09.ある波乱の休日
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ー…チュンチュン…
『おはようございます~…ふぁああ…あれ?』
「おお、佐奈おはよ~。」
翌朝、別の意味で波乱の夜だったこの男は、さっぱりした頭で事務所に現れた。
『髪切ったんですか?似合いますね!!若干前作の彼と被ってる気がしないでもないですが。』
「絶対言われると思ったわ~!!いや何か昨日酔った勢いで切っちまってたみたいでさ~、朝びっくりして美容室行ったんだよ。この歳で記憶失くす程飲むもんじゃねえな~!!」
『あはは!!本当ですよ~お酒はほどほどにしないとですよっ☆』
「…。」
素知らぬ顔で仕事に取り掛かる九条に挨拶をした佐奈は、事務所のソファーで雑誌を見ながら寝ころんでいた和泉に声をかけた。
『和泉さんおはようございます!!すみません昨日私途中で寝ちゃってて…』
「ん、おう…。」
『…和泉さん?』
どこか気まずそうに返事をする和泉を不思議に思い、佐奈は和泉の顔を覗き込んだ。
『何かあったんですか?』
「!!!!!!おわああああ!!!」
ー…べしっ!!!!!
『痛ぁー!!!!何するんですかぁ!!!!』
「朝からそのまぬけヅラを近づけるんじゃねえバカ佐奈!!!!!!」
『…?』
突如佐奈に顔を近づけられ動揺した和泉は雑誌で佐奈をはたき佐奈のそばから離れた。
佐奈のそばにいるとどうしても昨日の事を思い出してしまう。
不思議そうに立ち去る佐奈の後姿をチラリと見ながら、和泉は自分の唇をつねった。
ー…コンコン
『ヒナさーん…おはようございます…ってわっ!!!!!???』
佐奈がヒナの部屋に入ると、そこにはパソコンで夜通し作業をしていたらしいヒナの姿があった。
『ヒナさんまだ仕事残ってたんですか!?なら昨日言ってくれたらよかったのに…!!』
「…別にただやることなかったからやってただけ。」
『……ヒナさん何か怒ってます…?』
当初の頃に戻ったかのようなヒナの口調に佐奈が恐る恐る尋ねると、ヒナは振り返りもせず何も答えなかった。
『…失礼しました…。』
佐奈がすごすごと諦め部屋を出ようとすると、ヒナが扉の鍵を閉め佐奈を壁に押し付けた。
ー…ガッツ!!!!!
『痛っ…ヒナ…さん…?』
「…酒が弱いならそれなりに飲むべきだ、あんな男ばっかりがいる中で眠り込んで無防備すぎるとは思わないのか。」
『…え?いきなりどうしたんですか…?』
「あんなの襲ってくれと言ってるようなもんだろう。」
突然怖い顔で言い立てるヒナに、佐奈は訳が分からないという顔で戸惑いながら答えた。
『寝てしまったのは…すみません…でも事務所の皆さんですし、そんな…襲うだなんて…。』
「…。」
佐奈の言葉を聞いたヒナは、有無を言わさず佐奈の首筋に舌を這わせ、シャツのボタンを外し胸を掴んだ。
『ヒナさん…!?ヒナさん…ちょ…今仕事中…!!やっ…!!!!』
ー…バッッ!!!!!!!!!
ヒナの手を持ちなんとか押し留めた佐奈は、上がった息を整えながらヒナを見上げた。
『どう…したんですか…?』
「同僚でも男だ、現に今だって簡単に襲われてる。」
『……!!!!それはだって…ヒナさんだからで…………ヒナさんのバカッ!!!!!!!』
佐奈はそこまで言うと言葉を詰まらせ部屋を飛び出した。
1人残されたヒナは脱力したようにソファに倒れ込むと、自分でもどうしたらいいか分からない感情に唇を噛み締めた。
「……。」
あんな事をして、あんな事を言って、傷つけたかったわけじゃない。
昨日の光景が頭から離れなくて
ただ、奪われるのが怖くなった。
この感情の名前も、こういう時に言うべき気の利いた言葉も分からない。
ヒナはこれまで他人と向き合ってこなかった自分自身に心底嫌気がさした。
(…でも。)
ー…ガタンッ
「佐奈、どうしたんだよ?」
ヒナの部屋から涙目で怒って出てきた佐奈に、和泉が心配そうに尋ねた。
『…和泉さん、私昨日眠ってる間に何かしたんですかね…?ヒナさん何か怒ってるみたいで……』
「な…何か…!?そ…そんなの俺が知るかバカ!!!!」
『…和泉さん…?』
明らかに動揺して佐奈の問いをはぐらかした和泉に佐奈が首をかしげていると、後方から大きな音と共に扉が開いた。
ー…バンッ!!!!!!!!!!!!
「ヒナ…?」
『……?』
ー…ガガガガガガガガ ガタン!!!!!
「おいおいおいおいちょ…いきなりなんなんだお前は!俺の机どけるんじゃねえ!!」
突如部屋から出て来たヒナは、部屋に持って入っていたデスクをひっぱり出し、有無を言わせず佐奈のデスクの隣に置いた。
『ヒナ…さん…?』
「どうしたの突然。」
「…作業効率が悪いのでデスクを移動しました。物理的にコンセントの場所と動線を考えた時にここが一番いいのでここにしました。問題ありますか。」
「…問題ないよ、元々ヒナのデスクそこだったしね。」
九条が何か言いたげに少し笑って返事をすると、ヒナは何事もなかったような顔で佐奈の隣で作業を始めた。
(素直に佐奈さんの隣がいいって言えばいいのに…じゃあ昨日邪魔したお詫びでもしとこうかな。)
「和泉、仕事行くよ!!」
「え…ちょ待って俺まだ用事が…」
「いいから早く出るよ!!対象の出勤前に着かなきゃなんだから。」
嫌がる和泉を連れて九条がその場を後にすると、事務所に残された佐奈は少し戸惑いながらヒナの方を見上げた。
『ヒナさん…。』
「さっきは悪かった、ごめん。」
『いえ……でもヒナさん…何か怒ってたんじゃ…私昨日何かしたなら教えて…』
「気にしなくていいし思い出さなくていい。」
『…?』
強制的に質問を遮断され腑に落ちない様子で仕事に取り掛かる佐奈に、ヒナはぼそりと小さな声で続けた。
「あと昼…ここで食べるから。」
『…!!…………はいっ!!!!!』
自分の恋路以外にはとんと鈍感な佐奈と
それを取り囲むどうも不器用な男達。
前途多難だなぁと、全てを知る九条は仕事に向かいながら1人笑っていた。
【09.】ある波乱の休日 -END-
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