11.正義の詐欺師
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ー…プルルルルル
『電話…?』
あれから仕事を終えて家に帰り着いた佐奈は、突如鳴り響いた着信音に慌てて鞄の中を漁った。
『はいもしもし、どうしたの?』
佐奈がそう言って笑った電話の相手は、暫く連絡をしていなかった実家の母親だった。
「どうしたのじゃないわよ、電話の一つもよこさんで…元気にしとるの?」
『うん、元気だよ!!いやあ毎日忙しくって…ごめんね…。』
「姉ちゃん次いつ帰ってくるんよ~!?俺がこんなに待っとうのにさ~!!!!!!」
『あはは、佐々も隣にいるの?』
佐々(ササ)は佐奈の一つ年下の弟で、よく双子に間違えられる程佐奈に似ていた。
そして自他共に認める重度のシスコンでもあり、佐奈にいつも付いて回っているような弟であった。
「姉ちゃん、今度帰って来るときはまたすぐ教えてよ!東京は怖い所なんやけこっちで充電せないかん!!!」
『はいはい、分かったから…。お母さんに代わって?』
佐奈に何度も約束よ、と念を押すと、佐々は名残惜しそうに受話器を母に渡した。
「佐々の言う通りよ、近いうちに顔見せにいらっしゃい。そんなに休みもらえない職場とね?」
『いや、そういう訳じゃないんだよ!?寧ろ楽しすぎて休みの日も仕事場に顔だしちゃうくらい…!!(ヒナ目当て)』
佐奈の楽しそうな様子に母はホッと安堵すると共に、チクリチクリと苦言を口にした。
「仕事が楽しいのはいいけど…佐奈もそろそろ結婚についても考えないけん歳やろ?いい人はおるとね?」
「何!?姉ちゃん彼氏おると!?東京のチャラチャラした男なんぞに姉ちゃんはやらんけんな!!!!」
「佐々あんたは黙っときなさい!!!!!!」
『…。』
佐奈が実家になかなか連絡しなかった理由はここにあった。
佐奈の故郷は九州の山に囲まれたとある田舎町。
22歳の佐奈でさえ、結婚結婚子供子供とうるさく言われる古典的な考えを持つ土地柄だった。
『結婚はまだまだ先でいいの、そりゃー私だっていつかはしたいと思ってるんだからそれでいいでしょ!!』
「そ~んな呑気なこと言って…甘い!貰い手がおらんくなったらどうするとね!!」
『い…いるもん!職場だって素敵なひとばっかりだし出会いなんていくらでもあるもん!!』
佐奈はそこまで言うと、ふと今日の九条と孝之助の言葉を思い出した。
そして佐奈は、恐る恐る母に"そのこと"を尋ねたみた。
『ねぇ…たとえばの話なんだけど、私の結婚相手が詐欺の前科のある人だったらどう思う…?もちろんそれは凄く昔の話で、今は更正してるとして!』
佐奈から出た思わぬ言葉に、母は驚き間髪入れずに答えを返した。
「そ…そんなんあんた駄目に決まっとるでしょうが!!!!!!何をバカな事言っとるの!!」
『な…何で!?今は普通に頑張ってるんだよ!?凄く優しくて全然普通の人となんら変わりないんだよ!?』
「…詐欺師は一生詐欺師よ。だいたい前科がある人なんて駄目に決まっとるでしょ!!!!」
『………!?』
母から出た言葉は恐らく子供を思う母の当たり前の言葉。
だが、九条のあの寂しそうな笑顔を目の当たりにしていた佐奈にとっては、重く重くのし掛かる言葉であった。
『ぜ…前科のある人は罪を償ったのに…どうしてそんな風に言われ続けなきゃいけないの…?頑張ってる人もいるのに全ての人をひとくくりにしないでよ…。』
「佐奈…あんたは正義感が強いから、愛情と同情を間違えとるだけよ…真面目に生きてたら普通前科なんてつかんの。だから前科があるって時点でもう性根が腐って………」
『もういい!!!!!!!!!!!なんにも知らないくせにお母さんのバカ!!!!!!!!!!!』
ー…ガンッ!!!!!!!
母の言葉に耐えられなくなった佐奈は、一方的に電話を切って投げ捨てた。
込み上げる怒りと共に、目からは大量の涙があふれ出ていた。
『同情なんかじゃないもん……!!!』
思い出されるのは和泉に九条、そしてヒナの優しい笑顔。
きっと母の言葉も本当で、三人の笑顔も本当なのだ。
ぐちゃぐちゃになった頭の中で、佐奈は最初に孝之助に言われた言葉を思い出していた。
"君は前科のある人間をどう思う?"
確かに三人が過ちを犯したのは間違いないんだろう。
でも、罪を犯した人間なら差別をしても、偏見の目で見てもいいなんて、
駐車違反をした車なら、いくら傷をつけてもいいと言うようなものじゃないか。
母はヒナさんと私が上手くいったとしても同じ言葉を投げかけるのだろうか、
ヒナさんにも、そう、言うのだろうか。
『……。』
ただただ、孝之助の言葉が耳につく。
佐奈は出ない答えをぐるぐる頭の中で探しながら、一晩中一人膝を抱えていた。