14.ヒナの傷跡
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ー…ガチャ
「……佐奈!!!!!!」
事務所に帰りついた佐奈を迎えたのは、仁王立ちで待ち構えていた孝之助だった。
「あんな電話繋いできて…俺がど~れ~だ~け心配したと思ってんだこのバカ!!!!」
『も…申し訳…ありませんでした…!!!!』
「全くだ!!ったく…ホント無事で良かったよ…。」
佐奈が襲われた時掛けていた電話に慌てた孝之助は、佐奈が仕事用に持っていたGPSを探知して
佐奈を追って飛び出した和泉に居場所を伝え、助けに向かうように指示していたのだった。
『そういう事だったんですか…どうりで居場所があんな正確に…。』
「孝之助さんものすごい慌てて大変だったんだから、佐奈さんにも見せてあげたかったよ。」
『本当に…勝手した上に、ご心配お掛けしました…。』
そう言ってシュンとした佐奈の頭を孝之助はくしゃくしゃと撫でると、ニッと笑って言った。
「ヒナの事、俺達も調べてみるから心配すんな。」
『……はい…!!!!』
「……。」
だがそれから有力な情報は佐奈の耳に入ることは無く、無情にも一月、また一月と月日は流れていった。
あの日から九条も孝之助も事務所にいる事が少なくなり、ヒナのいなくなった事務所は今までのにぎやかな雰囲気から様変わりしてしまっていた。
佐奈は必死に皆に迷惑をかけまいと普段通り笑顔で過ごし、和泉はそんな佐奈を支えた。
そうして季節は過ぎ去り、ヒナの失った穴を埋められぬまま、半年もの月日が流れていった…。
........................................................
ー…ガチャ
『う~…寒い…戻りました~…。』
「お~お帰り~、佐奈これ見て見て、めっちゃウケる。」
『なんですか~…あ!!これ私見たかったやつです!!』
佐奈はそう言うと事務所で一人電話番で残っていた和泉の隣に腰を下ろした。
孝之助は朝二人に今日の仕事を伝えて外出し、九条はここ数カ月は長期依頼でほとんど顔も見ていない。
二人でいる機会の多くなった和泉と佐奈は、必然的に距離が縮まっていた。
『これスマホでも見れたんですね~!!でも画面ちっちゃくありませんか?パソコンで見ましょうよ。』
「スマホで録ったのってパソコンで見れんの?俺やり方知らね。」
『え~私も詳しくないですけど出来るんじゃ…これってどうするんですかねヒナさん…』
佐奈はそう言いながら無意識にヒナのデスクだった方を向き、ハッと我に返った。
そこにはもうヒナの姿はない、半年も経つというのに自分の中からぬぐえないヒナの存在の大きさに佐奈自身が戸惑っていた。
『あは…ってもういないんでしたね、私ってばバカですね~私多分できますよ、パソコンで見ましょ…』
ー…グッ……
「佐奈!!」
『和泉…さん…?』
必死に笑顔を取り繕う佐奈を抱き締めた和泉は、佐奈を小突いて笑った。
「あのな、無理して笑わなくていいっていつも言ってるだろ。」
『…はい。』
ヒナがいなくなってからの和泉は本当に本当に優しかった。
いつも佐奈を気遣い、笑わせ、励ましてくれていた。
そして和泉は佐奈を前に顔を赤らめて居直ると、改まったように言った。
「あのさ佐奈…俺、お前の事好きだわ…。」
『…え…?』
「……あ、いや…お前がまだヒナの事忘れられないのは分かってんだけど……頭の片隅にでも置いといてくれると…とか…思ったり…だからあの…」
『…和泉さん。』
しどろもどろになりながら必死に想いを伝えた和泉に、佐奈は戸惑いを隠せないながらもニコッと笑った。
『すみません…今はまだ…そう言う事考える余裕が無いんですけど…でも…あの…凄く嬉しいです…!!ありがとうございます!!』
「…………はああああああ!!!良かったーーー!!」
『…へ?』
佐奈の言葉を聞いて、和泉はその場に崩れ落ちた。
だがその顔は落胆ではなく安堵を浮かべたような顔だった。
「ぜってー即撃沈だと思ってたから…!!あはは…やべー…嬉しいわ…。」
『和泉さん…。』
佐奈はそっと和泉に手を伸ばすと、和泉の胸に顔をうずめた。
『いつも本当に…ありがとうございます。和泉さんのお陰でどれだけ救われたか分かりません…。』
「佐奈…襲っていい?」
『ええっ!???』
「あはは!!嘘だよ!!」
和泉は驚く佐奈を引き寄せると、ほっぺたにキスをして嬉しそうに笑った。
この人はきっと何も言わずに私を置いて行ったりしない。
きっとずっと…幸せでいられる…。
きっとヒナさんの事も……忘れられる………。
佐奈はぎゅっと目をつぶると頭の中のヒナの姿を仕舞い込んだ。
時間はずっと進んでいる、佐奈はあの日から止まった時間をゆっくり進めようとしていた…。