07.碧眼のサムライ
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「よし、明日決行するぞ。」
冴嶋組に引き取られて数年、和泉は冴嶋組の家で成長し18歳になっていた。
「若、抜け出すって…本気ですか…?」
「てめえ若って呼ぶなって何度言ったら分かるんだ虎!!」
冴嶋組に訪れた右も左もわからなかった和泉のボディーガード兼世話係として10年近く和泉の傍にいたのがこの新藤高虎(シンドウ タカトラ)だった。
高虎は和泉よりも6つ年上の冴嶋組組員で、その日もまた和泉の無茶な作戦に付き合わされていた。
「明日みんなが寝静まった時に出ていく。もうこんなとこまっぴらだ。」
「昨日の渋沢達の事でしたら気にされなくても大丈夫です!!私が命に代えてもお守りしますから…ですから…」
「あいつらは俺に消えて欲しいんだろ、俺だってこんな所も組長の座も願い下げだ、利害は一致してる、ほっとけよ!!!」
この時、組内で和泉を組長にしたいと本気で思っていた者は高虎と和泉の祖父である組長だけと言っても過言ではない状況だった。
更には長年冴嶋組を支えていた幹部達の中には和泉を消し、組長の座を奪おうとたくらんでいる者も数多くいた。
「きっと父さんもあいつらに消されたんだ…俺はじじいの勝手でこんなとこで死ぬなんて絶対嫌だ。母さんに会いに行く。」
「若…お母様はもう今はフランスにいらっしゃると…。」
「分かってる!!だからここを出てフランスで暮らすんだ。冴嶋組なんてのも誰も知らない、俺のこの目も目立たない国で!」
「若…。」
言い出したら聞かない和泉の性格を知っていた高虎は、諦めたように溜め息をついた。
「分かりました…では明日…車とパスポートも準備しておきますのでもう勝手にしてください。」
「おう!頼むぞ!!これでフランスまで一気に高飛びだー!!!!」
「…成功すればいいですけどね。」
「おうよ!!意地でも脱走してやらあ!!」
そんな意気揚々な和泉を見ながら、高虎は困ったように笑った。
高虎にとって和泉は冴嶋組次期組長であると同時に、本当の弟のような存在で、
口ではやかましく言っていても、和泉が幸せに暮らせるなら何よりだと高虎は思っていた。
「高虎は…こんな組抜けたいとは思わねぇのかよ……そうだ、一緒に行こうぜ!フランス!!」
そう言って目を輝かせた和泉に高虎は 嬉しそうに微笑み、静かに首を横に振った。
「私は行けません…。どうしようもない人間だった私を拾って今まで面倒をみてくれた冴嶋組に、私は全てを捧げると決めているんです。」
「虎…。」
「それに私はこの世界以外ではもう生きられない。でも若はまだ間に合います、外の世界を見に行って下さい…!!」
高虎の言葉は負け惜しみでも言い訳でもない、自分の生き方に腹をくくった人間の言葉だった。
そんな高虎のまっすぐない思いに和泉もまっすぐ向き合い、深く頷いた。
だが次の日、
事はそう簡単には進まなかった。
ー…ザッ!!!!!!!
「何をしている、和泉。」
「じっ…ジジイ!!!!何でここに…!?」
「組長…!!」
和泉が家を抜け出し車に乗ろうとした先の門に立っていたのは、数人の組員を連れた和泉の祖父だった。
「どけジジイ…俺はもうここから出ていく…!!」
「ふん…馬鹿馬鹿しい。それにしてもその目に髪…和幸を奪ったあの異人の女に益々似てきたな。」
「…お前らが母さんから父さんを奪ったの間違いだろ。そんなに俺が嫌なら別の奴を組長にすればいい話だろ!!」
「お前の血は半分は冴嶋一族のものだ、代々組長は冴嶋組の血筋の者と決まっている。取り押さえろ。」
「!!」
どれだけ息巻いて若と呼ばれようともこの時ただの高校生だった和泉は、あっという間に祖父の一声で取り押さえられてしまった。
「くそっ!!離せ!!離せ!!!」
「連れて行け。」
「…組長!!!!!!」
「…!?」
じたばたと暴れる和泉が驚き後方を見ると、そこには土下座で頭を下げる高虎の姿があった。
「虎…?何してんだよ…!?」
「組長…若を…行かせてあげてはもらえませんでしょうか…!!!!」
「何だと…?」
組長のドスのきいた声に少し言葉を詰まらせながら、高虎は必死に続けた。
「若は幼少の頃よりずっと外の世界を自由に動いたことがほとんどありません…このまま世間知らずなまま組長になるよりも、見分を広げた方が組の為にも…若の為にもなるかと思います…!!」
「虎…。」
「高虎…お前が手引きしたんか。」
「はい。」
「虎…?」
高虎は覚悟を決めたように返事をすると、懐から脇差を取り出した。
「落とし前ならこの新藤高虎がつけさせていただきます。指の一本でも二本でも詰めさせていただきますので、どうか若には寛大なご判断を…!!!!」
「虎!!!!!お前何言ってんだバカ!!!!」
抑えつけられたまま暴れる和泉をよそに、組長は高虎のまっすぐな目を見てニッと笑った。
「…いいだろう。おい、和泉を車に乗せろ。」
「…は?おい!!虎!?虎は関係ねえ!!離せ貴様ら…離せっっ!!!!」
組員は今度は和泉を用意してあった車に押し込むと、高虎を残し車は冴嶋組の家から走り去っていった。
「虎!!虎ああああああ!!!!!!」
和泉が顔を上げ必死にガラス越しに叫ぶと、高虎は一瞬だけ和泉の方を見た。
その顔はとても嬉しそうに笑っていて、
高虎は小さく一度だけ頷くと、組長と共に屋敷の中へと消えていったのだった…。