07.碧眼のサムライ
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「腹減った…。」
「おい、志願者ならさっさと中に入れ。」
突如塀の傍にいた看守のような男が声をかけると、和泉はけだるく振り返った。
「志願者…?何の…。」
「何って…軍のだよ、志願兵じゃないのか?」
「なにそれ…飯食えんの?」
「はあ?そりゃあ訓練兵の間はこっから出られねえから飯出ねぇと死ぬだろーが。」
「じゃあ入る…。」
そう答えてあっけなく門に近寄る和泉に、男は呆れたように笑った。
「おいおい、そんな半端な覚悟じゃ最初の訓練で泣いて逃げ出すかあっさり殺されるぞ?」
「…いいよそれでも。」
「お前…。」
日本にもここにも自分の居場所はない。
そう諦めた和泉は、もういつどこで死んでもいいと思い、軍本部の敷地に足を踏み入れた。
ー…ギイ…
「……!!」
ドアを開けると、そこにいた強面の男や暗く辛気臭い顔をした男達が一斉に和泉を睨みつけた。
その雰囲気に恐ろしさよりもどこか懐かしさを覚えた和泉はハアと溜め息をついた。
「…。」
(…結局俺の居場所は…こういう物騒なとこなんだな…。)
和泉と同じく外人部隊の軍隊に志願した者はそれぞれに事情を抱えている者も多かった。
政治的弾圧で祖国にいられなくなった者、なんらかの事情で国から逃げて来た者もいた。
それから行われた入隊試験は簡単な筆記試験と面接。
会話に困らない語学力は十分にあり、当時視力が3.5もあった和泉はあっさりと入隊が決まった。
それが終わると初めの三週間で体力検査にテスト、更にそれに合格すると約半年にも及ぶ軍事訓練の毎日が待っていた。
足の皮はめくれ、毎日靴は血まみれになりながら訓練を続けた。
逃げ出す者や、訓練で死傷者が出る事さえも珍しい事ではなかった。
だが和泉は元々の負けず嫌いな性格が功を奏し、この生死の境ギリギリの訓練を何とか乗り切った。
そうして和泉は晴れて正規兵となり、あちこちの戦場をかけずり回ることとなったのだった…ー。
ー…ドドドドドドド
ー…ドンッツ
「おい!!アベル大丈夫か!?」
「ああ、大丈夫…ー」
ー…ドンッツ
「…!!!!!!くっそ…がああああ!!!!!」
ー…パパパパパパパパ…
雨のように降り注ぐ銃弾、ポロポロと一瞬一瞬欠けていく仲間達。
戦いの前線というより、敵陣のど真ん中。和泉たちのチームは四方を敵に囲まれてしまっていた。
「ハア…ハア…今日がどうやら俺の命日みたいだな…もう弾も残り100発しかない。」
「…縁起でもねえこと言うんじゃねぇ…あと少しなはずだ、いざとなったらナイフ一本で応戦するぞ俺は。」
「‥はは!!流石"サムライ"は違うな!!それで最期は腹を切るんだろう?」
「うるせえよ、腹切りなんてしてたまるかバカ。」
とは言ったものの残った仲間は二人のみ。
死亡フラグをへし折りながらここまで来た和泉でも、流石に死を覚悟していた。
外人部隊の兵に捕虜になった時の訓練はなされない。死ぬまで戦い続けるように教え込まれる。
和泉は今まさにそれを実行しようとしていた。
(もう死んでもいいって思ってたのになぁ…なんでこんなに必死なんだ俺は…。)
和泉が銃を構え、敵兵に向けようとした瞬間、またも銃弾の雨が和泉達を直撃した。
ー…ドドドドドドドド!!!!
「…ー!!!!」
ー…ドドドドドドド
和泉は敵に標準を合わせ銃弾を撃ち込み続けた。
視界のはじで先程まで話していた仲間が地に伏すのが見えたが、悲しむ暇も助ける余裕も和泉には無かった。
(あと少し…少しなんだ…!!!)
ー…カチッ
「!?」
突如和泉の銃は動きを止め、何度引き金を引いても手応えはない
弾切れだった。
だが和泉は間髪入れずに手に持っていた手榴弾を投げ、その煙幕に紛れ敵陣に単身飛び込んだ。
ー…ザッ!!!!!!!!
「ああああああああああ!!!!!!!!」
宣言通り和泉は、長脇差のようなナイフ一本で敵を斬り捨て続けた。
斬って斬って斬って
そしてまた斬って
ほとんど和泉は無我夢中で暴れ続けた。
そうして和泉が気が付いた時に辺りに立っているのは、
血まみれの自分自身だけだった…。
ー…ハア…ハア…
「どうか若に外の世界を見せてあげてください…!!!」
「虎…。」
その後、和泉は奇跡的にナイフ一本で生還し、前線は全滅と聞かされていた仲間達は誰もが驚いた。
その様はまさに異様で、和泉の姿を見た者は皆、日本の"侍"のようだったと口にした。
そしてそれから数か月後、
三年の任期を全うし、碧眼の侍と呼ばれた男は軍から姿を消したのだった……。