05.夜蝶の姫君
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ー…ガチャ
「ただいまあ~…まじ眠ぃ~…ん?」
『…。』
「何事。」
和泉が事務所に戻ると、あからさまに落ち込んだ佐奈が玄関先の椅子でうなだれていた。
『ううう……ヒナさんに謝ろうと思ってたら…寝ちゃってました…。』
「あ~昨日の事か、何アイツ怒ってるわけ?」
『あ、いや…怒ってたら嫌なので謝りたいんです…。』
シュンとする佐奈の様子に、和泉はつっかかるように言った。
「ヒナの事となると必死だな~別にいいじゃん、怒らせとけば。」
『いや…そういう訳にはいきません…仕事仲間ですし…!!』
「ふーん…。ま、いいや。てかお前まじで酒癖悪すぎだろ!!」
『…え!?タ…タクシー乗らないって以外にも…私何かしました!????』
さあっと血の気が引き慌てふためく佐奈に、和泉が仮眠用の布団にくるまりながら笑って言った。
「…俺とヒナにバカバカ連呼して抱き着いてキスしてたぜ。」
『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!??????』
「なーんてな…半分うっそ~。じゃ、おやすみ。」
『え!?嘘!???和泉さん!?半分て!!半分てどこまでが本当なんですか!???和泉さん起きてそこ重要なんですううううう!!!!』
「……。」
............................................................
ー…ガチャ…
「お疲れ様~。」
夜の歌舞伎町。
今日もまたキャバクラでの仕事を終えたるなは、いそいそとドレスを着替え始めた。
「お疲れ~るな何か最近ご機嫌じゃん、どしたの?」
仕事を終えた同僚のキャバ嬢が尋ねると、るなは少し嬉しそうに笑った。
「…久しぶりにゆっくり眠れててさ。」
「あはは、何それ~?」
普通の人にとっては当たり前の事。
だがそれは今のるなにとってはとても特別で幸せな事だった。
「お待たせ、和泉ちゃん!!」
「おう、お疲れ。」
あれから数日、
和泉は毎日るなの迎えに現れては、夜通し玄関先でるなの部屋を見張っていた。
だがストーカーはあれ以来姿を現さず、証拠を抑えることも、現行犯で捕まえることも出来ないままだった。
ー…ガチャ
「家、入ってもいいよ?」
「いーよ、遊びに来てる訳じゃねーし。寝ろ。」
家に着くと、和泉は決まって玄関近くの非常階段に身を隠した。
エントランスに向かうにも近く、人目にもつきにくいこの場所は、監視するにも捕まえるにも非常に都合のいい場所だった。
(あれから4日…このまま現れねぇか、今日くらいに現れるか…どっちかだろうな…。)
和泉がぼんやり考えながら夜食に買ってきたパンを頬張ろうとすると、ポケットの携帯が鳴った。
(ヒナ…?)
ー…ピッ
「おう根暗インテリ、どうした?」
「……PSPって二階から落としたらどうなるんだろ。」
「ああああはいはいごめんなさいヒナさん!!で、何ですか?」
「……多分今日くらいに、接触してくると思う。」
「!!」
突然ヒナは和泉に電話口で犯行予告を告げると、淡々と状況を説明し始めた。
「さっき姫川さんのスマホのバックグラウンドで犯人がなんらかの操作をしてる形跡が出た。多分偽の位置情報を送ってたのも、携帯が他人の手に渡ってる事もバレてる。」
「そっか、来てくれるなら有り難いな。もうこっちは寝不足でたまらねぇんだよ。」
「……一応こっちも二人とも行ける用意はしておく。」
ヒナの言葉に、和泉は何かに気付いたようにつっかかった。
「…"二人"?…佐奈がいんの?」
「ああ、仕事残ってやってる。」
「…そっか。了ー解。」
ー…ピッ
「………。」
ヒナとの電話を切った和泉は、携帯の画面の灯りをぼんやりと眺めていた。
その瞬間和泉の脳裏をかすめたのは落ち込み肩を落としていた佐奈の姿だった。
「謝れるといいな…佐奈。」
和泉はそうポツリと呟くと、食べかけのパンを勢いよく口に詰め込んだ。
ヒナの言葉が正しければこれから来るであろう修羅場とストーカー男、
それらに対抗するために、和泉はぐっと背筋を伸ばし静かにその時を待ったのだった…。