10.オタクジャーナリストの憂鬱
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ー…コトッ…
『お茶どうぞ。』
「あ…ありがとうございます!!」
自殺スポットを離れホテルに戻っていた六人は、孝之助の部屋に集まり太田の話に耳を傾けていた。
「僕が調べていたのは警察が裏で癒着しているある組織についてでした…詳しくは話せませんが…警察だけでなく一部の政治家とも繋がりがあるかなりブラックな事をやってる組織です。」
「…ほう。」
「調べると不自然な解決をした事件のほとんどにこの組織が絡んでるんです。でも誰も警察はそのことを認めない。
もっとも末端の警官か知ってるとは思えませんが…もうホント…腐ってますよね…。」
「警察ってのは競争相手のいない独占市場ですからねえ…腐ってもいくでしょう。」
そう素っ気なく答えた九条に、太田は食ってかかるように言った。
「九条誠一さん…ですよね…あなたもこの事を身を持って知っている当事者じゃないんですか…?」
「さあ………そんな昔の事は忘れました。」
『…?』
「…。」
話に全くついていけない佐奈は、黙り込んだ皆の様子に一人戸惑っていた。
九条の過去など何一つ知らないが、いつもと違う九条の表情を見て、佐奈は事の深刻さを理解した。
「あなたが追いつめたかった闇金組織…あなたが身を挺しても警察が動いてくれなかったのは…!!!」
「太田くん。」
「…!?」
「そのことは今はいいよ。話の続きを。」
孝之助に諭され冷静になった太田は、背を向けた九条に頭を下げ、話の続きを話し始めた。
「そんな行き詰った調査を続ける中、僕に協力してくれた警察官に出会ったんです…。正義感の強い…優しくてまっすぐな奴でした。」
「それが…証言した後自殺した警察官か。」
孝之助の言葉に、太田はうっすらと涙を浮かべながら頷いた。
「あいつは内部から色々調べて俺に証言をくれました。警察が好きだからこそ、この状況を変えれるのならばって…でも…それからすぐにあいつは…あいつは……!!!!!」
『太田さん…。』
「あいつを殺したのは警察とその裏にいる人間とそして僕だ…だから…僕は…」
「…死んで償おうと?」
「…くだらない。」
場の空気を叩き割るように九条はそう言い捨てると、鞄の中から取り出した封筒を太田の前に差し出した。
「あなたが死んだ所であいつらに都合がいいだけで報復にも償いにもなりません。すべて無意味になるだけ、その警官の勇気ある行動も、心血注いで完成させたあなたのこの記事も。」
「この記事………何でこれを…?!」
九条が鞄から取り出したのは、太田の上司から預かり、世に出すことの叶わなかった太田の命ともいえる記事だった。
「あなたがたった一人で立ち向かうにはあまりにも闇が大きすぎた。それにあなたはまだ若い。」
「…。」
「……生きて機会を待ちましょう。命を絶った…彼の為にも。」
『そうですよ!!私もお手伝い出来ることがありましたら手伝いますので!!』
「そだな。」
「………はい…!!!」
九条や佐奈の言葉に太田は言葉を詰まらせ、頬を伝う涙を必死に拭いながらに頷いた。
そして太田は何か吹っ切れたようにニッと笑うと、五人に深々ともう一度頭を下げたのだった…。
..........................
ー…バタン
「よ。」
「…孝之助さん。」
太田との話を終えベランダで煙草を吸っていた九条の元に現れた孝之助は、寒そうに座り煙草に火をつけた。
「珍しいじゃん、あんなに熱くなるなんて。」
「…そうですね、どうかしてますね。」
「昔の自分にでも見えたか?」
「……。」
孝之助の問いに一瞬間をおいた九条だったが、すぐにいつもの調子で飄々と答えた。
「私はもっと頭が良かったと思いますけど。」
「…さいですか。」
煙草をふかせながら笑う孝之助に九条は頭を軽く下げると、ガラリと窓を開け騒がしい部屋へと戻っていった。
ー…バタバタバタ!!!!
「それはそうとさあにゃんさあにゃん!!!!!僕が今持ってるイチオシのメイド服、ぜひ着てみて下さいよ~!!!!!」
『いーやーですっっっ!!!!というか何で死にに行く人間がメイド服持参してるんですか!!!??やっぱりディープなメイドオタクなんですね…』
「さっき手伝えるなら何でも手伝うって言ってくれたじゃないっすか~!!僕の心を癒す手伝いお願いします♪」
「てめぇオタク佐奈に触んなボケカス!!!!!!!!!!!!!!」
「もっぺん崖から落とすぞ。」
「え?朝比奈さん!?和泉さん!?いやめてえええ!!!」
温かい部屋でなにやら騒がしくする四人を見て九条は呆れながら、散乱した太田の鞄と荷物に目をやった。
「…ああもう…太田さんこれ鞄ぶちまけてますよー…ったく…。」
九条が太田の鞄を拾い上げると、そこにはさっき九条が渡した太田の記事があった。
それを手に取った九条は、何か思う所があるような顔でじっとそれを見た。
「……。」
もう二度と、この記事が人を殺すことが無いよう。
そう、心の中で祈りながら。
【10】オタクジャーナリストの憂鬱 -END-
6/6ページ