15.かけがえのないヒーロー
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ー…バンッ!!!!!!
「警察だ。柿原徹、署までご同行を。」
「なっ……!?」
あわや乱闘になりそうな空気を割って入って来たのは、オタクの通報でかけつけた警察だった。
なんとか逃れようとする柿原を警察が取り押さえると、柿原は気が触れたように笑い始めた。
「ははっ…あははははは!!どうして私がこんな…?有能な人材は私のような人物の下にいるべきなんだ…それをあんな小娘に邪魔されて…!!俺もお前ももう終わりだ!!一生痴女扱いされて好奇の目に晒されているんだなあはははは!!!!」
「貴様…!!!!」
柿原の言葉に怒りを露わにするヒナの前に、それを止めるように孝之助が立ち塞がった。
孝之助は連れて行かれようとする柿原の肩をポンと叩くと、ニヤッと笑った。
「終わったのはお前一人だけだよ、佐奈の動画はネットに流れちゃいない。」
「は…?何を…言ってるんだ…?」
「さっきのはダミーサイトだ。本物のサイトに似せてここのパソコンからはそこに繋がるようにしておいた。
正直ヒナにはバレるだろうと覚悟してたんだけど…人間、冷静じゃなくなると分からないもんだね。」
『え…!?』
「…!!!!」
この事実に驚いたのは柿原とヒナだけではない、当の佐奈が一番驚いていた。驚く佐奈とヒナの肩に九条はポンと手を置き笑うと、事の次第を二人に伝えた。
「佐奈さんがオタクさんに動画を渡してたことを聞いてね…急遽ここの会社のパソコンからは一時的にダミーサイトに繋がるようにしておいたんだ。まさか本当に流させるとは思ってなかったけど…保険かけといて本当に良かったよ…。」
『そう…だったんですね…!!』
「でも正直佐奈さんのその覚悟がなきゃヒナは取り戻せなかったよ、ありがとう。」
九条の見せた笑顔に緊張の糸が切れた佐奈は、へなへなとその場にへたり込んだ。
そして状況を受け入れられずに"何で"とうわ言のように繰り返す柿原に、孝之助は彼にとって更に思いもよらぬ事実を告げた。
「このダミーサイトをたった一晩で作ってくれたのはな、あんたがヒナを得る時に無能だと不当に切った元シーギミックのエンジニア達だよ。」
「え…?」
「彼らの技術はヒナをも騙せる代物だったってことだ、有能な部下を欲していたあんたが一番無能だったってことになるなぁ?
前社長は非常に有能な方だったそうなのに…あ、彼らにはここより数段いい職場を紹介しておいたんで、ご心配なく~。」

「…!!!!」
「…柿原行くぞ。では、南在さん失礼します。」
「ああ、頼むね。」
孝之助の言葉が余程応えたようで、柿原はそれ以上抵抗することも暴言を吐くこともなかった。
黙って警察に連れられた柿原とその部下達の背中を見送ると、孝之助は持っていた電話をオタクに繋げた。
「色々ありがとねオタク君、グッドタイミングだったよ。」
「いえ、皆さんの力になれたのなら何よりです…!!それにこちらも特ダネ頂けたんで…あ、佐奈さんに代わってもらえますか?」
「おう、ちょっと待ってな、佐奈!!」
孝之助から渡された電話に佐奈が出ると、オタクは鼻息荒く佐奈に感動を伝えた。
「佐奈さん!!本当にかっこよかったです…!!佐奈さんの覚悟と勇気…しびれました!!」
『いやあそんな……私はただもう必死だっただけで…』
「そんな美しさと強さを兼ね備えた佐奈さんにこそやっぱり俺のお気に入りのメイド服を着て頂きた…」

『孝之助さん、電話お返しします。』
「お、えらい早いな。オタク何だって?」
『よく聞こえませんでした。』
「……。」
わいわいといつものように話す半年前と何も変わらない、ずっと見たかった顔。
そんな皆を眩しそうに眺めると、ヒナはおもむろに頭を下げた。
「今回は本当にすみませんでした…!!」
「!!」
「…俺のせいでこんな事になって……本当に迷惑を…」
「…ヒーナっ。」
「…?」
謝罪の言葉を遮るような孝之助の呼び声にヒナが顔を上げると、目の前には嬉しそうに笑った四人の姿があった。
『おかえりなさい…ヒナさん………!!』

「…!!!!」
もう、聞くことなんてないと思っていた言葉。
もう、見ることなんて出来ないと思っていた笑顔。
諦めはとっくについていたはずなのに
今はそれが、こんなにも嬉しい。
「………ただいま。」

「じゃあ帰るか…!!これは捨てとくぞ、ヒナ。」
「…はい!!」
孝之助は嬉しそうに頷くヒナを見て、懐にしまっておいた辞表を破り捨てた。
かくして半年に渡るヒナ奪還作戦は、
南在探偵事務所の完全勝利で幕を閉じたのであった…。