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ムナカタ海姫



ー…ガバッ!!


「知らぬこととはいえ大変失礼いたしました…私はムナカタ族の長、サヌイと申します……!!」

「長…?あなたが…?」


「はい!!」


タギリは目の前で頭を下げるサヌイと修理されたお社をまじまじと見ると、もう一度不思議そうに尋ねた。


「あなたが新しい長?本当に?」

「はい、そうですが…どうして…?」


「あ、いや…今までの長はみんな怖い顔してお社の修理なんてしてくれたことなかったから…びっくりしちゃって…!!」

「そ…その節は…先代達が申し訳ありませんでした…!!」(本日二度目)



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更に申し訳無さそうに深々と頭を下げるサヌイにタギリは頭を上げるように促すと、またニッコリと嬉しそうに笑った。


「いえ、あなたがお社を直してくれたお陰で私も力が戻って感謝しているんです…頭をお上げ下さい。」

「タギリ様……。」


「タギリでいいのですよ、サヌイ様。」

「わっ…私の方こそサヌイでいいです…タギリ………。」


「ふふ…。」


そう言って照れてうつむくサヌイとタギリはお互いに顔を見合わせると、少し恥ずかしそうに笑いあった。


「あの…ひとつお伺いしても宜しいですか?」

「はっ…はい!!なんなりとどうぞ!!」

「人間はなぜ…体にこのような模様があるのでございますか…?」



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「ああ…これですか。」


タギリはそう尋ねると、不思議そうにサヌイの顔から体にまで続いた刺青をまじまじと眺めた。

サヌイは超至近距離に接近したタギリにタジタジと戸惑いながらも、自分の体に刻み込まれた一面の刺青をなぞった。


「これは私達一族が漁に出る際に大魚に襲われないようにと刻むまじないのようなものです…なので初めからこの模様があるわけではございません。」


「刻むとは…?痛くはないのでございますか!?」

「痛い…痛いですよ、そりゃもう皆痛がって……。」


「皆…?皆とは…島に人間はどのくらい生きているのでございますか?あ…あと、人間はどのように生まれて来るのでございますか?あと…あと…!!」

「ちょっ…ちょ……一つずつお答えしますので…!!」


そう言って食い気味に質問を投げ掛けるタギリにサヌイは少し拍子抜けしたように笑うと、タギリの質問一つ一つを子供に教えるように丁寧に説明した。

一方タギリもそんな優しいサヌイの言葉を一字一句たりとも聞き漏らさぬようにと真剣に聞き入っていた。


「なるほど~…!!見た目こそ似てはいるものの私達と人間は違うもなのですね…!!」

「そのようですね…。」


「不思議です…このように…触れることも出来るというのに。」



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「!?」


そう言うと、タギリはサヌイの頬にふわっと触れた。

真っ白で艶やかな肌に桜色の髪が光に透けたタギリはとても美しくて、女慣れしていないサヌイは顔を真っ赤にして硬直した。


「サヌイはとても温かいのですね。」

「タ…タギリ様……!!」


その瞬間、二人の間を冷たい風が吹き抜けると二人はハッと何かに気付いたように空を見上げた。


「「…雨…降りますね。」」


「「え?」」


思わずがっちりと被った言葉に驚き顔を見合わせると、それがなんだか可笑しくなり二人は頬を緩めた。


「サヌイも天候が読めるのですね!!」

「は…はい、毎日海と空ばかり見て生活してるもので…自然と分かるようになってしまいました。」


「私もです!!来る日も来る日も空ばかり見ていました…私達何だか似ていますね!!」



「…姉様?」

「!!」



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二人が雲行きの怪しい空に腰を上げようとしたその時、奥の岩陰からタギリを呼ぶか細い声が聞こえサヌイはハッとそちらを振り返った。

そこにはタギリより少し幼い風貌の二人の少女が、物陰に隠れるように立っていた。


「…もしかして…三女神様の二人…」

「はい、私の妹のタギツとイチキシマです。」


紹介をされた三女神の二人にまたサヌイは緊張の面持ちで頭を下げると、今度の二人はタギリとは違い警戒心を露わにして顔をしかめた。


「…お姉様、もう戻りましょう。」

「あ…うん…そうね…分かったわ。」


タギツと呼ばれる女神の言葉にタギリが少し寂しそうに頷くと、空気を読んだサヌイもその場を離れようと腰を上げた。


「では…私はそろそろ村に戻ります…タギリ様も、どうぞお元気で……。」

「サヌイ待って!!あの…また明日……お話出来ませんか…?私サヌイに聞きたいこと、まだまだ沢山あるんです!!」


「タギリ様……。」


自分の服の裾をぎゅうっと握り必死な様子でサヌイを見るタギリに、サヌイは微笑んで小さく頷いた。

それを見たタギリも嬉しそうにパアッと明るい表情を見せると、小さくタギツに見えぬように口に指を当てて内緒でね、と笑った。


「じゃあテト、帰ろう。」

「!!」



ー…ザバアアア………!!!


サヌイが海に向かってそう言うと、海からはテトが姿を表しタギリは驚いたように目を丸くした。


「ムナカタ族は龍をしたがえているとは聞いていましたがサヌイはテトとの意思の疎通が可能なのですね…!!」

「お、タギリじゃねぇか珍しい。俺と話すのはこいつだけだよ、サヌイは変人だからな。」


「ひどいよテト…変人って。」

「ふふ…でも確かに、変わってます。」



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タギリとテトの言葉にサヌイがえぇーとふてくされると、タギリは嬉しそうに笑った。


「ではまた明日…日暮れの一刻前にこの浅瀬で。」

「はい…!!」


サヌイはそう言うとタギリと指切りをし島を後にした。

タギリはその姿が見えなくなるまで見送ると、一人秘密の約束を胸に嬉しそうにタギツとイチキシマの元へと戻っていったのだった。


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