14.ヒナの傷跡
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それから丸一年、ヒナは仕事を続け姉は日本の大学に行くことを決めた。
平穏と言えば平穏な日々は続いていたが、それはある日突然に壊されたのだった。
ー…バサッ
「了…通帳のお金…からっぽになってる…。」
「…え…?」
通帳を握りしめ呆然と立ち尽くす姉に、ヒナも言葉を失った。
姉の学費としてヒナが一年かけて貯めていた数百万は一夜にして消えており、二人はその犯人に心当たりがあったのだ。
「親父か……。」
「ごめん了…この通帳に入れた私がバカだった…!!ごめん…本当にごめん‥!!!」
「姉ちゃんのせいじゃないよ…大丈夫、すぐになんとかする。」
「ダメだよ!!これ以上了に無理させたくないの…学費も日本で奨学金でなんとかするし、バイトも自分でするから…」
「…それじゃあ俺は姉ちゃんに何も恩返し出来ない。それは俺が嫌だ。」
「了…。」
ヒナはそう言うと"あてがあるから"とだけ言い、姉を残し家を後にした。
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「実験を受ける…?本気か!?リョウ…!!」
「はい。」
突然施設に現れたヒナの申し出にノアは驚いた。
それはまさかOKの返事が返ってくるとは思ってもみなかった話であったからだ。
「リョウがこの実験に協力してくれるとそれは助かるが…正直リスクの方が高い、理由は何だ?今更金なんて言わないだろうな?」
「…そうです。」
「何でだ…!?今まで貯めてた金はどうした!?まだ足りないって言うのか?」
「…父親に全て盗まれました。姉を自由にしてあげたいです。」
「…!!!」
この一年なにかとヒナの面倒を見てきたノアはヒナの家庭環境の事も熟知しており、思わずかける言葉を失った。
少なからずヒナの事を弟のように思っていたノアは、少しの沈黙の後絞り出すように言った。
「なら金は俺が出してやる…俺が言うのも何だがあの実験はやめとけ…上はお前にって言ってるが命の保証なんて出来たもんじゃねえ、モルモットにされるだけだ…!!!」
この時この施設が国ぐるみで力を入れていた研究、それが脳介機装置、ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)。
脳に直接電極を設置し、脳波でコンピューターや戦闘機を動かすというものであった。
そして、BCIを施した状態で脳波だけでコンピュータやネットワークに侵入し壊すという実験に白羽の矢が立ったのがヒナだったのだ。
「お偉いさん達は信じられない程の資金をこの研究に投資してる、金なら腐るほど貰えるだろう…でも廃人になっちまうかもしれないんだぞ…?」
「特に長生きをしたいと思っているわけでもないです…それでいいです。」
「…一度決めたら覆さないお前の性格を"サムライ"だとか言って茶化してたのが懐かしいよ…今はそれが心底恨めしい。」
「すみません…。」
ヒナのかたくなな決意に折れたノアは、ハアと大きく息を吐き天を仰いだ。
そしてノアも意を決したようにまっすぐヒナを見ると、"ベストを尽くすよ"とだけ伝えたのだった。
それから数週間後、ヒナの通帳には前に貯めていた倍額以上のお金が振り込まれた。
ヒナは姉に実験のことを悟られないように先に姉を日本に向かわせ、一人アメリカに残り様々な実験に協力した。
だがヒナが命がけで行った実験は、かくもあっさりと無情な結末を迎えることとなった。
.........................................
ー…ガタッ……
「失敗…?!」
研究者であるノアは信じられないと言った風に頭を抱えると、もう一人の研究員に詰め寄った。
「何でだ!!指令伝達も不備はないし身体に害も出ていない!!この上ない成功じゃないか!!」
「大方は成功だったけれど…彼の怒りの感情によって、指令が暴発したわ。あれじゃあうちのシステムごと壊しかねない、使えないわ。」
「感情…?暴発……?あいつは元々そんなに怒ったりなんかしない…きっとまだ……」
「ノア、現実を受け入れて、彼は失敗作よ。また次があるわ。」
「つ…次……?」
その残酷で非情な言葉はノアの心に深く深く突き刺さった。
だがこの施設内でその全うで人間らしい反応ができたのは、ノアただ一人だった。
「だいたい装置を使用するたびに頭痛でふらつくなんて十分害は起きている…彼に固執する必要はないわ。」
「リョウは人間だ、モルモットじゃない。こんな簡単に失敗だと切り捨てていいわけがない…そうだ、元に戻してやるわけにはいかないだろうか…!!!あいつはまだ若い…」
「ノア、彼は契約書に同意してこちらもそれ相応のお金を払ってる。この失敗でうちだって多額の損失が出てるの、一々そんな感情移入してもらっては困るわ。」
「分かってる…分かってるよ!!じゃあせめて…あいつをもう自由にしてやってくれ。日本に…帰らせてやってくれ……!!」
「…分かったわ。」
それからまもなくヒナは実験終了を告げられ、経過報告をすることだけを約束し自由の身となった。
ヒナに残された使命は失敗作の行く末、BCIを施したままの存命率を調べる事くらいだった。
「あいつだろ、金欲しさにBCI協力して失敗したのって…頭に機械入れるなんてサイボーグかよ。」
「シーッ!!…ちょっとジャック、聞こえるわよ!!でも私もさすがに出来ないわ…気持ち悪いわよね…。」
「…。」
ー…プルルルルル…ピッ…
「あ…姉ちゃん…?うん、来週には日本に戻るよ……じゃあ。」
そうしてヒナは頭に爆弾と失敗作の烙印を持たされたまま日本へ帰国した。
今から9年前、ヒナが19歳の春だった……。