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ムナカタ海姫




その日を境にタギリは精力的に人間の手助けをするようになっていった。


人前に姿こそ現さなかったが、海で溺れる子があれば波を岸に向かって流し、渦に飲まれそうな船があれば渦を逆流させて海を穏やかな姿に戻した。

すべてはサヌイの言った"30回の桜"を人間達が全て見れるように、との思いからだった。



ー…バシャッ!!


「これで船から落ちた者は全員か!?」


「はい…!!30人全員無事でございます!!サヌイ様が族長になられてから海難事故で助かる者が急激に増えました…これもサヌイ様と龍神様のお働きのお陰です…!!」


そう言って頭を下げる村人を前にサヌイが遠くの岩壁に目をやると、そこにはこっそりと皆の無事を喜びピースサインをするタギリの姿があった。



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「私とテトだけの力ではありませんよ…。」

「え?」



「三女神様のご加護あってのことです…!!」



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こうして二人は距離を縮めていき、お互いがお互いを"愛する"という感情を持つのに、


そう、時間はかからなかった…。




................................



ー…ズン…ズン……


「テトー!!おっ待たせー!!」

「………………は?」


タギリの元に向かう為いそいそと現れたサヌイの姿に、テトは二度見をして呆れを通り越して完全に引きながら尋ねた。


「何だよそれ…。」


「何って桜だよテト!!タギリがこの間の桜が枯れたって悲しんでたからさ、もういっそ島に一本植樹してあげようと思ってさ!!」

「だからって桜の木まるまる担いでくる奴があるか!!そしてそのまま俺に乗る気か!?勝手に船で行けよ!!」

「嫌だなぁ~…船で行ったら何時間もかかるの知ってるくせに~!!」


「知るか!!俺を巻き込むな色恋ボケ!!」



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ー…ガサッ


「…ヤソさん、サヌイ族長はまた三女神様の島に行ったんですか?なんか桜の木担いでましたけど…。」

「知らん、あんなバカほっとけ。」


岸壁で釣りをしていたヤソは、意気揚々と海に出るサヌイの姿を見て少しイラついたようにそう言った。


「にしてもサヌイ族長は三女神様信仰が厚いですよねぇ、それか誰かと逢い引きしてたりして?相手は三女神様?あはは、やばいですね~!!」


「バカ言ってないでさっさと寝ろ。」

「え~まあ相手が三女神様ってのは冗談ですけど、逢い引きは当たってるんじゃないですか~?いい人がいたりして。」



「…………はぁ?」



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ー…ザッ…ザッ…


「…サヌイ!!凄いです凄いですっ!!桜がっ!!社の隣に桜が~っ!!」

「あはは、良かった~喜んでくれて!!」



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「はい!!綺麗です!!!!嬉しいです!!サヌイ大好きです!!」


「…!!」

(…か…可愛い…。)


タギリの社のそばに桜を植えたサヌイは、喜びはしゃぐタギリと共に桜を見上げた。

まだ幼い桜の木はタギリのそばに来れたことを喜んでいるようで、儚くも美しい姿を月夜に咲き誇っていた。


「こんな日は桜を肴に一杯飲みたいものですねぇ…全部嫌なことも忘れて…。」

「ふふふ~サヌイ!!御神酒ならございますよ!!じゃーんっ!!」


「…それこの間御供えしたお酒じゃないですか。」

「一人でいただいても美味しくないでしょう!!ほら早く!!」


そう言うと、タギリは持ってきた酒をサヌイに振舞い二人で乾杯をした。

桜を肴にタギリと酒が飲める日が来るとは思いもよらなかったサヌイは、嬉しそうに酒を口に運んだ。



「タギリ様…この桜は凄く長く生きるんです、私がいなくなっても…ずっとずっとタギリ様を見守ってくれますよ。」


「…サヌイ…。」


サヌイはそう言うとニコッと笑顔を見せたが、タギリは逆に悲しそうな顔を浮かべサヌイの腕にぎゅっとしがみついた。


「桜も嬉しいですけれど私はサヌイにそばにいて欲しいです…サヌイと一緒に…10年後も100年後も桜を見たい…。」


「タギリ様……。」



恐らくそれは叶わぬと分かった願い。

タギリはサヌイを困らせまいと今まで黙っていたが、それももう限界だった。



「サヌイ…"子供"というものは愛しあった男女の間に生まれるのでしょう…?

私にサヌイの子は産めぬでしょうか?人間でない私には…それすら叶いませんでしょうか…?」


「……タギリ様…酔って…いらっしゃいますか?」

「…酔ってなどおりません!!私はサヌイの事を誰よりも愛しています…だから…だから…!!」



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「タギリ……様………………」




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二人はその夜、初めて体を重ねた。



きっとあなたに私の子供が授かることはないし、あなたの願いを何一つも叶えてあげられないちっぽけな人間風情の私が、

愛しいあなたと一緒になりたいと、触れたいと、ただ一人の男として思った。



例えこれが神を冒涜することになろうとも、

一族全員を裏切ることとなろうとも。



それでもいいと、思ってしまったんだ。


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