05.夜蝶の姫君
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ー…コンコン
「和泉ちゃん、起きてる?今お風呂上がったよ~。」
突如ドア越しから響いたるなの声に、和泉は呆れたように返した。
「あのな、寝てるわけねーだろ。てかそんな事報告しなくていいから早く寝ろよ。」
「いいじゃんたまには。ねえねえドアの前来てよ、ちょっと話したい。」
和泉はハアと溜め息をつくと、張り詰めていた緊張の糸を緩めしぶしぶ言われた通りドアの前に腰を下ろした。
「遅くに帰って入れて貰えない旦那さんに見えるかな?」
「分かってんなら呼ぶな。俺が不審者で通報されるわ。」
和泉の言葉にるなは嬉しそうに笑うと、ドアを挟んで和泉と背中合わせになるように座った。
「和泉ちゃん昼夜逆転しちゃってるんじゃない?大丈夫?」
「全くだ。クマが取れなかったら俺ますます人相悪くなって救えねえからな。」
「あはは!!そうだねぇ~。」
「まあ、さっさと解決させて終わりにしねえとな。」
「………うん……そうだよね。」
ストーカーがいなくなる。それはるなが願ってやまなかった事。ずっとずっと、望んでいたこと。
だが今はそれが嫌だとさえ思う。
ストーカーが捕まれば、こうやって和泉が自分を守ってくれることも無くなる。
るなは込み上げてくる寂しさを紛らわせるように、明るい声で和泉に問いかけた。
「ねえ、和泉ちゃんってどんな子が好きなの?」
「どんなって…。」
「ほら、髪型とか性格とかさ!」
「んー…まあ髪は短めで…性格は明るくて…何でも一途に頑張れる奴がいいなぁ。」
和泉の答えを聞いたるなは一瞬口をつぐみ、自分の長い髪をぎゅっと握りしめた。
そして、絞り出すような小さな声で呟いた。
「…それってさ……。」
「何?」
「ううん…何でもない…。」
るなはそれから少しの間黙り込んでいた。
そして何か意を決したように立ち上がると、玄関の扉を開いた。
ー…ガンッ!!!
「痛っ!!お前ドア突然開けんなよ……は?」
ドアに頭をぶつけた和泉が振り返ると、そこには下着姿にパーカーを羽織っただけのるなが立っていた。
「んなっ…なんつー恰好で出て来てんだよ!!ストーカーに狙われてる自覚あんのかお前は!!!」
「だって和泉ちゃんが…守ってくれるんでしょ…?」
るなはじっと和泉の目を見ると、和泉の手を握った。
「ねえ…一生私を守ってくれるには…いくら払ったらいいの…?」
「お前…何言って…」
「私の事好きにしていいから…ずっと一緒にいてよ…。」
るなはそう言うと、握っていた和泉の手を自分の胸にグッと押し当てた。
突然の思わぬ柔らかい感触。
和泉は一瞬頭が真っ白になり我を忘れそうになったが既のところで踏みとどまり、我に返るなりるなの手を振りほどいた。
「な…何やってんだよお前!!!!!!!!もっと自分を大切にしろ!!!!」
驚き背を向け目を合わせようとしない和泉の背中に、るなは抱き着いた。
「だ…誰にでもやってるんじゃないもん!!和泉ちゃんだから…こんなに安心できるの初めてなの…離れたくないの!!!!」
「る……るな…。」
和泉は少し俯くと、自分に回されたるなの手を無言でほどいた。
「俺は仕事だからやってるだけだ、お前は俺をかいかぶりすぎだ。俺はそんなに…いい人間じゃない。」
「…そんなことない!!和泉ちゃんは優しい…」
「顔のこの傷。」
「…!?」
「真っ当に優しく生きてきた人間の顔に、こんな傷はつかねぇだろうよ。この傷だけじゃない、俺と寝たヤツはもっとひでえもん目にすることになる。」
和泉はそう一言だけ言うと、ニッと笑った。
だがその笑顔はどこか寂しく痛々しく、るなは思わず言葉に詰まってしまった。
「もういいから寝ろ、明日も仕事なんだろ。」
和泉に促されるまま、るなは家の中に押し戻された。
だが、どうしても諦めきれないるなが和泉の手を取ろうとした
その瞬間だった。