05.夜蝶の姫君
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ー…ザッ
「る…るなから…離れろ……。」
「!!!!!!!!!!!!」
柱の陰からゆっくり現れたのは、るなを執拗に付け回していた、あのストーカーだった。
ストーカーの男の手には鋭利なサバイバルナイフが握られており、目は完全に理性を失い血走っていた。
「やっと姿を見せやがったか…待ってたぞ……。」
「る…るなが俺に助けてって言ってるんだ…るなは俺の事が好きなのに…お前に携帯も取られてま…毎日見張られて…!!るなを…るなを返せえぇぇぇ!!」
「いっ…和泉ちゃん…!!逃げて!!!!!」
ー…ガッッ!!!!!!!!
男が雄叫びと共にナイフを降り下ろすと、和泉は慣れた様子で男のナイフを蹴り飛ばした。
何が起こったか分からず男がうろたえていると、和泉は赤子の手を捻るように男をあっさり羽交い締めにした。
「は…離せ!!離せぇぇ!!!」
「はいはい。俺を殺りたきゃ近接格闘術でもマスターして来るんだな。」
「す…すごい…。」
ほんの一瞬の出来事に、るなは呆然とその場に立ちすくんでいた。
そして和泉は男の自由を奪ったまま携帯を取り出すと、事務所と警察に連絡をいれたのだった。
.................................
ー…ウー…ウー…
「お、来た来た警察。」
「っ…るな…るな…!!離せ!!」
通報して数分で聞こえてきたパトカーのサイレンをよそに、男はまだ往生際悪く足掻いていた。
そんな男の様子を見た和泉は男を動けないように縛り上げると、わざわざ男を見下すように前に立った。
「そうだお前、最後にいいこと教えてやるよ。」
「…!?」
男が和泉を睨むように見上げると、和泉は近くにいたるなを自分の方に抱き寄せた。
「こいつはなぁ…俺の女なんだよ、でもこいつに別れる権利もねえし自由も認めてねえ…悔しかったら俺をどうにかするんだな、まあお前みたいな弱いバカなクズには無理だろうがなあ!!」
「和泉ちゃん…?何言って…」
「……。」
るなが驚きうろたえていると、男は恨みに満ちた目で和泉を見据えた。
「殺してやる…お前を…殺してやる…!!」
「そうだ。いいか…もう一度言うぞ、るなに付きまとっても無駄だ。こいつを手に入れたきゃあまず"俺"を何とかするこった。忘れんなよ、クズ。」
「和泉ちゃん!!!!!」
ー…バタバタバタ
「警察だ!!動くな!!」
『和泉さん!!るなさん!!』
「お、ちょうど同着だな。」
警察と佐奈、ヒナがるなのマンションに駆けつけるとストーカーの男は警察に身柄を確保され、
和泉への殺人未遂と、るなへのストーキング行為で男はそのまま連行された。
だが男は姿が見えなくなるその最後の最後まで、
和泉に向かって"殺してやる"と呪いにも似た言葉を叫び続けていたのだった…。
「バカだよなあ、あんなこと言ってたら情状酌量も貰えないぜ、あいつ。」
『そんな事より…和泉さん大丈夫なんですか…!?』
「ばーか、俺があんなへなちょこにやられるわけねーだろ…」
ー…バシッ!!!!!!!
「…!!」
『る…るなさん!?』
和泉の傍に駆け寄ったるなは、目いっぱいに涙を溜めたまま、和泉の頬を平手打ちした。
「馬鹿じゃないの…!?あんなこと言ったら…今度は和泉ちゃんが狙われちゃうじゃない…!!!!!刑務所から出てきたらあいつは真っ先に…和泉ちゃんの所に…!!!!」
「……。」
堰を切ったように涙を流するなに、和泉は他人事のように笑いながら言った。
「俺があんな奴にやられるわけねえって。あいつの怒りはこれで俺に向いた、俺が殺られねえ限り、あいつはもうお前の所には現れねえから。」
「現れねえから安心しろって…?自分を囮にして…何が"もっと自分を大切にしろ"よ!!!!それは和泉ちゃんの方じゃない!!!!!」
マンションに響き渡るような声で泣き崩れたるなに和泉は上着をかぶせると、るなを見ないように背を向け静かに答えた。
「俺みたいな戦う事しか脳のない人間の、一番正しい身の使い方だ。今更俺を殺したい奴が一人二人増えたって…何も変わりゃしねえよ。」
「…和泉ちゃん…。」
「…もう帰るぞ!!佐奈、ヒナ!!」
そう言うと、和泉はヒナと共にエレベーターに乗り込み、佐奈は泣き崩れたるなを支え部屋まで連れて行った。
互いを心配するゆえの行動だとわかっているがゆえに歯がゆい思いで唇を噛み締めた佐奈は、ただ黙って二人の背中を見守ることしか出来なかった…。
ー…ウイーン…
「…和泉。」
「何だよ。」
るなの家から帰るエレベーター内の沈黙を破るようにヒナが和泉に話しかけると、和泉は不機嫌そうに返事をした。
「こういうやり方、孝之助さんは許さないと思う。」
「…だろーな。」
分かってる言わんばかりに笑った和泉だったが、すぐに表情を強張らせ、ヒナの方を向かないまま続けた。
「でも…俺はあいつを一生は守ってやれない、これが俺の考えた最善策だ。」
「…そうか。」
真っ暗な空に真っ赤な光が滲む空。
一人、また一人と闇夜に消えていくのを、るなは部屋からただ黙って眺めていた。
もうドアの外に脅威は無いけれど、
ぶっきらぼうに返してくれる声もない。
もう、ぐっすり眠れるようになるはずなのに、
ぽっかり空いた心の隙間だけが埋まらない。
るなは一人和泉の上着を抱きしめたまま涙をぬぐい、
これから毎日訪れるであろう長い長い夜を明かしたのだった…。