わずポロポロと涙をこぼした。
病と度重なる誹謗中傷にすっかり弱っていた佐奈だったが、二人のお陰で次第にいつもの元気を取り戻していった。
『私もう一回頑張ってみます!!本当にありがとうございました…!!』
「佐奈、何かまたあったらすぐに言うのよ?今度ナメた真似したら冴嶋組組員全員引き連れて乗り込んでやるからね!!」
「琴子さん…うちの組員気軽に駆りださないで下さいね…。」
『あはは!!』
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ー…バタン
『只今戻りました~…。』
二人に勇気づけられ恐る恐る事務所に戻った佐奈は、スッと息を吸い込み自分のデスクまで足を進めた。
「佐奈さん、もういいんですか?」
『あ…九条さん…!!』
仕事から戻っていたらしい九条が佐奈に声をかけると、佐奈は九条と話をしようと九条の腕を掴んだ。
だがその瞬間横槍を入れてきたのは少しヤキモチを焼いている様子の千咲だった。
「九条さん戻ってたんですね!!おかえりなさい!!」
「はい、今戻りました。」
『あの、千咲ちゃん、私ちょっと九条さんとお話があるんでいいですか?』
「…私だって九条さんと話したいことは山ほどあるんです!!九条さんは私の話聞いてくれますよね?」
千咲の勢いに負けまいと必死に食らいついた佐奈だったが千咲も明らかに佐奈に敵意を剥き出し、
私のものなんだからと言わんばかりの勝ち誇った目で佐奈を見下ろすと、九条の腕にもたれかかった。
「…佐奈さん、後でまた聞きますね。すみません…。」
『え…あ、あの九条さんすぐに終わるので…』
「やったあ!!九条さん大好き~!!あのですね、次の依頼なんですけど…」
『………。』
「おいおいお前ら社内恋愛認めてるけどあんまり業務に差し支えないようにしてよー。」
「はーい!!了解です孝之助さん♪」
(あんの女ああああ……!!!!)
またもなぜか千咲に九条を奪われた佐奈は、怒りにわなわなと震えながら拳を握りしめていた。
だが相手のペースに乗せられたら思うつぼだと思い、佐奈は深呼吸をして湧き上がる感情を必死に押さえ仕事に取り掛かった。
『孝之助さん、前回の柿谷さんの報告書まとめます。』
「おお、悪いな、大丈夫か?」
「そうですよ佐奈さん、千咲がしておいてあげますから無理しないで下さい~!!今日は一日ゆっくりお掃除とか楽なお仕事しておいたほうがいいんじゃないですか?」
「はは、千咲は優しいなあ。」
「だって佐奈さんがいなくなったら私寂しいですから!!憧れの先輩の手伝いをしたいと思うのは当然ですっ!!」
『……。』
どこから湧いて出たのか、どうやら佐奈の仕事を根こそぎ奪い取りたいらしい千咲に佐奈はニコッと笑顔を見せると、
何食わぬ顔で孝之助から資料を受け取った。
『柿谷さんはいつも私が依頼を受けていて私しか知らない情報も多いです。千咲ちゃんの気持ちは嬉しいけど、私も千咲ちゃんに負けてられないし大丈夫ですよ!!』
「…そうですか、いらぬお節介でしたね。」
全く動じず笑顔を見せた佐奈に千咲は一瞬だけ冷めた表情を浮かべると、すごすごと自分のデスクへと戻っていった。
だがそれがどうやら面白くなかったのか千咲はすぐに席を立つと、一人書類を持ってヒナの部屋へと入っていった。
『…。』
佐奈はその様子を横目で見ていたが、気にせず報告書の作成を続けた。
ヒナと千咲が気にならないといえば嘘になるが、休んだ分、皆に迷惑をかけた分を少しでも返そうと黙々と仕事を進め、佐奈は今までためていた事案全ての報告書の全てをこの数時間で書き上げていた。
『…孝之助さん、出来ました!!』
「おおっ!!さすがだな、助かるよ佐奈!!」
佐奈は孝之助に書類を提出しニコッと笑うとくるりと踵を返し、ずかずかとヒナの部屋へと足を進めた。
この数時間部屋から出て来ていない千咲の声がする部屋の前で佐奈は深呼吸すると、勢い良く部屋の扉を開け放った。
ー…バンッ!!!!!!
「あ、佐奈さん。」
「…佐奈。」
『…。』
ヒナの部屋の扉を開けると、そこでは仕事をしているヒナに執拗にベタベタとくっついていた千咲がいた。
千咲は佐奈と目が合うとわざとらしくヒナから手を離したが、佐奈はそれすらも想定内だったようで顔色一つ変えることなく二人に近づいた。
ー…ツカツカツカ
『千咲ちゃん、沢山仕事を受けてるなら早く仕事をして下さい。そしてここに長時間いるとヒナさんの仕事の邪魔にもなります。』
「…やだ。佐奈さん何か怖いですよ、ねぇヒナさ…」
『それと。』
ー…グイッ!!!!!!
『私のですから。』
「佐奈…。」
「……。」
佐奈がヒナを抱きしめ千咲にそう言い放つと、さすがの千咲もそれ以上言葉が無いようですごすごとヒナの部屋を後にした。
佐奈は千咲を見送った後照れたようにヒナから手を離すと、ヒナは嬉しそうに笑って佐奈の頭をなでた。
『ヒナさん…』
「助かった、ありがとう。」
久しぶりに見たヒナの笑顔とその言葉に、佐奈の胸には全ての嫌なことが吹き飛ぶ程の嬉しさがこみ上げた。
そうして佐奈はえへへと照れながら笑って頷くと、お仕事頑張って下さいと言ってヒナの部屋を後にしたのだった。
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ー…バタン
「ワン!!ワンワン!!ヴー…グルルル…」
「…。」
ー…バキッ‼‼
「キャン‼キャンキャン…‼‼」
「…ムカつく。」