14.ヒナの傷跡
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ーガチャ…
『おはようございまーす!!…い…和泉さん…?』
翌朝事務所に出勤した佐奈は、事務所の入り口で聞き耳を立てている和泉と出くわした。
佐奈が不思議そうに近づくと、和泉は小さな声で答えた。
「しーっ!!お前声でけえよ!!」
『何を…盗み聞きしてるんですか…?』
「九条が珍しく事務所に来てやがる…あいつやっぱ、ヒナの事なんか知ってるぞ。」
『…え…?!』
和泉の思わぬ言葉に佐奈もドアに耳をくっつけて聞き耳を立てると、中からは確かに九条と孝之助の声が聞こえていた。
「…思いのほか時間がかかってしまってすみません。いくつかのコピーデータは回収しましたが…あの用心深い社長の事だ…まだあると思います。」
「会社のパソコンに保存してあるってのはありえないのか?」
「ヒナを引き入れたんです、そんな事したらあっという間に見つけて消されることくらい分かってるでしょう。」
『…!!!!』
和泉の言った通り、九条はヒナの居場所を知っている。じゃあ、どうして?
沸き上がる疑問を必死に飲み込みながら、佐奈は更にドアの向こうの二人の会話に耳を傾けた。
「にしてもヒナを狙った理由……にわかには信じられませんが…本当なんでしょうか?」
「あいつが頑なに口を割らねんだ、事実なんだろ。俺もあの傷見るまで信じらんなかったよ。」
『……?』
(傷……?)
「もうこんな時間だな…あいつら来ちまうから止めよう。とにかく、この事は変わらず内密で。」
「はい……。」
ー…バンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
二人が秘密であることを確認した途端、堪えきれなくなった佐奈は扉を開けて二人の前に飛び出した。
佐奈は驚く孝之助達に近付くと、涙をこらえ、必死な様相で詰め寄った。
『ヒナさんの事……分かってるんですね…?どうして何も教えてくれないんですか…!?』
「……。」
『そりゃあ私なんて何の役にも立たないかも知れませんが……私だって事務所の仲間じゃないんですか…?みんな……どうして何も言ってくれないんですか…!!』
「今は…まだ話す時期じゃない…ヒナの事は俺達が絶対何とかしてやる。だから…」
「おっさん達は俺らをいっつもガキ扱いしすぎじゃねえのか…?俺らはそんなに信用ならねーかよ。」
「お前ら……。」
佐奈と和泉の必死の気迫に折れた孝之助はハアと一息つくと、"そうだな"と言って笑った。
「お前らも南在探偵事務所の一員だ、俺が悪かったよ…全部話そう。」
「孝之助さん…それは…!!」
「大丈夫だ‥こいつらなら受け止められるよ。特に佐奈…お前には少し辛い事実だが…いいんだな?」
『はい…もちろんです……!!!』
佐奈の心強い返事に孝之助はニッと笑うと、一つのUSBメモリを懐から取出し佐奈に渡した。
『え…これは…?』
「お前の家に付けられてた監視カメラの映像だ。そして、ヒナがここを去った理由だ。」
「監視カメラ…!?どういう意味だよ!?」
状況が理解できないといった様子の佐奈と和泉に、九条が淡々と続けた。
「ヒナをどうしても欲しがってたある企業の社長がヒナをゆする為に仕掛けたんだよ、佐奈さんがヒナの大切な人だって分かった上でね。
ヒナはそのデータが流出されるのを阻止する為に一人その会社に入った。これで大方理解できた?」
『…私の…為…?』
「…なん…だよそれ…十分犯罪じゃねえのかよ!!!」
「そんなの分かってるよ…それでもヒナは佐奈さんの人生をメチャクチャにしたくなかったんだよ。一度流出したら回収は不可能だからって。」
「そん…な…。」
「ちなみに佐奈さんの部屋のカメラは分かってからすぐ…ケーキ持って行った日にヒナの指示で回収した。」
思いもよらなかった、ヒナがここを去った理由。
佐奈は自分が監視カメラで盗撮されていたという事実よりも、ヒナが自分の為を思って事務所を去ったということで、頭が一杯になっていた。
「データは今九条と俺が何とか回収してる所だ。思ったより時間はくってるが、回収出来たらヒナを取り戻す。…ってまあ…そういう手筈のつもりだったんだよ。隠してて悪かったな…。」
『でもどうして…どうして犯罪を犯してまでヒナさんを欲しがるんですか…?確かに凄い人だとは思いますが…おかしくありませんか…?』
「…それは…あいつが他のハッカーとは全く違うからだよ。」
佐奈のもっともな質問に対する孝之助の答えはどこかぼやけていて、佐奈は納得できないという風に首をかしげた。
だがその瞬間、佐奈はヒナがいなくなる直前のヒナの不可解な行動を思い出した。
『ヒナさんの…首……何か関係がありますか…?前にヒナさんが何か言おうとしてくれた事があって……』
「……お前には…話そうとしたんだな…。」
『…え?』
思いもよらなかった佐奈の先回りした言葉に、孝之助は少し驚きながらも嬉しそうな顔で笑った。
そして孝之助は、佐奈の予想もつかなかったような言葉を口にした。
「……"BCI"って知ってるかい?佐奈。」
『B…CI…?』
「"ブレイン・コンピュータ・インタフェース"……あいつの頭にはね、機械が入ってるんだよ。」
『………え?』
これはまだ、ヒナが少年だった頃の話。
数十年前の、遠い遠い、負の記憶。