11.正義の詐欺師
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「…何の真似ですか?」
「あの…私…あなたに謝りたくて…謝って済むとは思っていませんがどうしても…」
「あなたに謝られる筋合いがありません。」
今にも泣きそうな顔で近づいた小春に九条はそう言い放つと、くるりと背を向けた。
「あなたの妹の依頼は仕事ですから受けます、だからもう帰って下さい。」
「…!!」
『く…九条さん…?』
「申し訳ありませんでした…失礼致します…!!!!」
『安懸さんちょ…ちょっと待って下さい!!』
ー…バタバタバタ
涙をこらえながら走り去った小春を佐奈が追いかけると、
部屋に残った孝之助は、動揺を必死に隠し割れたコップの欠片を拾っていた九条に話しかけた。
「やっぱりあの子…安懸の娘だったのか…。」
「はい…苗字を見てまさかとは思いましたが…そのようですね。」
振り返りもせずにコップの欠片を拾う九条に、孝之助はハアと溜め息をついた。
「いい機会だ、一度話してみたらどうだ?あの子と。」
「…親の敵同士、一体何を話すっていうんですか…あの娘も私なんかと話もしたくないでしょう。」
「そうかい?俺にはそんな風には…見えなかったがなぁ…。」
....................................................................
ー…バタバタバタ…
『あのっっ!!!!!』
「えっ……?」
『安懸小春さん…ですよね?』
やっとの思いで小春を捕まえた佐奈は持っていた名刺を小春に渡し、公園のベンチに腰を下ろした。
「女性の探偵の方もいらっしゃったんですね…驚きました…。」
『まあ…たいして役に立たない新人探偵なんですけどね…毎日怒られてばっかりです。』
「ふふ…そうなんですか…。」
小春はそう言うと、目に溜めた涙を拭い佐奈にニコリと笑顔を見せた。
『九条さんに何か話したいことがあったんじゃないんですか…?』
「はい…でも…あの方は私の顔も見たくないのかもしれません…それはそうですよね…。」
状況をよく把握出来ていなかった佐奈は、今の今まで小春は九条の元婚約者なのだろうなどと勝手に思い込んでいた。
だが次の瞬間小春の口から出たのは、それとは全く違う事実だった。
「九条さんのお母様は私の父のせいで死んだのに…謝ったってもうどうにもならないのに謝りたいなんて…虫がよすぎますよね…。」
『‥え?』
小春の言葉を聞いた佐奈はついさっき孝之助から聞いた話を思い出した。
そして、話が全て繋がり佐奈はやっと状況を理解した。
この"安懸小春の父親"が、九条の母親を追いつめ殺した闇金グループの男で
この"小春"こそが九条が自首をするきっかけとなった、男の家族だという事を…。
『でも…という事はあなたのお父さんは九条さんのせいで自殺した…という事になりますけど…それは‥。』
「確かにそうですがそれは父の自業自得だと思っています…父が自殺した後、お恥ずかしい事に私は父の仕事を初めて知ったんです。」
『闇金融…ですか。』
佐奈の言葉に小春は涙をぐっとこらえながら頷いた。
「父の死後、父から法外な金利でお金を回収されていた人のリストが大量に出てきました。
こんなことで集めたお金で自分は生きていたのかと思うと心底情けなくなって…母にも妹にも言えませんでした…。」
リストは数十枚に及び、老若男女さまざまな個人情報が雑然と羅列されていた。
そして小春はそのリストの中で数人の名前に"×印"が付けられていることを発見する。
その印は借金苦に自殺をした者の印で、その中に九条の母親の名前もあった。
九条の母親は夫の借金で自己破産していたにも関わらず、安懸は母を執拗に追い立て死に追いやった。
そしてその後、安懸は取り立てを今度は息子である九条に行おうとしていた事も、安懸の残したメモに書かれていた。
「九条さんのお母様は法にのっとって白旗を挙げられたのに、それをあの男は踏みつけ…お金をとれそうな九条さんに標的を変えようとしていたんです。」
『……。』
佐奈はただただ黙って小春の話を聞き続けた。
そして小春は目に溜まった涙を少しぬぐうと、話の続きを口にした。
「それから私はお亡くなりになった方の住所をたよりに順番にお墓に参らせて頂きました。そこで私は九条さんとお会いしたんです…。」
雨の中、ぼんやりと遠くを見ているように墓前に立ちすくむ九条の姿に、小春は目を奪われた。
九条はそんな小春の姿に気付くとすぐに姿を消し、次に小春が九条の姿を見たのはテレビのニュース番組だった。
「九条さんが闇金ばかりを狙っていた詐欺師だと報道を聞いた時すぐに理由は分かりました。
だから叶うなら一度だけでも謝りたかった……。」
『小春さん……。』
「妹が依頼した件は取り下げて頂いて構いません。
私なんかが九条さんに助けて頂く訳にはいきませんし、騙されたのも自業自得です…ご迷惑をお掛けしました…。」
小春はそう佐奈に告げ深々と頭を下げると、足早にその場を後にした。
その心もとなく寂しげな後姿を見ながら、佐奈は言い知れぬ感情に襲われていた。
一体誰が悪いのだろう。
闇金に手を出した九条の父親?
無理な取り立てをした小春の父親?
息子一人を残して自殺した九条の母親?
その復讐を考えた九条さん?
何も知らず犯罪で得たお金で過ごしていた小春さん?
違う、誰が悪いとか過去ばっかりじゃ堂々巡りなんだ。
きっとあの二人は、前に進まなくちゃいけない。
佐奈はぎゅっと拳を握りしめると何かを決意したように事務所へと向かった。