13.引きかえに、守りたいもの
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ー…ピンポーン
『はーいっ!!こんな遅くに…誰だろ…。』
帰宅し家でのんびりしていた佐奈が突如鳴ったインターホンの画面を見ると、そこには笑顔で手を振る九条が立っており佐奈は慌てて扉を開けた。
『お疲れ様です九条さん!!どうしたんですか?』
「これ、さっき依頼人からお礼にケーキ沢山貰って一人じゃ食べきれないから…良かったら一緒に食べない?」
『わあ…!!こんなに沢山…いいんですか?どうぞ上がって下さい!!散らかってますけど…!!』
「ありがとう。じゃあ…お邪魔します。」
ー…コポコポコポ…
『コーヒー、ブラックで良かったですか?』
「うん、ありがとう。ごめんね、突然お邪魔しちゃって。」
そう言って申し訳なさそうに笑う九条に佐奈はぶんぶんと顔を横に振り、コーヒーを九条の前に出した。
そして佐奈が出したコーヒーを一口口に運んだ九条は、何かを思い出したかのように佐奈に問いかけた。
「あ…そういえばちょっと前に佐奈さん家で皆で集まったでしょ?その時にピアスとか…落ちてなかった?」
『ピアス…ですか?…どんなのですか?』
「すごく小さい黒いのなんだけど、あの日から無いから多分ここに落としてきちゃったかなと思ってて…ごめんね今更‥。」
『いえいえ…!!どこかにまだ落ちてるかもですしちょっと探してみますね!!』
「…じゃあ、私も探させて貰ってもいいですか?」
佐奈がピアスの行方を追って部屋の隅々に目を凝らしている横で、九条はある別の物を探していた。
そして部屋中をくまなく探しまわっていた九条は数分後目的の"あるもの"を探し出した。
(…あった…。)
それは、この空間に自然に溶け込みながらも異様な違和感を発している超小型の盗撮用カメラ。
九条はそれを佐奈に気付かれないようにポケットにしまうと、何食わぬ顔であるはずもないピアスを探すふりを続けた。
ー…ゴソゴソ
『う~ん‥ないですねえ…。』
「そうですね~…やっぱり別の所で落としたのかもしれませんね…もし出てきたら教えて下さい!!じゃ、ケーキ食べますか♪」
『…はいっ!!』
.........................
ー…コツ…コツ…
佐奈の部屋でケーキを食べた帰り道、九条は浮かない顔で夜風の寒い道で1人立ちつくしていた。
「ヒナ…ちゃんと回収したよ…。」
九条は佐奈の部屋から持ち出した超小型のカメラをポケットから取り出すと、ありったけの憎しみをこめてそれを握りしめた。
平凡な日常と、その中で生まれたささやかな想いを踏みにじるこのちっぽけなカメラ。
さっき見たばかりのヒナの顔と恐らくこれから見なければならない佐奈の顔。
どちらも思い浮かべるだけで、九条は胸がきつく締め付けられた。
............................................................
「盗撮カメラを…取り外す…?」
ただならぬ様子のヒナの口から出た思いもよらぬ頼みに、さすがの九条も眉をひそめた。
「はい、映像の場所から言ってリビングの窓際だと思います…俺は自然にそういう事が出来ないので…どうか…お願いします。」
「ヒナ、本当にこれは佐奈さんに言わなくていい事なの…?相手がやってるのは立派な犯罪だよ、俺が言うのもなんだけど警察に行った方が…」
「警察に行ったのがバレたらあいつらはすぐにでもあの映像を……一度流出したら俺でも回収しきれません。
それに佐奈がこんなこと知ったら絶対にショックを受けます…佐奈にはそんな思いして欲しくない…だから……。」
「ヒナ…。」
そう絞り出したような声で言うヒナを見て、九条は困ったように溜め息をついた。
「…分かった、カメラはすぐにでもばれないように取ってくるよ。でもこれからどうするつもりなの…?ヒナ…。」
真っ暗な事務所に二つ佇んだ影。
月夜に照らされたヒナは、九条が今まで見たことのない辛そうな顔で頭を下げた。
「今までお世話になりました。佐奈の事…どうか宜しくお願いします。」
そう言ってヒナは頭を上げると一度も九条と目を合わせようとしないままその場を離れた。
そして必要最低限の荷物だけをかきあつめると、ヒナはひっそりと事務所から姿を消したのだった。