07.碧眼のサムライ
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それから空港に着いた和泉は、高虎が用意してくれていたパスポートで搭乗手続きを済ませた。
高虎の事が頭から離れず何度も何度も足を止めたが、
このまま戻ってしまったら高虎の覚悟を踏みにじるような気がして、和泉は黙々とフランス行きの飛行機に足を進めた。
そして数時間飛行機に乗りフランスに辿り着いた和泉は、いつも持っていた写真の裏に記載されていた住所だけを頼りに、
母が教えてくれていたフランス語で道を尋ねながらバスを乗り継いでいった。
ー…ザク…ザク…
「この先か……。」
やっとの思いで辿り着いた町で、和泉は母の実家を目指した。
十数年ぶりだ、母は自分を気付いてくれるだろうか。
ここまで会いに来たこと、喜んでくれるだろうか。
そんな喜びと不安が入り混じった複雑な思いで足を進めた和泉の前に、大きな白い家が現れた。
(32,…rue de Passy…ここだ…。)
和泉が緊張でなかなかインターホンを押せずにいると、
突如庭先から楽しそうな笑い声と人影が現れ、和泉はとっさに身を隠した。
「エマ、ナタン、お昼が出来たわよ。」
「母さん!!今日のお昼は何~?」
「ほら、二人とも早く手を洗ってこないと父さんが全部食べちゃうぞ~。」
楽しそうな一家の笑い声が響く中、和泉は一人庭木の陰に立ちつくしていた。
目の前で二人の子供と夫と楽しそうに笑っていたのは、
当時の写真よりもだいぶ歳をとった
自分の母親だったのだ。
「母さん…。」
和泉がポツリとつぶやくと、家の中の母がこちらに気付き、窓から顔を出した。
「何か…ご用でしょうか?」
「…!!」
久しぶりに聞いた母の声、和泉が何と答えていいか分からず躊躇っていると、二人の子供たちが母の手を引いた。
「お母さん早く早く!!」
「どうしたの?お母さんあの人だあれ?」
母は子供たちに優しい笑顔を向けながらちょっとまってねと小さな声で言った。
その様子をぼんやりと見ていた和泉は、あれやこれやと考えた結果、絞り出したような声で言った。
「すみません…間違えました。」
和泉はそう言って頭を下げると、一目散にその家から走り去った。
そうだ、間違えていたんだ。
もうあれから10年以上経ってるっていうのに、どうして昔のまま母さんが待っててくれるなんて思ったんだろう。
名前なんて言わなくたって分かってもらえるなんて思ったんだろう。
きっとあそこで俺だって言ったら、母さんは困った顔をする。
一緒に暮らそうなんて言ったら、きっともっと困らせる。
あの辛い過去を乗り越えて新しい家族と幸せに暮らしているんだ、それでいいじゃないか。
高虎に指を切らせて、こんな遠い国までやってきたのに、このざまだ。
「最悪だな…俺は…。」
和泉はそう呟くと、誰一人として自分を知らない街を歩き続けた。
母の所で暮らすつもりで日本を出たために、そこまで余分にお金も持っていない。
和泉は自分の浅はかさが心底嫌になった。
そうして一日、一日とお金を使い果たした和泉は、フラフラと大きな塀のある建物の前で座り込んだ。